▼00

「っ……う、ぐっ……」



しくじった。
まさか、あんなに敵が多いとは思わなかった。
横っ腹から流れ出る血を、手で抑える。
何もしないよりかはマシだが、やはり血は止まらない。
「クソッ……!」と呟き、目の前で武器を構える奴等を睨む。



「まんまと情報に踊らされちまったなァ、忍さんよォ」
「こんな大人数相手にここまでやったのは褒めてやるぜ」



ニヤリ、と片膝をつく俺を見下ろす無数の目。
胸糞悪いその目に、自然と眉間に皺が寄るが、毒を食らった横っ腹が痺れて力がほとんど残っていない。
段々と体中に痺れが回ってきて、足がガクガクと震えだした。情けない。
こんな所でこんな奴等に殺されるなど屈辱でしかない。
俺にもプライドというものがある為、なんとか逃げ切りたい。



「っ……っは、……」



残りの力を振り絞り、ガクガク震える足で立ち上がる。
こんなんで逃げ切れるか分からないが、何もせず無抵抗で死ぬよりかはマシだ。



「お? やるか?」
「足震えてんぜ、坊ちゃーん」



うるさい、集中させろ。
いつもの元気たっぷりな体ではない為、集中しないと倒れそうだ。
かすれるゆく目をしっかりと開け、懐から煙玉を取り出す。



「俺、は……っまだ、死ねないんだ……!」
――ボフンッ



煙玉を投げつければ、玉から煙が溢れ出る。
相手が「なんだ!?」と動揺している隙に、俺はその場から逃げ出した。




 ***




ヨタヨタ、とおぼつかない足で河道を歩き続ける。
奴等は俺がどこに居るか気づいていないようで、本当に遠くから微かに焦ったような声が聞こえてくる。
このままいけば、なんとか逃げ切れるかもしれない。
だが、先程負った腹から血が出過ぎて、逃げ切れても手当てをしなければ何処かで野垂れ死ぬだろう。



「……っはあ……」



どちらにせよ、死ぬ運命か。
誰か救世主現れたりしないかな……、しないな……。



――ガッ
「へっ……?」



自分の足と足がぶつかった。
その直後、俺の体は横の川に向かって倒れていく。
ちょ、まっ……、え……!?



――ドボォォォオオンッ



抵抗する隙もなく、俺は豪快に川へと落ちた。
勢いよく川に落ちたせいか、体中、特に傷を負っている腹が物凄く痛い。
ヤバイ……、と思いつつも、意識は遠のいていき、瞼は閉じていった。



その夜は、綺麗な満月が空に浮かぶ日だった。


prevnext
2 | 22

しおりを挟む
戻るTOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -