ガパンサスに花束を -ベータ版- サンプル







※シズイザ大学生パラレル
※オフに入りきらなかったネタを2本収録して発行したコピー本でした
※表紙イラスト:こみや様






自宅に戻ってきたら、臨也が玄関先で仁王立ちしていた。
「シズちゃん、勝負!」
「……なんの」
突然の宣戦布告に、俺は状況把握のために沈黙、数秒ののち、逆に疑問を投げかけた。
鞄と紙袋を玄関先に置いて、壁に手を付いて身体を支えながら靴を脱ぐ。その間、臨也はくちびるを引き結んだまま、臨戦態勢を保っているようだった。
帰ってきて第一声がそれかよ、と訝しみながらも、なんの勝負だろうと一応は考えてみる。
ああ、もしかして。
「この前のゲームか?だったらあとにしろ」
先日、臨也が暇つぶしに買ってきたというゲームの相手をさせられぼろ勝ちしてしまったのだ。
あのときの悔しがりようといえば、「シズちゃんのくせに」という実に不合理な言い分でもってネチネチとしばらく言われ続けたほどだったのだ。臨也はあの手の勝負ごとに関しては、とにかく根深くてうんざりするくらいに執拗だ。
「違うよ」
それも悔しいけど、と今思い出したかのように顔をしかめた臨也だったが、それ以上は言及せずに。
代わりに、ウサギスリッパを履いた右足をトントン、と鳴らす。
「それ」
「あ?」
臨也が顎をしゃくってみせる。
視線をたぐれば、行き着く先は、俺の鞄の横に置かれている紙袋。
「いくつ貰ったの」
値踏みするかのように紙袋をじっと見つめた臨也は、「俺よりも多いか?いやいや、そんなわけがない」とブツブツひとりごとを洩らしている。
「……そんなのどうだっていいじゃねえか」
「よくない」
勝負って言っただろ、と捨て台詞を決めた臨也は、踵を返すとパタパタとスリッパを鳴らして奥へと引っ込んでしまった。
おいおい、だから、勝負ってなんだよ。
続いて、はあ、と大きくひとつため息。
本当は持ち帰りたくなかったが、途中で処分するのも人としてどうかと思ったから持ち帰ったわけで、まさか勝負ごとの対象にされようなんて思いもよらなかった。
仕方なく手にした紙袋はさっきよりも重みが増した気がする。
今日は二月十四日。そう、世間でいうバレンタインデーだ。
まさか、俺がそういう対象に含まれるだなんて思いも寄らなかったので、一日中、構内でたびたび声をかけられて純粋に驚いたものだった。
しかも、同じ専攻の顔ぶれだけでなく、中には全然接点もないような女もいて、だけれど、「はい、あげる」なんて気軽に言われては断りようもなく、仕方なく受け取らざるを得なかった。
紙袋は、新羅に「やっぱり静雄くんはモテるね」なんて茶化されつつ、鞄に入り切らずに困っている俺を見かねた門田たちが用意してくれたものだ。
確かに、男としては嬉しくないわけではない。
だけれど、なぜか気が引けてしまうのは、俺にはおおっぴらにできないものの、一応恋人がいるわけであって、そいつのことを思うと気が引けてしまったというわけだ。
恋人とは、言うまでもないが、臨也のことだ。しかも、付き合っているばかりではなく、現在、俺の家でいわゆる同棲中。
臨也との出会いは、後期が始まってすぐの頃。飯をたかりに臨也が俺の家にきたことが始まりだ。その後、なんだかんだと俺の家に居座るようになって、とあることがきっかけで恋人同士に発展したわけだが、そのあたりの事情は割愛することにする。
それはともかくとして、だ。
モテるのは俺ではなく臨也のほうだろう。
ツラだけは綺麗なアイツの噂を構内で聞かない日はないし、女友達だって多い。
つうか、期待してたのは俺だけかよ。
またひとつため息が溢れる。
今日、家に帰ったら用意してくれているのかも、なんて思っていた俺の男心を無惨にも打ち砕くかのような臨也の出迎え。
嫉妬されるならわかる。
いや、もしかしたらそれを期待して持ち帰ったなんて、そんなことは…少しくらいあるかもしれない。
嫉妬するのは数の多さに、じゃねえだろうが、と思ってしまうのは恋人として当然しかるべきなのではないだろうか。
そうはいっても、人の気も知らずよお、なんて胸中で八つ当たりをしながら、いつまでも玄関先で唸っているわけにもいかない。



不機嫌さを全面に押し出しながら、臨也の待つ自室へと向かう。
「ほら、座って」
こたつの定位置に陣取った臨也は、待ちくたびれたとばかりに、バンバンとこたつを叩いて。
「……数なんてどうだっていいだろ」
「俺には大事なことだよ」
臨也は男の矜持がかかってる、なんてくちびるを尖らせながら、傍の紙袋を引き寄せる。
パンパンに膨れている紙袋は、俺の比ではなかった。ダウンコートを脱ぎながらパッと見た感じでは俺よりも多い気がするほどだ。
「……手前もいっぱい貰ってんじゃねえか」
「当たり前だろ」
つん、と顔を持ち上げ、実に可愛らしくないことを言う。それでも、臨也にとっては俺に数で勝ることが重要らしい。
「ひとつずつ並べていって、先になくなったほうが負けだからね」
謎のマイルールを設定した臨也は、早く座れと命令口調だ。
「ったく、ガキかよ」
「何か言った?」
はいはい、といなしながらも仕方なくこたつに入り、臨也に倣って紙袋を引き寄せる。
全く、趣味が悪いよな、と思ったところで臨也が聞き分けるはずもない。
「ひとつめ」
意気込んだ掛け声にあわせて、紙袋をあさり、適当なものを手にしてこたつの上に置く。
臨也が出してきたのは、ピンク色の包装紙に同系色のラッピングがされた可愛らしいもの。手作りのようだ。
「おい、ちょっと待て」
目を見開いた俺が、早速物言いを入れる。だって、これは見逃せない。
「なに」
「それ見るからに本気臭プンプンするじゃねえか」
「うん、告白されたもん」
「な……っ!?」
「はい、次いくよ?」
可愛かったなあ、あの子、断って勿体なかったなあ、なんて言われて、ひとつめですでに甚大なダメージを喰らった俺に構うことはなく、臨也が「はい、ふたつめ」とまた紙袋から取り出す。
断ったならいいか、と少し冷静になったところで、つられるように渋々と取り出して置けば、今度は臨也から品評される。
「シズちゃんだって、それ本気っぽいじゃん」
「はあ?……義理だって」
「どうかなあ…」
少しは嫉妬してくれたのかと思いきや、「いやいや、負けないんだから」とわけのわからない意地を見せた臨也が、みっつめ、と取り出していく。
臨也の前に順々に積み上げられてこたつの上を占拠していく戦利品たちは、ゴディバなどと俺でも知っている高級チョコレート系が中心。どれもこれも臨也への想いがひしひしと伝わってくるのは、日頃の臨也の女に対する扱いがそのまま現れている。
全く何が狙いなのかがわからないまま、たまに罵り合いながらも紙袋の中身は順調に減っていく。
「二十一個め」
「おい、なんだそれ」明らかにチョコではない様相は、梱包されているブランド名からも見て取れる。
「ん?なんだろうねえ?」
臨也が得意げにその長方形の箱を振れば、カタカタと音がする。
「中身、見たい?」
「いらねえ」
「まあ、そんなことは言わずに」
意地悪く微笑んだ臨也が、その箱の包装を解いていく。殊更時間をかけて丁寧に解いていくのは、単純に嫌がらせに違いない。






To be continued...


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