「静雄」認証の話





※ついったで静脈認証を静雄認証と空目したことからフォロワーさんと盛り上がったネタ
※つまり無機物静雄×社員臨也
※静雄の片思い、切ない系ほんのりエロ
※興味をもってくださった方はお進みください













そっと掌を翳すこと数秒。
「認証不可だ」
「……っ」
どこか小馬鹿にしたような低音とともに、本日何回目かのエラー音が鳴り響く。
他の社員はなんでもないかのようにパスしていくのに、臨也だけがすんなりとパスできない。結果、臨也が一番最後尾となってしまった。
機密情報の漏洩を防ぐためにこの新しい静脈認証システムが導入されて約半月。すでに、毎朝の恒例行事となりつつあるから、誰も臨也を助けようとはしない。
いや、そもそも誰も気付かないのだろうか。
この認証システム自体が、意志を持っているということを。
現に、臨也は意図的に足止めをくらっているというのに誰も信じてくれない。波江には可哀相なものでも見るような目で見られ、屈辱感に震えたのも割と最近の話だ。
そして、なぜか臨也だけがパスできないその理由は、初めて掌を触れたそのときに「手前、ふざけんなよ」と言われたことに起因しているようだった。言わずもがな、この認証システムに、だ。
一体何が気に食わないのかと尋ねても一向に口、いや機械だから口ではないが、とにかく教えてもくれない。
ちなみに、こいつの名前は『静雄』というらしい。臨也は、せめてもの皮肉を込めて『シズちゃん』と呼んでいるのだが。
「…なんだよ、つめてえから入れらんねえよ」
「ねえ、シズちゃん。毎朝毎朝いい加減にしてくれないかな」
早く行かないと波江に怒られちゃうんだけど、と嘆息しても、静雄は素知らぬ振りで。
「早くしたいならさっさともう一度手を翳せよ」
「…くそ」
命令口調なのが腹立たしいが、背に腹はかえられない。
臨也が手を翳せば、静雄がまるで掌の静脈をなぞるように絡みついてくる。
「……ん、」
臨也はこの瞬間が苦手だった。触感がリアルなのだ。…静雄に直に触れられているような感覚に襲われてしまうから。
「あ…、」
指先まで丹念にたどられ、ようやく去っていく。
だけれど、臨也は知っていた。静雄がここで引いてはくれない、ということを。
「駄目だな」
案の定、静雄が鼻で笑う。臨也は端正な顔をしかめた。
「……あのさあ」
「手前はどこなら暖かいんだ?ああ、項とかどうだ?」
「……!」
臨也が反論する暇も与えず、静雄は血管太いの通ってるし、いけるかもなあ、なんていかにも嘘くさいことを言う。
「ほんと最低だね、シズちゃん」
「あ?そんなこと言っていいのか…?」
失言だとはわかってはいてもつい口にしてしまうのは臨也の性分だ。悔し紛れに睨みつけてやっても、静雄はそんな臨也をクッとあざ笑うだけで。
「ここは俺が管理してんだからなあ」
わかってんなら従え、と今日もたいそうな横暴ぶりだ。
そうこうしているうちにも指先に絡んでいた静雄は臨也の腕を逆走し、首元へと辿りつく。
「…ぁ、…っ、」
敏感なそこをスルリ、とひと撫でされて首を竦める。
「なんで…っ」
「ああ?」
「なんで俺だけ、…入れてくれないの」
項をゆるゆると撫でられながら、静雄に問い掛ける。
毎朝たまらない。せめて、こんな辱めに似た仕打ちを受けなければいけない理由を知りたいのだ。
「……言ったところでどうしようもねえ。とにかく手前が悪いんだからな」
「なに、言って…」
曖昧にはぐらかされ、揚句の果てに臨也のせいにされても納得できるはずもない。だけれど、何度もいうが、不利なのは臨也のほうだ。
「ほら、時間ないんだろ?入れてほしいなら、今日もちゃんと言ってもらわないとな」
「……死ねよマジで」
機械なんだから死ねなどそんな罵詈雑言も効果がないことくらい承知だ。だから、忌ま忌ましげに顔を背けた臨也は、静雄が舌打ちしたことには気付かないでいた。
