再び、巡り会わんことを。(日影日/パロ)






「もう、あの坊主と会うのは、いかん」

その言葉を父方の口から聞いた飛雄は、カッ、と頭に血が上るのを感じた。
沸き上がる感情を父への罵詈雑言へと変えずに、身体が動くままに家を飛び出る、飛び出る!

(なぜ、あのようなことを、言われなければならないんだ)

走る。人目も気にせずに、夜の街を走る。
後ろから、父の店で雇っている商人たちが自分を追いかける声が聞こえる。

飛雄は裕福な商屋の一人息子だった。
幼い頃から生活には苦労したことがない、苦労している人の気も知らない。父も母も商売で忙しく、親の愛情もろくに知らない。
飛雄は裕福な生活と引き替えに、他人の気持ちがわからない子に育った。
だが、それは数ヶ月前までの話だ。
飛雄は、日向翔陽と名の、貧しい農家の息子とひょんのしたことで出会い、親しくなり、そして、変わった。
翔陽は、暮らしは貧しく、父母は幼い頃に亡くし、服は襤褸布、明日の粟もあるかどうか、そんな毎日をたった一人で過ごす少年だったが、性格は実直で、人の気持ちを考える、心優しい人間だった。
彼に出会って、人の気持ちを学んだ。温かさを学んだ。働くことの大変さ、やりとげることの充足感を学んだ。……人を愛する気持ちを、学んだ。

(なのに、なぜ、父などに、決めつけられなければならない)

父に言われた。

「あの坊主とお前が一緒に居ることで、お前の人間性が疑われる。やめろ」

なぜだ。きらびやかな表面しか見ずに、外見だけで付き合いを選ぶことの方が遥かに人間性に問題があるだろう。

ああ、何も言えなかった自分が憎い。
あんな家二度と帰ってやるものか。

ぐきり。
砂利に足を滑らせ、捻る。

商人たちの声が迫る。

足が痛む。

だが、走る。

「翔陽!!」

息を切らせ、自分の家の戸を勢いよく開けた飛雄を見て、驚いた顔をする翔陽。
飛雄は、その翔陽の顔を見て、気付く。
明らかに最近ついたような傷が、一つ、二つ、三つ……それ以上。

「……おい、その顔、どうした」

「え……あ、いや、なんでもないよ。そんなことより、飛雄はなんでこんな夜中にここに?」

「………あぁ、実は…」

飛雄は洗い浚い、全て話した。
父に言われたこと、それに対して思ったこと。全部。全部。

「……そっか。俺ってやっぱり、そう思われてるのかな」

「やっぱり?というと……」

「いや、別に、何も無い」

「……その傷が関係しているのか」

翔陽の身体がぴくりと震える。

「俺は全て翔陽に話した。だから、お前も話してほしい」

飛雄がまっすぐにそう伝えると、翔陽はぽつりぽつりと言葉を溢し始める。

飛雄と仲良くし始めた頃から、他の長屋の人たちに避けられていたこと。
頑張って育てていた、畑の作物が全て荒らされてしまったこと。
裕福な人間に媚びを売っている、などと罵られて度々暴力をふるわれていたこと。
何度死んでしまおうかと思ったこと。

翔陽も飛雄と同じように、全てを話した。
そうして全て話終わったあと、翔陽の目には涙が浮かんでいた。

そんなの、ただのでっちあげだ。
媚びを売るだとか、そういう関係では一切なかった。
ただ単に、純粋に、初めて気を許せる間柄だったのに。

「ごめん……俺…何も気付けなくて…ごめん」

「ちがっ……おれも……悪かったから」

「悪くない。お前は悪くない。悪いのは、お前の周りの人間と……それと、一番は、俺だ。人の気持ちを考えるだのほざいておいて、一番大切な人の気持ちにも気付けなくて、そんなのって……最低だ」

「ちが…ちがうよ…」

「……好きだ。翔陽。好きだ」

「……おれもだよ」

「好きな人が嫌な目に合うのを見たくない」

「………うん」

「……結ばれないんだ。俺たちは、絶対」

生まれる時代を間違えてしまった。生まれる身分を間違えてしまった。

俺たちは、お互いに、生きてるうちはもう会うことも、関わることも、きっとないだろう。そう感じて、一度だけ。たった一度だけ、誰から始めるともなく、ゆっくりと自分の唇と相手のそれを合わせて、泣いた。


ああ、願わくは、来世で、来世できっと







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そしてタイトルへ繋がる。
なんという尻切れ蜻蛉……
江戸時代パロみたいな感じですかね
実は二人で入水自殺、まで書こうとしたのですが、やめました

この後二人は、どうなっちゃうんだろうなぁ(他人事)



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