26

「此処が、夏目君の家……」
「本当は藤原さんの家だけどな」



玄関の前で家を眺める橘さん。藤原家の家は、少し和風っぽいから何か懐かしんでいるのかもしれない。ずっと家を眺めている橘さんに「何をグズグズしているのだ」と声をかけると、ニャンコ先生は一人でさっさと玄関を開けて中に入ってしまった。橘さんに「入ろうか」と声をかけて、俺も中に入る。続いて、橘さんも家の中に入った。



「おかえり、貴志。……その女の子は……?」



あ、滋さん。調度廊下を歩いていたのか、廊下から此方を見る滋さんは橘さんを見て目を丸くしている。相当驚いているようだ。彼女の名前と事情を説明し、「ここに置いていただけたら……」と言うが、さすがに図々しいだろうと思い、最後は自信な下げに言ってしまった。そんな俺を気にすることなく、滋さんは橘さんに目を向ける。「本当なのかい?」と問いかける滋さんに、橘さんは緊張しながら頷く。



「あ、の……、迷惑だったら、出て行くので……」



不安そうな橘さんは、そう言って俯いてしまった。だが、滋さんは優しく笑って橘さんの頭に、ポンッ、と手を置いた。「え」と声を漏らして滋さんを見る橘さん。



「私は構わないよ。子供が増えることは、喜ばしいことだ」



そう微笑む滋さん。それはつまり、良いってこと。橘さんは「えっ」と声をもらしながら、驚いた表情のまま俺へと顔を向ける。俺は嬉しさのあまり笑みを浮かべながら橘さんを見る。すると、橘さんはぱあっと笑顔になった。



「滋さーん? 貴志君帰ってきたのー?」



遠くから塔子さんがした。その声は段々と近づいてくる。そして、ひょこっとダイニング部屋から顔を出す塔子さん。塔子さんは橘さんを見た瞬間「た、貴志君に彼女が……!!?」と自分の事のように顔を赤くして喜ぶ塔子さん。慌てて「ち、違いますから!!」と否定し、先程と同じように橘さんのことを説明する。すると、「あらまあ、そうだったの?」とキョトンとする塔子さん。だが、すぐに笑顔になって、「伊織ちゃん、よろしくね?」と優しく橘さんに言った。橘さんは戸惑いながらも照れくさそうに「は、はいっ!!」と微笑む。俺はそんな橘さんを見て、秘かに微笑んだ。



「あ、橘さん、お腹空いてるか?」
「え? あ、うん、ちょっとだけ」



俺の問いに、お腹を軽く擦りながら頷く橘さん。もう七時だ。お腹が空いてもおかしくない時間帯。俺自身も「お腹すいたな」と思っていると、塔子さんが「あら? 貴志君、伊織ちゃんのこと苗字で呼んでるの?」と首を傾げた。頷けば、「駄目駄目!! これから一緒に暮らすのに!!」と大きな声で言われてしまった。



「伊織ちゃんは貴志君のことなんて呼んでるの?」
「わ、私も苗字で……」
「あら!! じゃあ二人とも、これからはお互いのこと名前で呼びなさい!! ねっ?」



ニコニコと人の良さそうな微笑みでそう言う塔子さん。……そう言われても、俺は同い年の女の子を名前で呼んだことが無い。どうしても、慣れないのだ。お互いに照れて口をもごもごしていると、



「えっと、じゃあ……、貴志」



橘さんが俺よりも先に、俺の名前を呼んだ。その事実に、ぶわっと顔が熱くなるのを感じる。そうこうしている間に、塔子さんに「ほら、貴志君も早く!!」と急かされる。



「……伊織……」



実際に声に出していうのは恥ずかしいもので、俺は顔を赤くしながらそう言った。伊織も恥ずかしいのか、照れ笑いをしている。塔子さんと滋さんは、そんな俺と伊織を見て、「若いわねえ」「青春だな」と微笑んでいた。……は、恥ずかしい……。



「さて、貴志をからかうことができたし、夕ご飯食べるか」
「ええ、そうね」



仲良く奥に行ってしまう滋さんと塔子さん。俺と伊織はお互い何も言えずに立ち尽くしていたが、ニャンコ先生が動き出したため、一緒に行くことにした。俺がこんなに初心だったなんて知らなかった……。


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