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目の前に居る人物に思わず「ゲッ」と声に出してしまう。そうだ、すっかり忘れていた。私は、まだこの人物を倒していなかった。「また会ったな、皐月よ」なんて言うその人に、思わずため息が出てしまう。私達の目の前には、あの平清盛が立っている。この人、遠呂智と組んだのか……。



「皆さん、先に進んでください。ここは私と斑で」



そう言い、私と斑が皆の一歩前に出る。そのことに皆が動揺し、「危険でだ!!」「戦うなら、俺達も」と言ってくれる。その言葉は有り難い。けれど、皆には私に構わず前に進んでほしい。私はニッと笑みを浮かべ、「いやいや、任せてください。これでも私、結構成長してますよ?」と言う。だが、皆はいまだに不安そうな表情だ。



「――…ねえ、早く行こうよ」



そんな中、ナタがそう言った。皆、誰よりも私を心配していたナタがそう言ったことに驚く。しかし、そんな心配性なナタが言ったからこそ、皆「そうだな」「俺達は行こう」と同意してくれた。そのことに安心し、皆に「後は頼みます」と声をかける。私の言葉を聞いた皆は力強く頷き、私達の横を走って通り過ぎて行く。



「……良いのか?」
「良いの。勝てる自信は無いけど、できるだけ自分の手で頑張りたいから」



本当に勝てる自信はない、体力や力勝負では。けれど、これなら……。持っていた銃をしまい、変わりに普通の筆を出す。その筆で、自分の掌に×印を書く。



「――…静まりなさい、籠の中の鳥よ」



清盛に掌をかざしながら言う。言葉を言えば、掌に書いた×印から黒い紐のような何かが出てくる。それは清盛を縛るようにして、次々と清盛の体へ絡んでいく。「なんだと!!?」と清盛が驚いているうちに、その黒い紐は清盛の体にキツく巻かれていき、清盛の身動きをとれなくした。



「攻撃をすると思った? 別にアンタを倒さなくたって、身動きを取れずにすれば先に進めるんだよ」



ニヤリ、と笑う私。フン、私が何もせずに過ごしているとでも思ったか。残念だけど、私のお転婆は天下一品なの。ヘタレの私だって頑張るときは頑張るんだよ。自慢げに笑みを浮かべていると、隣にいる斑が「最近、書庫にこもっていたのは妖術を学ぶせいか……」と呟いた。ふっふっふ、ドヤァ!!!!



「……油断した結果がコレか……」



自らを嘲笑いながら小さく呟く清盛。私をそれを見て、一息つく。さて、これからどうしようか。清盛はもう動けないし……、とりあえず聞きたいことを聞くか。



「あのさ、私の力ってそんなに強いものなの?」



私の言葉に、清盛は私を一度見て瞼を閉じ「無論」と答える。そして、私の力について説明を始める。私の力は妖の邪を祓うことなのだが、どうやら、良心だけを持った妖は私に感謝し、私が言えば私に従うようになるらしい。だから清盛や遠呂智は「私を捕えれば妖を味方にできる」と考えたそうだ。……だとしても、ひとつ気にかかることがある。



「夏目はどうなの? きっと、私より夏目の方が強いよ」
「貴殿に聞くまで、夏目という存在を知らなかった。貴殿を見つけることが出来たのは、貴殿が異様な存在であった故な」



なるほど。私は違う世界から夏目の世界に行ったけど、夏目は夏目世界にずっと居たんだもんね。清盛にとっては私は他の人と決定的な違いがある異様な存在なわけだ。それなら辻褄が合う。



「正直、嘆くと思っておった。戦で溢れ返っている世界だ。帰りたいと嘆いている隙を狙い、攫おうとした」
「……確かに、最初は不安だったよ。いきなり槍突きつけられるし、めっちゃ怖かった。でもね、たくさんの人達に会ってそれなりに楽しんでたんだよ」



自然と頬が緩む。……なんだかんだ言って、この世界も好きだ。皆と出会って、皆と仲良くなれたこの世界が、好きなんだ。だから、ほんのちょっとだけ、私をこの世界に誘った清盛にも感謝している。本人には言えないけれど。



「でも……、皆と過ごす楽しい時間は、もうすぐで終わり」



フッと笑って、空を見上げる。相変わらず、先程から曇った空が広がっている。この戦が終わっても、”ずっと一緒にいたい”だなんてそんな望み、駄目だよね……?



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