変魂if | ナノ

『その後 1/4』


「あの時、何故反論しなかったんですの?」
「……、裏切ったのは事実なんで」
「まあ。それでは人形みたいですわ」



曹丕様達討伐軍の陣地となっている場所に着いた。
曹丕様、石田三成、陸遜の三人は、着いて早々戦の報告へと行ってしまった。一緒に残ったシン姫様との会話は、心が痛む内容。シン姫様の言葉に「人形……」と思わず呟く。今の私は、第三者から見れば人形なのか。



「いえ、人形は違いますわね。主人に怒られた犬、かしら」



意外にも、訂正はすぐに入った。……、犬? シン姫様を見ると、何やら意味深な笑みを浮かべられた。確かに、素戔嗚様は今では私の主。そして私は素戔嗚様に従う、いわば部下だ。シン姫様の目には、私は忠犬に映っているのだろうか。……そんなに忠犬でもないと思うんだけどな。
そんなことを思っていると、シン姫様が「案内しますわ」と言ってくれた。お言葉に甘え、歩き出すシン姫様の後ろを着いて行く。




 ***




一通り、ざっくりと教えて貰った。馬が居る厩舎きゅうしゃ、武器屋、料理屋、広場等々。武将や兵の人数が多いからか、建物がそれぞれ大きく、広かった。そして最後に残ったのは、薬を管理したり作ったりする医務室らしい。まだ彼に会っていないから、医務室に居るのだろう、と予想を立てる。



「此処がその医務室ですわ」



医務室からは、薬の匂いが微かに漂ってきた。シン姫様は「あまりこの匂いは好きじゃありませんわね」と眉間に皺を寄せて言う。私は慣れているけど、あまり嗅がない人には確かに嫌な匂いかもしれない。



「では、私はこれで」
「有り難う御座いました」



頭を下げてお礼を言うと、シン姫様は「ふふ」と笑みを浮かべ、背中を向けて歩いて行った。後ろ姿も美しいとは。思わず見惚れていたが、ハッとし、気を取り直して医務室の障子に手をかける。念の為「失礼します」と部屋の中に声をかけ、障子を開けて部屋の中を見る。部屋の中には人が居て、彼は薬を調合していた手を止めると、私に顔を向けて驚きの表情を見せた。



「冬さん!?」
「お久しぶりです、神農様」



軽く頭を下げる。神農様は驚きながらも、「と、とりあえずお入りなさい」と言ってくれた。部屋に入り、神農様の前に正座で座ると、彼は「えっと……」と戸惑う様子を見せる。無理もないだろう、神農様は私がずっと素戔嗚様の側に居ると思っていたのだから。



「素戔嗚は、もしや討伐軍に協力を……?」
「まさか。此処に来たのは私だけです」
「では、何故?」
「私個人が討伐軍に協力しました。結果、仙界軍に裏切り者は要らない、と」



つまり、捨てられてしまった、と。
最後まで言いたかったが、言葉が出なかった。代わりに出てきたのは、涙で、自分自身戸惑ってしまう。素戔嗚様の言葉が本心だったのか、本心ではないのか。今の私には分からないし、たとえ本心でなかったとしても、”要らない”と言われたのは素直に悲しく辛かった。



「っ、ごめんなさい、すぐ、すぐ止めますからっ」



慌てて目を瞑り、裾で目を抑える。しかし、すぐには止まってはくれない。ズズッと鼻水を啜ると、頭に自分とは違う手が置かれた。そのまま、誰かに抱きしめられる。久しぶりの匂い、誰かはすぐに分かって、余計に涙が止まらなくなってしまった。
私の背中に回された神農様の手は、大きくて温かくて。その手が優しく擦るものだから、色々な思いが込み上げてきてしまう。



「貴女を取られたと思って嫉妬しているんでしょう。まだまだ子供なところがありますから、彼は」



「それにしても、素戔嗚のしたことは許せませんが」と言ってくれる神農様。
しばらく私は、神農様に甘えて泣くことしか出来なかった。



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