報は1:38


※フィギュ也ネタから …シズイザすぎると聞いて
※ネタバレご注意












顔を合わせなかった日の夜は必ず、といっていいほどに電話がかかってくる。
それは、決まって真夜中の、それも1時台。
普通は寝てるだろ、というこっちの都合を考えてもいやしない。
いや、アイツのことだから狙ってかけてきている。絶対に確信犯だ。
『シーズちゃん!俺!俺だよ!アハッ、目が覚めちゃった?ふふん、ざまあみろ』
いつもいつも、言いたいことだけ言って切られる電話。
内容はたいてい似たようなもので、化け物が人間みたいに睡眠が必要なわけないよね、だとかいう悪口から始まり、今日は自販機二台壊したんだってね、しめて百万くらい借金が増えたね、などと、どこから見てやがったストーカーか手前と言いたくなるものに大きく二分化される。
子供じみた悪戯と言えた。いや、もっと質が悪く、正しくは嫌がらせだ。
だけれど、問題は俺のほうにもあった。
半分寝ぼけ眼をいいことに聞き流せれば楽なものを、臨也の声、というだけで悔しいが目が覚めてしまうのだ。
今晩もまた、ひとことも発せないままに、気が付けば切られていた電話からツーツーと響くそれは、まるで俺を嘲笑うかのように虚しい。
「……クソが」
簡単だ、電話に応じなければこんな思いをせずに済む。
それなのに出てしまうのは、俺が臨也のことが好きだったからだ。
電話、という物理的な距離があるにも関わらず、その声を聞くだけで少しばかり気分が向上する。
馬鹿だよな、わかってる。
もちろん、直接会って、殴り合って、追い詰めて、壁に押さえつけたのをいいことにその甘い匂いを嗅ぎまくれるのが一番いいのだけれど。


そんなことが何度か続けば、臨也の声を聞かなくては眠れなくなった。
腹立たしいことに、最近は電話を待ち構えるようになったくらいだ。
『シーズちゃん!』
臨也の声を聞きながら、明日会えたら、その誘ってやがるのかと思わせる細腰に触ってやろう。
『明日は早出なんだってね、寝坊しちゃえばいいよ』
ブツリ、ツー、ツー。
しねえよクソが、つうか、手前、明日絶対池袋に来いよ?来なければ殺す。
そんな物騒かついろいろとアレなことを考えていれば、今日もまた電話は打ち切られ、しばらく耳に残る臨也の声音を楽しみながら眠りにつく。
それが日課で、俺の睡眠導入剤代わりだった。


だが、すぐにそれだけでは物足りなくなった。
「つうか、抱きてえな…」
好きになれば貪欲になる、初めて耳にしたときは全く意味がわからなかったが、今ならわかる。
昨日、池袋に姿を現した臨也にはまんまと逃げられてしまい、ふわりと甘い匂いだけを残され、唐突に気付いたのだ。
いい加減に限界だ、ということに。
だから、アイツが何を考えてこんなことを続けているかなんてどうだっていいとさえ思えてきて、とにかく今度会ったら犯してやる、俺に思わせぶりな電話をしてくるのが悪いと全ての責任を臨也に擦り付けることにした。
そうだ。
考えてもみろ。
毎日会えるわけじゃねえから、会えない日は必ず電話をしてくるってことはよ。
新羅だって言ってた。
セルティが仕事で居ないときは、電話をして声を聞いて、寂しさを紛らわしているのだ、と。
そうか、アイツ、俺に会えなくて寂しかったのかよ。
…馬鹿だな、最初から素直にそう言っていりゃあ、すぐにでも慰めてやったのによ。


自分の推論が妙に腑に落ちたところで、そろそろか、と携帯を開いた1時38分、応えるようにして携帯が着信を知らせた。
このタイミングでかけてくるとなると、ますます自論に信憑性が出てくる。
今日でダンマリな自分は卒業だ。
そう意気込んで、ノミ蟲、と表示されたそれを口元を歪めながら眺め、ゆっくりと通話ボタンを押す。
「ノミ蟲か」
『…あれぇ、なになに、もしかして待っててくれたの』
俺からの電話、とからかうような声音に、ゴクリと唾を飲み込む。
やっぱ、緊張するよな。
実際に、俺のこと好きなんだったらこの際だからハッキリ言えよ、って突きつけてやるのはよ。
「なあ、臨也」
『……え、何?』
珍しいじゃない、と、電話の向こう、きっと臨也はきょとりとした表情をしているに違いない。
この期に及んで誤魔化すつもりか、上等じゃねえか。
「手前に言いたいことがある」
『……ふうん?今までひとっこともしゃべらなかったのに?』
ま、聞いてあげてもいいよ、言ってみなよ、とどこまでも上から目線の臨也に、眉を吊り上げながらも、うぜえ殺すいやダメだ殺したら触れねえダメだ我慢しろ、と呪文のように繰り返して。
落ち着くためにも、ひとつ、息を吸って。
「おい」
『はいはい?』
「手前…」
『うん』
「俺のこと好きだろ?いい加減白状しやがれ!」
ハァ、と大きく肩で息を吐き出す。
ようやく、言えた。
こんなに緊張したの、初めてかもしんねえ。
対して、臨也からの反応がない。
「……おい、聞いてんのか?」
しばらく待って、催促、それでも臨也からの応えはない。
『ふふ…っ』
すると、不意に鼓膜を震わせるような含み笑いが聞こえてきて。
ようやく得られた臨也からの反応に、一言一句を聞き逃すまい、と携帯を持ち直すてのひらに力が入る。
『ねえねえ』
「おう」
『……シズちゃん、いつ死ぬの?』
「…………」
『ざーんねーん、俺が君のこと好きとかありえないから、いやいやそんなことをずっと言いたかったの、ないない、ないよ、馬鹿じゃないの、とうとう現実と空想の区別もつかなくなっちゃったのかな、うん、もう末期だね、死ぬしかないね、明日くらいかな、命日は明日、はい決まり』
おい、今いつ息しやがった、とまずは突っ込みたいのを我慢して、言われた意味を反芻する。
ほうほう、つまり、俺と心中したいってことか。
そう、即座に考えるくらいには俺も追い詰められていたらしい。
「お望みなら今すぐベッドの上で殺してやんよぉお!!」
だから気が付けば、声を大にしてそんなことを叫んでいたわけなのだが。
『うん、待ってる』
「え、」
『早く、…来てね?』
ブツ、ツー、ツー。
これまで俺を何度も奈落の底に叩きつけた電子音が響く。


「え、え…、おい、今、…待って、る…?って、はぁ?」
俺は混乱の境地に居た。
たっぷり、数分は放心状態だったと思う。
どこか恥ずかしそうに臨也が言った、それは聞き間違いではない、…だろうな。
予想外の臨也の誘い文句に、思わず緩む口元を必死に押さえながら、てのひらでは隠しきれない頬がカッカッと赤く染まっていくのがわかった。
ベッドの上でハメ殺し…。
臨也の痴態を思い描いて、うっかり鼻血が出そうになった。


おいおい臨也、手前、確かに、来い、って言ったよな。


「ああ、クソうぜぇえええええ」
終電はもうない。
だから、新宿までは走っていかなければならないが、全く苦には感じなかった。


静寂に満ちた満天の星空を背負って、目指すは、新宿。






END





フィギュアまでシズイザ公式…。
やられました。
友人とついったで盛り上がったネタでした。
ネタ提供ありがとう!

2012.2.19 up

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