「うっせえな、早くしろ」
グイ、と引っ張られたような感覚にバランスを崩した臨也は、図らずとも静雄の元へと倒れ込んでしまう。
「もっとこっち、だ」
「あ…っ、ちょっと…、」
待って、という臨也の制止も虚しく、項を起点に全身をまさぐられ始める。
「…ん、…あっ、はあ…っ」
後方から抱きすくめられているかのように、着衣の隙間から侵入されを乱されていく。
(こ、声…っ)
誰が聞いているかわからない状況に気が付き、慌てて口元を両手で覆ったところで、それは逆効果だった。喜々とした静雄が、ますます深く触れてくる。
「…っ、…っ!」
「ああ、手前の中はあったけえな」
静雄が耳元でクスリと笑い声を零す。静雄の機械音に犯された鼓膜がヒクリ、と震えた。
「…あ、や、…っ、ひ…っ」
静脈を直接這い回られ、支配される恐怖感に全身が総毛立つ。それなのに、唇から零れ落ちるのは甘い声。
(信じられない、信じられない…っ)
そう、認めたくはないが、快感を与えられているのだ。
「今日もいい声で啼くじゃねえか」
「や、…だ、あ、あ…っ」
決定的な刺激は貰えずに、眦に涙が浮かぶ。息は荒ぶり、頬も紅潮していることだろう。もはや、悪態をつく余裕は臨也にはなかった。
「おら、上手におねだりしてみろよ」
出来たら解放してやる、と甘く囁かれて息を呑む。本当に解放してもらえるかなんて疑ったところで意味がない。今の臨也に出来ることは、たったひとつだけだったから。
逡巡は、コクリ、と息を呑み込む刹那だけ。
「……シ、ズちゃ…」
「なんだ?」
だけれど、快楽に邪魔をされてうまく言葉にできない。
催促するように太腿を撫でられたところで、とうとう臨也は竦み上がる身体を必死に支えながら懇願するしかなかった。
「お、お願いだから…入れて…っ」
「…臨也」
最後に名前を呼ばれたところで、身体が一気に崩れ落ち、床にへたりこんでしまった。
「……?」
気が付けば目の前の重厚な扉は開いており、それが全てを物語っていた。
「開けてやったぞ」
「……う、うん」
震える身体を叱咤し、壁伝いに立ち上がった臨也は、はあ、と艶かしくため息をつくとゆっくりと奥へと進む。ふと横目に静雄を見れば、沈黙を保ち続けている。
「ねえ、シズちゃん…」
「……」
問い掛けたところで、臨也もまたそれ以上は口を閉ざす。
望みは叶ったはずなのに。
(…どうしてこんなに切ないの)
触れられた身体はまだほてっている。こんな中途半端に煽った状態で放り出すなんて本当にひどい。
紡ぐべき言葉を探してキュッと唇を噛み締めたところで、静雄がようやく反応した。
「早く行けよ」
「……っ、…人の気も知らないで…!」
最後に言い放った臨也は乱された着衣を片手で掻き寄せながら走りさる。
「…………どっちがだよ」
臨也の姿が消えた後、静雄は悔しげに呟いた。


――どうして俺は機械なんだろう、と。
…臨也が初めて手を翳したあのときから抱えている、もどかしい想い。
機械である静雄は、こんな形でしか臨也に触れられないのだ。


あのふざけた可愛さは反則だろう、と今日もまた舌打ちした静雄は、静かに通常業務に戻るべくシステムを作動させ始めた。
また明日、臨也に触れられることを支えにして。





END








フォロワーさんたちとすごく萌えながら話をしていたら出来上がってしまいました。
無機物書けないよぉふえぇなんて思っていましたがまさかの…。
しかしなんでもシズイザ変換できてしまう…!シズイザすごい!
もう明日から静脈認証が静雄認証にしか見えない。


2011.12.1 up


back





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -