第一話「あ、こんにちは」


皆さん「清洲城」を御存知でしょうか。
清洲城とは……、まあ、長い為に省略してしまおう。清洲城とは、織田氏の居城だった城だ。後に、織田信長とその子信雄、豊臣秀次、福島正則、松平忠吉、徳川義直と、有名な武将達が次々と城主になったそうだ。



「その清洲城に、私は居る……!」



くっそ、たまんねぇなァ、オイ!
清洲城付近の公園には、織田信長とその妻・濃姫の銅像がある。城の庭は、まるで京都に行ったかのような庭だ。ほら、あの砂と岩、アレがある。しかも、清洲城付近には赤い橋があり、清洲城と赤い橋を一緒に撮れば、それはそれは風情があるのだ。これで桜もあれば、正に日本、という感じだ。



「おーい、花南、置いてくぞー」
「ええっ!? 待ってよ!」



清洲城をニヤニヤしながら眺めていれば、お母さんやお父さん、お兄ちゃんは既に城の外へと出ていた。完全に置いてけぼりな私。もう少し見ていたかったけれど、置いて行かれるとマズイ為、大人しくお兄ちゃん達を追いかける。



「もうちょっと見てたかったのにー」
「観光客増えてただろ。あのままだったら邪魔になってたぜ」
「俺はもう慣れたぜ」
「は? 何言ってんの?」



お兄ちゃんのツッコミが冷たい。「俺はもう慣れたぜ」はおお振りの泉の台詞だということを、奴も知っているというのに。花南ちゃん泣いちゃう。



「――」



…………? 今、誰か何か言った?
前方に居るお母さんとお父さんは、肩を並べながら二人で喋っている。隣にいるお兄ちゃんは、景色を見ていて何も喋っていない。後ろにいる観光客は、写真を撮ることに夢中になっている。喋っているのはお母さんとお父さんだけ。でも、声は私の後ろから聞こえた。



「…………」



えっ、ちょっと待って。何コレ。なんか寒気してきた、ヤヴァイ。コレ、私の後ろコレ、何かいるんじゃないの? 幽霊的なにか、いるんじゃないの?



「……お兄ちゃん」
「ん?」
「私の後ろ、なんかいる?」



私の言葉に、お兄ちゃんは「んー…」と声に出しつつ、私の後ろを見る。が、何処にも見当たらないらしく、キョロキョロと見渡している。



「なんもいねえぞ。どうした?」
「あー、じゃあ、虫かな」



まさかヘタレなお兄ちゃんに「幽霊がいるかも」とは言えず。とりあえず、不審がられないように嘘をついて誤魔化しておく。お兄ちゃんは私の言葉に「なんだ、虫か」と言いつつ、前を向いた。



「――」



……えっ、また聞こえたんだけど。ねえ、もう虫ってことで良いじゃん。それで良いじゃん。皆が平和に過ごせるんならソレで良いじゃん。



「――」



え、何? 全然聞こえませんけど? 幽霊なんていませんけど?



「――」



もー、何よー。誰の悪戯ー? どうせアレだろ。一般市民を巻き込んで「ドッキリ大成功ー!」とかやろうと企んでんじゃないの? 騙されませんよ、私は。



――いい加減にしないと、本気で呪っちゃうよ?



さーっせんしたァァアアア!
心の中で謝りつつ後ろを、シュバッ、と向く。私の行動にお兄ちゃんが「っうお!?」と驚いたが、今はそれに構っている場合ではなさそうだ。……えっ、ちょっと待って。今の私、なんか視力がおかしいみたい。なんか、なんか……、



――僕、斉藤タカ丸。ちょっとお願いがあるんだけど、良いかな?



半透明の忍装束着た男が立ってるんですけどォォォオオオオ!


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