こんにちは、お嬢さん
女なんて、って思ったことは何度もある。
男に比べたら力が無いし、見下してたんだろうな、俺。その意識が変わったわけではないと思うが、昔よりはいくらか丸くなった気がする。まあ10代の頃は尖ってたしなあ……。学校では優秀って言われてたけど、卒業して本当に忍になってからは、周りに優秀な忍がたくさん居ること思い知らされたし……。厳しい上司達に揉みくちゃにされながらも、最近では上司に褒められることが多くなった。根を上げなかった俺を、誰か褒め称えてくれませんかね。



「……あっ、」



疲れている体に鞭打って、任務の為団子屋で働いていると、店の前を通った女が呟くように声を上げた。どうかしたのだろうか。様子を伺っていると、女は地面に落ちている風呂敷を手に取り、砂を手で払った。そして、辺りをキョロキョロと見渡す。その瞬間、女に視線を向けていた俺と女の視線が交わった。



「……あの、これ」



少し戸惑った様子で、風呂敷を差し出しながら言う女。その風呂敷はどうやら今俺が働いている店のものだったようで、近くにいた店長が「あ、それうちの!! 悪かったなあ」と言いながら、風呂敷を受け取った。女は「いえ」と笑みを浮かべる。……あ、ヤバい、タイプだ。



「なあ、俺とお茶しない?」
「……はっ?」



女の腰に手を回してそう言うと、女も近くにいた店長も唖然とした。ちょ、店長あっち行ってて。店長を見ると、店長はハッとした表情を浮かべ、そそくさと店の奥に入って行った。これで良し。女の顔を見ると、女は驚きの表情で俺を見ていた。さて、どう事を運ぼうか。ニコニコと笑みを浮かべている俺とは違い、女は引き気味だ。



「あの、私そういうのは、」
「えっ、ちょっとお茶するだけだって。あ、このお店でどう?」
「いや、だからそういうのは、」
「そういや名前は? 俺、名前ってんだ」
「聞けっての私の話をっ!!」



ありゃ、怒っちゃった。俺を睨みつける女は、腰に回している俺の手を無理矢理剥がし、捨てるように乱暴に放った。酷いな。でも、なかなか面白い女かもしれない。今までの女は、戸惑いながらもまんざらでもなかったのかホイホイついてくるのが多かった。いや、俺がそんな女を選びがちだったのか? どちらにせよ、この女は俺のタイプだ。お近づきになりたい。



「君どんな男が好き?」
「少なくとも貴方みたいな人ではないですけど何か」



……あー、そういや俺って優秀だけど女の扱いは下手だって学校では言われてたなあ。今その言葉が胸に深く突き刺さるわ。睨みつけている女は、俺の方が身長が高いせいか自然と上目使いになっていて、ぶっちゃけ怖くはない。むしろ可愛い。……ハッ、もしかして、



「俺の気を引こうとわざと冷たい態度を取ってるとか!!?」
「何なのそのポジティブ思考!!?」



おや、違うみたいだ。キョトンとする俺の表情を見て、女は呆れたのかげんなりした表情で溜め息をついた。おっと、こうしてはいられない。任務なんて放って、俺は女にお茶を用意した。「はい」と差し出すけど、女は戸惑った表情を見せ、一向に受け取ろうとしない。無理矢理手に持たせると、落としてはいけないと思ったのか、今度はちゃんと受け取ってくれた。



「で、名前は?」
「……、北石、照代」



ズイッと顔を近づけたのが効いたのか、女は顔を引かせながらも小さく言った。きたいし、てるよ。それが、この女の名前か。なるほど。照代、照代、照代。覚える為、何度も名前を頭の中で連呼する。よし、覚えた。



「照代、これからよろしくな!!」



ニッと笑顔で言うと、照代は驚いた表情を見せた。しかし、すぐに俯き加減で「もう会わないかもしれないのに」と呟き、お茶を啜った。顔はここからでは暗くてよく見えないが、出ている耳が赤く染まっていて、照れているのだと気付く。ふむ、そんな反応も出来るのか。



「また会えるって。会えなくても、俺が探して見つけ出すし」



そう言うと、照代は困ったように「そう」と一言言い、豪快にお茶を飲みほした。そして、空になった湯呑みを俺に無理矢理手渡すと、背中を向けて歩き出してしまう。ちょっ。慌てて呼び止めようとすると、突然、立ち止まった照代が振り返って俺を見た。



「落とせるもんなら落としてみなさい。私は軽くないわよ」



ニッと白い歯を見せて笑う照代。初めて見る笑顔に驚き、何も言えずにいると、照代は今度こそ本当に歩いて行ってしまった。照代の後ろ姿を見えなくなるまで見続け、見えなくなった瞬間、自分の顔が熱くなっていることに気づく。
……、これは、プロ忍失格、か……?

end
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