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高杉晋助。その名前は、今となっては聞きたくない名前だ。あの日を境に、アイツは変わった。何度説得を試みようとも、力ずくで止めようとしても、アイツは元に戻ってはくれなかった。



「と、いうわけで雑渡、私は今日から修行する」



あの後、他の連中を置いて雑渡が居るであろう保健室へと来た。案の定、雑渡は保健室に居て、その膝の上には伏木蔵を座らせていた。お前等二人親子みたいだな。雑渡は私の言葉に「えーと、いきなりどうしたわけ?」と目をパチパチとさせた。



「私は色々考えた。考えた末、修行へと辿り着いた」
「いや、だからどうしたのって」
「雑渡ォ、頼むから修行に付き合ってよォ」
「この子は人の話を全く聞かないね」



ん? なんか雑渡の目が冷たい気がするんだけど。まあ、無視していっか。



「手っ取り早く本気でシュバババッと強くなれねぇかな」
「無理だろうね」



そっけなく答える雑渡に、私は口を尖らせる。コイツ、絶対真面目に考えてくれてねぇな……。うーん、この様子じゃ雑渡は手伝ってくれそうにねぇだろうな。あ、諸泉がいつも目の敵にしている土井先生とやらはどうだろう。あの人なら実力はあるだろうし、良い修行になるだろう。



「土井先生に修行申し込むつもり?」
「え、なんで分かった? 何も言ってねぇのに」
「なんとなく」
「土井先生はただでさえストレス抱えてますから、やめたほうが良いんじゃ……」



伏木蔵の言葉に「ふーん、若いだろうに大変だな」と呑気に言う。そういえば、問題をよく抱え込む一年は組の教科担当なんだっけ。と、その時、廊下からバタバタと慌ただしい足音が聞こえた。そして、保健室の障子が、スパァァンッ!!、と勢いよく開けられる。



「真白、かまっ娘倶楽部を開くわよォォォオ!!!」



え? 何事?
脇に食満と潮江を抱えた西郷のおっさんが、いきなりそんなことを言いだした。食満と潮江は青ざめた表情で震えている。まさか、忍たまの生徒達でかまっ娘倶楽部をやろうと言うのではないだろうか。いや、絶対そうだ、そうに違いない。やべぇ、超逃げてぇ。でもノリノリの西郷に逃げられる奴など居ないだろう。



「真白、上級生の忍たま達を集めてきなさい」
「ちょ、ちょっと待てよ。上級生の忍たまなんざ知らねぇぜ?」
「四年が紫色、五年が群青色、六年が深緑色の忍装束を着ているわ。ほら、さっさと探して私の元に連れてきなさい」



言うとおりにしなければ、きっと私は此処でお陀仏だろう。私は「へーい」と返事をし、上級生を探すべく保健室を出た。




 ***




「ギャーハッハッハッハッ!! ぶふぅっ!! ひーっひーっ!! ぶわははははは!!」
「今すぐ笑うのやめねぇと殴るぞ」
「もう思いっきり殴ろうぜ」



目の前の光景を見て、私は爆笑せずにはいられなかった。私が拉致し、西郷の元へ送りつけた上級生達。そいつ等は瞬時に西郷の手によって女装させられた。ちゃんと女装が出来ている奴から普通、不細工な奴まで居る。やめっ、その格好で私を見るなっぶふっ……!!!! 笑いが止まらなすぎて、どうしようもない。あまりにも笑い過ぎて息が途切れ途切れになっていると、食満と潮江に頭を、スパァンッ、と叩かれた。痛ぇ。



「皆可愛いじゃな〜い」
「どこが。確かに女装できてる奴もいるけど、ほとんどが化け物じゃねぇか」
「なんだとコノヤロウ」



やっぱり食満は何かと突っかかってくるなァ。恥ずかしがらずに私にアピールすればいいのに。振るけど。その時、「華麗なる私にかかれば、女装など恐るるに足らんな」「何を言う滝夜叉丸!! この田村三木ヱ門の方が素晴らしいだろう!!」と言っている二人がいた。お前等どっちも微妙だけどな。ふと、着物の袖をクイクイッと引っ張られた。「なんだ?」と引っ張られた方へ顔を向けると、灰色のウェーブがかった髪の毛をした女装姿の少年が居た。なんだコイツ、女装似合ってんだけど。



「綾部喜八郎っていいます。僕の女装、どうですか?」



”綾部喜八郎”と名乗る少年の声を聞き、私は思わず目を見開く。この声、あの人妻好きの声に似てやがる。顎をクイッと上げ、顔をマジマジと見る。目が大きく、肌が少し白い。本当に女みたいな野郎だ。



「坂田さん、私の後輩にちょっかい出すのやめてください。喜八郎も、抵抗くらいしたらどうだ」
「ああ、悪い。つか、お前も女装似合ってんな」
「ふふ、有難う御座います」



口元を袖で隠しながら微笑む立花仙蔵。アイツ、絶対前世女だろ。そんなことを思いつつ、私は再び綾部へと顔を向ける。



「なあ、”ヅラじゃない桂だ”って言ってみてくれねぇか?」
「ヅラじゃない桂だー」
「あ、もうちょいキリッとした感じで」
「ヅラじゃない桂だ!」
「それだァァァア!!!!」



私の言葉に首を傾げる綾部。今の声、まさにヅラだった。いやあ、あの声にこんなに似ている奴が居るとは思わなかった。うんうん、脳裏にエリザベスと肩を並べているヅラの姿が思い浮かぶぜ。あ、真選組に見つかって逃げた。



「あら、あんな所に土井先生が。調度良いわね、土井先生も連れてきなさい」
「生贄多くねぇか?」
「あ?」
「……行ってきまーす」



(土井先生覚悟ォォォオ!!!)
(え、坂田さん? どうしたんですk――ギャァァアアア!!!!!)



 
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