変魂if | ナノ

『夢主トリップ』


「数が足りない……。まあ後で良いわ。どうせ小娘だもの、此処から逃げることはできない」




 ***




ピチョンピチョン、という水の音に目が覚めた。夢の中なのか、女の人の声が聞こえたのは覚えている。ズキ、と痛む頭を手でおさえ、上半身を起こして周りを見渡す。



「……、は……」



掠れた声でありながらも、思わずそう声が出た。錆びた汚い部屋に、私が入れられていたのだ。ベッドやトイレもあるけれど、どれも凄く汚くて使える物じゃない。鉄の臭いや腐ったような臭いが漂ってきて、眉間に皺を寄せながら鼻に手をあてる。それでも微かに臭うもので、少し吐き気が襲ってきた。強制的に唾を何度も飲みこんで吐き気を抑え、立ち上がる。



「――、――――」
「――――――」



っ……!
誰かの話し声が聞こえた。人数は恐らく二人。男性のような低い声と、女性か少女のような高い声。慌ててドアを開けようとドアノブに手をかけて捻るけど、ドアは開かない。焦ってしまい、何度もガチャガチャとドアノブを捻る。……駄目だ、鍵がかかってる……。



「誰か居ませんか!?」



震える声で、ドア越しに居るであろう人達に声を掛ける。何かを話している声の後、一人の足音がコツコツと此方に近づいてきた。



「そこに居るのか?」
「っはい! 鍵がかかってて、出られないんです!」



男性の声に、少し食い気味に返事をする。こんなに焦って動揺するのは久しぶりだ。私の言葉を聞き、男性は「ドアに近い場所にいるのなら、少し離れていろ」と言う。その言葉に「はい」と返事をし、言われた通り、ドアから何歩か下がって離れる。



――パァンッ



銃声とドアノブが壊れたような金属音に、ビクゥッと肩を震わせる私。唖然としていると、ドアが開き、ドア越しの人の顔が見えた。「有難う御座います」とお礼を言おうとしたのだが、その男性の顔を見て唖然とする。……ば、バリー・バートン……。



「東洋人か? 怪我はなさそうだな」
「あ、はい、有難う御座いました」
「お前も攫われたのか?」
「多分……? 気づいたら此処にいたので」



話していて気づいた。少し離れている場所に、ナタリアらしき可愛らしい少女が心配そうにこちらをジッと見ているのだ。私の視線に気づいたのか、バリー・バートンと思わしき男性がナタリア(仮)に顔を向け、「ナタリア!」と名前を呼ぶ。



「大丈夫だ、こっちに来い」
「……うん」



……ここはバイオのリベ2の世界か。納得している間に、ナタリアがバリーの元に駆け寄り、バリーの服の裾をぎゅっと握る。恥ずかしいのか警戒しているのか、私を見るナタリアの目が控えめというかなんというか、現しがたいが余所余所しい。



「俺はバリー・バートン。行方不明になった娘を追って此処まで来た。こっちはナタリア。どうやらお前さんと同じ境遇らしい」
「神田冬紀です。気軽に冬紀と」



こうなったら愛称なんてどうでも良いわ。



「俺達に敬語は不要だ。それから呼び捨てで良い」
「でも……、」
「堅っ苦しいのは好かんくてな。頼む」
「……そういうことなら」



バリーの言葉に思わず笑みを浮かべると、バリーも笑みを浮かべてくれた。そんな私達の雰囲気に警戒が少し解けたのか、ナタリアがバリーの服の裾を離す。そして、私を見上げて口を開く。



「よろしく」



僅かに笑みを浮かべるナタリア。少しは心を開いてくれただろうか。そんなナタリアに、私は「此方こそ」と言い、ナタリアの頭を撫でる。



「俺達は今、娘を探してこの島を探索しているんだが……。冬紀、お前はこれからどうする?」
「んー…、此処なんか怖いし、一緒に行く」



私の言葉を聞き、バリーは「そうか」と頷く。「とりあえず歩きながら話すか」と言うバリーの言葉に頷き、三人一緒に歩き出す。嫌な場所に来てしまった、といつの間にか現代の衣服に変わっている自分の服装を眺めながら小さく溜め息をつく。どうか生きて帰れますように。



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