38


妖になりつつあった幽霊の声が、逃げ延びた今でも耳にこびり付く。低く恐ろしくおぞましい声だった。今日の夢に出てきそうで怖い。でも先程の奴は追ってこれなかったようで、本拠点に戻った私達は、宴を始めた。



「……なんかよォ……、皐月見ると安心するよなー」



三成さん、清正さん、正則さんと宴で出た料理を食べる。どれも美味しいものばかりで、私は料理に夢中だ。その時、正則さんが急にそんなこと言った。このリーゼント頭はどうしたっていうんだ、と思いつつ食べ物を食べる手を止め、眉間に皺を寄せながら正則さんを見る。



「馬鹿にも春が来たのか?」
「ちっげぇーよ!!」



清正さんの言葉に、お酒を飲んで酔っている正則さんが大袈裟に反抗する。そして、三成さんが私の顔をまじまじと見る。なんだなんだ、と見返すと「……、別にコイツを見ても安心することはないが?」と首を傾げた。ちくしょう、女顔め。



「……今失礼なこと思わなかったか?」
「いえ何も」



勘の鋭いお人だ。



「なんつーかさ、ここの女って露出度高くね?」



正則さんの言葉に、私は「確かに」と呟く。けれど、清正さんは「あ? 普通だろ」とケロッとした表情で言った。その瞬間、清正さんを見る三成さんの目が冷たくなったのは気にしないでおこう。



「皐月は全然露出してないから、なんか話しかけやすいんだよなァ」



照れくさかったのか、「へへっ」と笑う正則さん。そう言ってくれると、なんだか有り難い。照れ隠しに「お粗末な肌は見せられませんからね」と言う。まあ、本当のことなんだけど。元から綺麗な肌じゃなかったのに、最近では戦が多くて傷が増えてきたのもあるし。



「それにしたって肌、隠しすぎじゃないか? おねね様みたいに出せばいいものを」
「ねねさんは異例ですよ」



清正さんの言葉に、遠い目をしながら答える。あの人は本当に露出度が高い。あれじゃまるで、スクール水着+鎧+その他、だ。……ねねさん、あの格好でよく襲われないな……。襲われそうになっても強いから大丈夫なんだろうな、きっと。尊敬するわ。



「的場さんに言われたんですよ。好きな人以外にはあまり肌を見せちゃいけない、って」
「正論だな。余程、お前のことを心配してると見える」



三成さんの言葉に、私は「へへっ」と笑みを浮かべる。的場さんが心配だなんて。なんか、凄く凄く嬉しい。そっか、ちゃんと私のことを心配してくれたんだ。



「なあ、皐月っ!! 未来と今じゃどう違うんだ?」
「え、難しいことを聞きますね。私、説明下手なんですけど」
「いいから、早く話せって!!」



今の正則さんは誰彼かまわず絡む酔っぱらいだ。私は「そうですねえ……」と顎に手を当てて未来と今との違いを見つける。急に言われても、あまりちゃんとした説明は出来ないから大まかな違いだけで良いだろうか。そうじゃないと私が混乱してしまう。「え、と、まず、交通手段が増えました」と言う私の言葉に、三成さんが興味深そうに「徒歩や馬以外にもあるのか?」と聞いてくる。私は「はい」と頷く。そうだな、今思いつく限りの未来の乗り物は……、



「馬より速い車やバイクや電車とか、空を飛ぶ飛行機とかヘリコプターとか。あ、全部鉄でできてます」
「空を飛ぶ鉄なんて存在するわきゃねぇだろうがぁあああ!!!!」



私の言葉のどこに怒ったのかは分からないが、正則さんが立ち上がってそう怒鳴った。「えええええ!!?」と驚きで声をあげる私。本当のことを言ってるのに何故怒鳴られにゃならんのだ。なんだコレ。なんか納得いかん。思わずムスッとすると、三成さんが「落ち着け馬鹿」と正則さんに言う。



「で、他には何か凄い物はあるのか?」
「えっと、情報収集とか計算とか何でもできるカラクリのパソコンとか、」
「そんな頭の良いカラクリがあるわけないだろクズがッ!!!!」



説明している途中、今度は三成さんがそう怒鳴った。「えええええ!!?」と驚きながら三成さんを見ると、三成さんの頬はほんのり赤く染まっている。もしかして酒で酔ってしまったのだろうか。確かに三成さんは酒に弱そうだけれど、なにも怒鳴らなくたって……。呆れながら「他は?」と聞く清正さんに、「そうですねぇ……」と他に違いはないか思い出す。



「清正さんが好きそうなのは、人の写真を等身大に拡大できる印刷とか、ですかね……」
「それはつまりおねね様の等身大写真を作って自室に飾れるってことかァァアアア!!?」
「っヤダ何この三人恐い!!!!」




 ***




あの三人組から逃げ出した私は、相談相手である姜維さんの元へと来た。本当はかぐやかナタ、もしくは田沼の元へ行きたかったのだが、かぐやは太公望さんとピンクオーラを出していて、ナタは斑と一緒に威嚇し合っていた。解せぬ。田沼にいたっては、おじさん連中から絡まれていて近付けない状態。
姜維さんのところは意外とのんびりとしていた。姜維さんの他にも、元就さん、夏候覇さん、凌統さん、甘寧さんが居る。正直、凌統さんと甘寧さんが喧嘩すると思っていたが、他の三人がストッパー役になっているのか、和気あいあいと話している。



「皐月殿、肉まんどうですか?」
「あ、いただきますっ!」



快く私を輪の中に入れてくれた姜維さん達はそれぞれ宴を楽しんでいる。姜維さんから肉まんを受け取り、早速肉まんを食べる。もぐもぐ、と噛むと口いっぱいに味が広がる。凄く美味しい。



「皐月、こっちの春巻きと八宝菜も美味いぞ!!」
「春巻き!! 八宝菜!! いただきます!!」



夏侯覇さんから春巻きと八宝菜を頂く。「わあっ」と肉まんを片手に持ちながら、空いている手で箸を持って春巻きを一口食べる。この春巻きも美味しい。次に八宝菜も食べる。うむ、この八宝菜も美味。と、その時、元就さんがニコニコしながら茶碗蒸しを差し出してきた。



「皐月殿、こっちの茶碗蒸しもなかなかだよ」
「茶碗蒸し、久しぶりです! いただきます!!」
「この金平も美味しそうだなあ」
「本当だ!! いただきます!!」
「あ、私の食べ残しなんだけど、もう食べれないから変わりに食べてくれないかい?」
「良いんですかっ!!? いただきます!!」



(アレ、餌付けだよな……。 by.甘寧)
(元就殿、ありゃ完全に楽しんでるね。 by.凌統)
(皐月は気付いてないし。 by.夏侯覇)
(天然ですね。 by.姜維)



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