名前が風邪をひいた。白んでくる外の景色をカーテン越しに見ながら、今日締切のレポートをやっとの思いで終わらせると、いつもは俺よりも早く目を覚ます名前がなかなか起きてこないことに気がついた。様子を見に行くと顔を火照らせぐったりとして、まさかと思い熱を測ると38℃を超えている。大慌てで病院に行く準備を始め、名前に声をかけた。

「名前大丈夫?自分で立てる?」

「…具合悪い」

「そうだよねえ、それだけ熱があったら辛いよねえ」

ひょい、と横抱きにするも名前の手足はだらんとしていて、相当辛いことが想像出来る。

「病院いくから、つくまで寝てて?」

「うん…」

助手席に下ろし、座席を少し倒してシートベルトを締める。その間もずっと苦しそうに呼吸をしていて、可哀想で仕方ない。

診察後、薬を代わりに受け取り、名前のアパートに戻る。これから休めない講義があるから、お粥を作ってサイドテーブルに置き、「いってくるね」と声をかけ、一応メッセージも入れて置いた。大丈夫かな。講義が終わったら急いで帰ろうと、そう考えていたのに。


ーーー


早く帰りたいと思っている時ほど早く帰れないのはどうしてなのだろうか。今日はたまたまゼミの集まりがある日だったのを忘れていて、帰れるとメッセージで伝えた時間を優に超えている。ちゃんとご飯を食べれただろうか、薬は飲めただろうか。

「名前、遅くなってごめん!!」

がちゃんとと音を立てて玄関のドアをを開け、声をかけるが返答はない。寝室へ向かうと、すやすやと寝ている彼女の姿が目に入った。額にそっと手を当てると、朝よりはいくらか体温が下がっているようで安心する。そっと電気をつけて寝顔を見ると、うっすらと涙のあとがあることに気がついた。

(え、嘘、泣いた…?)

熱で生理的な涙が出たのかとも思ったが、その手には涙を拭いた思われる、まだ湿り気のあるティッシュが握られていて、ちくりと胸が痛んだ。

「寂しい思いさせてごめんね、帰ってきたよ」

手に握られていたティッシュを捨て、代わりに自分の手を絡ませる。表情が少し柔らかくなったのを見て、頭を優しく撫でるとぱちりと目が開いた。

「ぜん、いつ…」

「起こしちゃったね、ごめんね」

「んー…」

「寂しい思いさせちゃったね、もう今日は出かけないから」

「うん…」

まだ頭がぼうっとしているようで、すぐにまた目を閉じてしまったが、繋いだ手をほっぺたに引き寄せ幸せそうに頬ずりしている様子を見て、もう一度優しく頭を撫でた。




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