24

とりあえず、洞窟のような所に隠れることにした俺と女の子。改めて、俺は女の子の格好を見る。肩くらいまでの黒髪に、少し幼い顔立ち。でも可愛らしく、着物姿がよく似合っている。女の子自ら「橘伊織」と名乗ってはいないものの、あの妖の言い方からすると、この子が「橘伊織」だということに間違いはなさそうだ。



「あの、此処は何処なんでしょうか……?」



不安そうな表情で聞く女の子。
そうだな……、この子は本当に橘伊織なのだから、平成に来て混乱してもおかしくはない。けど、どう説明しようか。いきなり「君は過去から来てしまったのかもしれない」とか言っても、余計に混乱するだけだが……、嘘を言っても仕方ない。ここは、正直に言うべきだろうか。



「此処は、平成という時代。幕末時代から百年程経った後の日本だ」



俺の言葉に、女の子は目を丸くして驚いている。急に違う土地、違う時代に来て、相当混乱するだろう。女の子は信じ難そうに俺から視線を逸らし、俯いてしまう。ぎゅっと拳を作る手は震えている。



「君、帰れる所は? って、あるはずないか……」
「はい……。ごめんなさい、迷惑をかけて……」
「謝る必要なんて無いよ。君は、俺を助けてくれた」



女の子を安心させるように、俺は女の子に笑いかける。すると、女の子も少し微笑んだ。良かった、ちょっとは不安を紛らわせることができただろうか。「帰る所が無いなら、俺の家に来るか? 俺も居候の身だけど」そう苦笑すると、女の子は「でも、迷惑になるんじゃ」とためらった。



「大丈夫。滋さんも塔子さんも優しいから」
「あの、迷惑だったらすぐに出て行くので……」
「そんな。女の子を一人にしておけないよ」



さっきの妖も出てくるかもしれないし。
真剣な表情で言う俺に、女の子は困ったように「えっと……」と戸惑う。しかし、この子もこの先のことを考えると何も浮かばないらしく「では、あの、お願いします」と俺に軽く頭を下げた。この女の子を見ていると、何故か守りたくなる気持ちが膨らむ。その違和感に気づきつつも、俺は知らぬふりをする。



「そういえば、まだ名前を言っていなかったな。俺は夏目貴志」
「私は…――、」
「橘伊織さん、だろ?」
「!! ……あ、そっか。さっき言ってましたもんね」
「ああ。あの妖が名前を言ってたから、覚えた」



俺が自慢げにそう言うと、橘さんは「そっか」と呟いて小さく笑った。その笑みにつられ、俺も笑みを浮かべる。「俺には敬語を使わないでくれ」と言うと、案の定彼女はためらう。「俺がそうしたいんだ」と後押しすれば、頷いた後、「改めてよろしく」と笑う橘さん。その瞬間、俺の胸が高鳴った気がした。初めて感じる鼓動に、俺は首を傾げる。その時、橘さんが「どうしたの?」と聞いてきたけれど、俺は「なんでもない」と言って誤魔化した。



「これから、どうしよっか……。このまま出て妖に会っても嫌だし……」
「ああ、なんとかして出ないと……」



俺の言葉に、橘さんが自分の膝に顔を埋める。やっぱり、まだ不安みたいだ。……しっかりしないと。俺が、橘さんを守るんだ。


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