微かな光と儚い命:蛍の墓
【フィリエド】








黒い鉄が真上で弾けて赤が散った
灰色に染まった世界の中で、ただ一つ信じ続けた青い髪が地面に叩きつけられた時、俺は真っ白になりながらも敗北を知った

暗い森の中を、右肩にエドガーを支えながら猛然と走る
遠く向こうの方で喧騒が聞こえた
奴らは最後まで追ってくるだろう、なにせ標的はここにいる
捕まれば最後、彼は見せ物にされてしまうだろう、いたぶられ、なじられ、屈辱を味わった後、殺されるのだ
そんな事はさせない

暫く走ると小さな洞窟が現れた
恐らくここら辺の人間が避難の為に作ったのだろう
中に人が居ないのを確認すると、俺は奧へ進んだ









微かに聞こえた水の音が鼓膜を揺らし、エドガーは重い目蓋を開けた

「・・・気分は」
「最悪だ」

皮肉げに笑うエドガーを見て少し安心する

「・・・ここは何処だ」
「洞窟の奥です。幸い水があるので何日かしのげると思います」
「戦況はどうなっている」
「・・・」

俺はゆっくりエドガーの右足を見た
無残にも腿の半分あたりから根こそぎ無くなっている
それが全てを物語っているようだった

彼の右肩にも大きな傷があり、止血くらいではどうにもならない事もよく解った
ならばせめて戦場で散った方が良かったのかもしれないが、彼が倒れた瞬間、頭にあったのはただ彼を戦場から離す事だった

「・・・大丈夫です、仲間がきっと勇敢に戦っています・・・俺達も早く戻りましょう」
「・・・そうだな」

解りやすい嘘に彼は気付いたのか、ゆっくり目蓋を降ろした
それを確認すると、自分が着ていた衣服を彼にかけてやり、近くの岩を背にして、俺も目を瞑る
誰かが来たらすぐに反応できるように頭の一部に神経を集めたまま、浅い眠りについた



淡い光を目蓋の裏に見た気がして飛び起きた
真っ暗な無音の闇の中に、無数の光が舞っている
幻想的でさえあるその光景に敵の姿を感じ、ライトを付けようとした所を、手を捕まれて止められた

「ホタルだ」
「ホタル?」

いつの間にか自分と同じように壁にもたれ掛かっているエドガーは、敵の情報を調べていた時に見つけたらしい、ホタルの事を説明してくれた

音もなく光を出す虫ということ
綺麗な水がある所に住むということ
この国では夏の風物詩として楽しまれること

「あと・・・」

急に言葉を切ったエドガーを不思議に思って横を見れば、青い瞳とぶつかった
恐ろしいほど澄んでおり、思わず肩を掴めば、火が出るんじゃないかと思うくらいに熱かった

このまま蒸発してしまうのではないかと、焦りに駆られて、彼を抱き締めれば抵抗も無く胸に納まる
その軽さに泣きそうになった

「・・・フィリップ」
「・・・俺のポケットには、まだ鉄の玉が入っています。それより、今の貴方の方が軽い」
「・・・」
「それが辛い」

涙を押し殺してそう呟けば、ゆっくりとエドガーの手が背中に回された

ああ、この人はもうすぐ、もっともっと軽くなり、空に帰ってしまうのだろう
俺は彼の脱け殻を抱き、泣き崩れ、自分の無力を嘆くのだろう

繋ぎ止めるように、さらに強く抱き締めれば、少しエドガーが笑って、全ての力を抜いて身体を預けてきた

このまま
このまま一つになりたい


「・・・フィリップ、迷信かもしれないが、ホタルは死ぬ前に一番強く輝くらしい」

じっと見つめる青い瞳の意図を理解して、その薄く開いた唇に口付けた

死ぬなんて言わないで欲しい、いつもの傲慢なほど強い貴方で居て欲しい
そう願って押し当てた唇ははたして彼に通じたのだろうか











再び、目を覚ますと
足元でカシャリと何かが擦れた音がした
目線だけやると、それはホタルで、もう光を放たないそれは、ただの黒い塊としてそこにあった









「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -