『夢主トリップ』
幼い頃、よく見ていたアニメがあった。それは今ではもう見なくなってしまっていて、新作が制作決定と知ったのに、その新作を最後まで見ることもなく死んでしまった。新作では絵柄は変わってしまったのだけれど、内容がどういう展開になるのかただ楽しみだった。今はもう見ることの出来ない彼等の物語は、一体どうなっただろうか。
***
「…………、」
「ああ、またか」なんて呑気に思いつつ、辺りを見渡す。忍たま世界にトリップしてしまって一年以上経った頃から、私は何故だか色々な世界にトリップするようになってしまった。私が別世界にトリップしている間は忍たま世界の時間が止まっているようで、忍たま世界に帰ってからはいつものように過ごす。そんな生活が続いて、またこれだ。今度はどこの世界にトリップしてしまったのだろう……。
「にしても何もないな……」
周りは森。この位置からじゃ建物らしきものすらも見えない。「はあ……」と溜め息をつき、とりあえず足を動かす。こんなところで野宿なんてのも嫌だし、とりあえずは人を探さないといけない。けど、野宿になった場合はどうしようか。此処が戦国時代だったりしたら山賊がいるだろうし、満足に戦えない私としては、この状況は非常にマズイ。
「っ、」
やたらと広がる森に不安を覚え、走ってみることにした。長く鬱陶しい袴にイラつき、軽く舌打ちをして邪魔な袴を手で上げる。その姿はドレス姿で走るお姫様のようだ。だが私は袴。……ん? 袴?
「は、」
走っていた足を止め、自分の格好を見る。思わず「ああ、またか」と再び思ってしまう。別世界に行くと、何故か着物姿から袴姿になっている。忍たまの世界では「孤児達の母親として着物を着よう」と決めて着物を着ていたから、「別世界でその決意はいらねぇよ」ということだろうか。こんちくしょう。
「……あ、」
諦めて再び走り出そうと前を向けば、視界に何かが入った。そちらに顔を向けると、そこには大きな四角い玩具で立てられた塔らしきもの。見覚えのあるそれは、きっと私が幼い頃に見ていたアニメで出てきたものだろう。確信はないものの、予想はたてることが出来た。淡い希望に期待を寄せ、私はそれへと向かって一直線に走り出した。
***
「何者だ、お前!」
そう言い、私に向かって威嚇するその生物は、確かに見覚えのある。赤くて青い、爪の鋭いその生物。この場所、この生物、生物の後ろにいるたくさんの小さな生物達。良かった、私の予想は正しかった。ホッとし、私はその場に正座で座り、膝の前に手を添えて頭を下げる。
「お願いします、居候させてください」
その瞬間、目の前にいる生物――エレキモン――が「えっ」と呟いた。
此処はデジモン世界のはじまりの街。目の前にいるのはエレキモンと、生まれたばかりのデジモン達。