変魂if | ナノ

『第2章 剣閣突破戦』


神農様が薬を大量に置いて行ってくれたおかげで、しばらくは薬の心配はなさそうだ。一通り薬を広げ、どれがなんの薬かチェックする。……よし、これで大丈夫だろう。薬の準備が整い、会話をしている素戔嗚様とナタの元に向かう。



「準備出来ました」



そう報告し、素戔嗚様が「うむ」と頷く。いざ出陣、となった時、「よう、ナタ」と隣から声が聞こえた。しかし、その声の主は「と、素戔嗚!? なんでお前がここにいるんだ?」と驚きをあらわにする。隣を見ると、派手な格好が特徴の孫悟空が居て、素戔嗚を見て目を丸くしていた。……居たの全然気付かなかった。



「なんだ、悟空か。僕達は仙界から逃げた妲己を追ってる。それでここに居たんだ」



ナタがそう説明すると、素戔嗚様が孫悟空に向かって「我の妨げとなるならば、汝にも容赦はせぬ」と脅しをかけた。それに対し、孫悟空は「ひぇー、おっかねえの!」と言いながら、わざとらしく怯えたふりをして私の後ろへと隠れる。



「邪魔なんかしねえよ、相手がお前らだしな。それよりも、俺もナタと一緒に戦っていいか? 大昔みたいによ」



私の背中から出てきながら、ニヤリ、と笑みを浮かべて言う孫悟空。その笑みを見て、素戔嗚様は「悟空、何をするつもりだ?」と警戒をする。今まで敵だった奴が急に味方になるのは、警戒して当然だろう。しかし、ナタは、



「素戔嗚さえ良ければ、僕は悟空と一緒に出たいんだけど……、ダメかな?」



と純粋無垢な子供のように聞いた。そんなナタに何も言えなくなった素戔嗚様は「……諾」と渋々ながらも了承した。しかし、警戒心は拭えないようで「ただし悟空、汝の行動に疑うところあらば……」と先程のように脅す。孫悟空はいい加減鬱陶しくなったのか「ったく、わーってるっての!」と強めに返事をした。



「で、お前人間だよな? 仙界軍に居るなんて珍しいじゃん」



孫悟空が私に顔を向けてそう言った。「助けていただきまして」と説明すると、ナタが「冬さんの作る料理美味しいんだ」と褒めてくれた。や、やめろよぉ、照れるだろぉ。ニヤけるのを必死に堪えていると、素戔嗚様が私を可哀想な奴を見る目で見ていることに気付いた。……ヤベ、素戔嗚様にはバレてる……。



「俺、孫悟空。名前は?」
「神田冬紀です。”冬さん”もしくは”冬ちゃん”とお呼びください」



私の言葉に「じゃあ冬ちゃんな!」と言うと、ニッと笑みを浮かべながら「俺に敬語は無しだぜ?」と言った。「分かった」と頷くと満足そうな表情をする悟空。思ったより話しやすくて安心する。会話を追え、悟空は、素戔嗚様とナタに「さ、行こうぜ!」と声をかけて歩き出した。




 ***




戦が終わり、素戔嗚様達が戻ってきた。戦には勝ったものの、連合軍が遠呂智討伐を諦める様子は無いらしい。私としては有り難いことだけれど、仙界軍としては迷惑なのだろうな。正直言えば連合軍に付きたい、というのが本音なのだが、私は助けられた身だしそうはいかないだろう。……私が説得して素戔嗚様を連合軍と協力させることが出来れば別だけど。



「やっぱり人間は弱いね。僕達に抵抗したって、無駄なのに」
「なれど人の子の意志は、強い。あるいはそれが、崩れゆく世界を……」



素戔嗚様の言葉が途切れた。何か考える仕草をして、しかし首を横に振り「否、やはり我らの手でこそ、この事態の終止符を打たねばならぬ」と言う。連合軍も意志が固いが、素戔嗚様自身の意志も固い。素戔嗚様を説得するのは一筋縄ではいかなそうだ。頑固な性格をした人をどう扱えば良いのかさっぱり分からない。



「どんな戦いだって、僕は素戔嗚につくよ。悟空はどうするの?」
「俺か? 俺はやっぱりオッサンの……」



悟空がそこまで言うと、素戔嗚様は明らかに殺気を出しながら悟空を睨んだ。私はビクッとしてしまったが、悟空はどうってことないのか「おーっと、素戔嗚に睨まれちまった!」と笑いながら言う。そして、



「じゃあな! 楽しかったぜ!」



すたこらさっさ、とキン斗雲に乗って行ってしまった。そのことに「なんだ、行っちゃうんだ」と言うナタだったが、すぐに「ヘンな悟空」と呟いた。素戔嗚が悟空を睨んだことに気付いていないのだろうか。ナタは天然なところがあるし、素戔嗚様も過保護なところがあるからな……。



「お腹空いたね」
「ねー」



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