第1話


気づけば、白い空間に居た。何もない殺風景な空間。ただ隣には、お兄ちゃん、お父さん、お母さんが居る。三人も、驚きを隠せないようで、周りをキョロキョロ見渡している。何故。私達は夜に寝ていたのに。知らない間に知らない所に居るだなんて……。



「――…初めまして、だな」



聞き覚えのある声。ああ、この声は岸尾さんだ。なんて、頭の中で思いつつも声のしたほうに目を向ける。思わず「え」と声を漏らしてしまった。だって、その人はめちゃくちゃ見覚えのある人なのだから。



「は!? ちょ、えっ!!? おおおおお!!?」



言葉にならない。この驚き、会えた感動、どう表現すれば良いものか。ああ……、目の前にいるあのお方が私の慌てっぷりに呆れ果てている。すみませんね、ほんと。でも誰だって驚きますよ、きっと。



「ああ、そうだ。自己紹介が遅れた。私の名は太公望、全知全能な仙界の者だ」



ね、驚くでしょ? ……って誰に言ってんだ、私。でも、まさか無双の太公望殿が現れるとは。もしかしてコスプレか……?いやいやいや、それは無いだろう。だって、この空間の説明ができないし。一人で黙々と考えていると「さて、貴公等にはやってほしいことがある」と太公望殿が言った。やってほしいこと……。なんだか、太公望殿の眉間に皺が寄っている気がする。それほど深刻なことなのだろうか。



「貴公等には、今から別世界に行ってもらう。そこで、とある人物達を救ってほしい」
「救う?」
「ああ。少々厳しくなるとは思うが、貴公等なら必ず成し遂げられるはずだ」



太公望殿の言葉に、私は首を傾げる。なんだか言っていることがよく分からない。別世界に行って、何をすれば良いのか。どうやって”とある人物達”を守ればいいのか。……そういえば、



「その”とある人物達”って、無双関係の人達?」
「否、関係ない」
「なんだと」



即答でございました。……だったら、”とある人物達”って誰のことなんだろう……? 三國無双でも戦国無双でも無い。他に、関係している人は居ないはず……。私の考えていることが分かったのか、太公望殿が「安心しろ。小雪と柊が知っている者達だ」と言った。その言葉に、「尚更知りたいわ」と心の中で思う。と、その時、お兄ちゃんが「つか、なんで俺達の名前知ってるんだ……?」と呟いた。……確かに。



「知っていて当然だ。私が、貴公等を選んだのだからな」
「選んだってどういうこと?」
「そのままの意味だ」



そう言うと、太公望殿は上に顔を向ける。そして、「おい、そろそろ出てきたらどうだ」と声をかけた。え。どこに声かけてんの、この人。私がそんなことを思ってると、何者かが三人上から降ってきた。いや、降りてきたのだろうか。私は、その三人の姿を見て、またもや驚く。



「あはは、説明に私達いらないかなーって。あ、私は三蔵法師! よろしくね!」
「俺様は孫悟空だ」
「私は、酒呑童子」



うおおおおお!!! 一気に四人もの無双キャラに会ってしまった……!!



「では、何故私達が助けを求めているのか、説明をしよう」



そう言って、胡坐をかいて座る太公望殿。それにより三蔵様、悟空、酒呑童子も座る。三蔵様に「さ、皆も座って!」と言われ、私達は顔を見合わせて座った。
彼等曰く、「仙界で、遠呂智と妲己が仙界の者達をとある妖水で人間へと変えてしまった。この場に居る私達は、逃げたおかげでその妖水はあまりかからなかったが、力の殆どは使えない」「そのまま遠呂智と妲己は人間界へ逃走。人間界の様子が見れる湖で二人の行く手を探ったら、とある世界に行っていた」「私がふと未来の見える鏡を見たら、そのとある世界であなた達家族が何者かと戦っていた。そのことに、遠呂智と妲己が関わっていたの」「そこで、力の使えない私達の代わりにお前達に救ってもらおうと思ったのだ」らしい。
説明を一気にされ、少しばかり混乱してしまう。が、大体のことは分かった。また遠呂智と妲己の仕業か。今度は一体何をするのだろう。……でも、私達は一般人。遠呂智や妲己を倒せる力もなければ、戦う力もない。



「戦うっていっても、武器は?」
「……武器なら、此処に」



そう言った酒呑童子が、お兄ちゃんの目の前まで歩み寄る。お兄ちゃんは「え?」と首を傾げる。私も首を傾げていると、太公望殿が私の前へと歩み寄った。同じように、悟空はお父さんへ、三蔵様はお母さんへ歩み寄った。そして、四人の体が光に包み込まれた。驚いてビクッとしてしまった。それは私だけではなく、お兄ちゃん達も同じみたいだ。光が消えていくと姿を現したのは、太公望殿達の個々の武器だった。



「え、太公望殿……?」
《今目の前にある武器が、貴公等のそれぞれの武器だ》



うおっ!? 武器が喋った!!? ……あ、でも声は太公望殿だ。ってことは、この武器が太公望殿ってことか。



《普段、私達はこの格好で過ごす。まあ、元の姿になることはあるがな》



太公望殿の言葉に、お兄ちゃんが口を引き攣らせて「ちょ、俺の武器重そうなんだけど」と言う。ああ、確かにお兄ちゃんの武器は重そうだ。なんたって体くらい大きな瓢箪だもの。私は釣竿だ。釣り趣味は無いから、ちゃんと使えるか不安だな。お父さんは、めちゃくちゃ動く如意棒か。まあ、お父さんにはピッタリかも。お母さんは、仙女の袖だからペチペチできるね。ペチペチしながら戦うって、なんかシュール。



《では、また向こうで会おう》



太公望殿がそう言った瞬間、私達は凄まじい睡魔に襲われた。

 
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