槿花一日。






04


「それで配属先の件なんだが、」

「あーせやせや、忘れとったわ。」


仕切り直した宴の最中。いい加減あっちこっちで酔い潰れた人が出だした頃、おやじが不意に言い出した。急な『来客』のせいでそもそもおやじに呼ばれて移動してきたことをすっかり忘れていた。


「お前、読み書きは出来るのかい。」


呑気におやじを見上げつつジョッキを傾けると、おやじの側にいたマルコが尋ねてくる。新入りは全員能力や技能によってなるべくバランス良く振り分けたいらしい。


「ん、問題ないでぇ。」

「そうか。なら助かったよい。」


にやりとマルコは笑ってからジョッキを一気に空にして、一息つく。それからこっちを指差した。


「キト、お前は2番隊へ配属する。」

「2番隊ってゆうと火拳の旦那かいな。」


「なんでまた、」と口にしようとして、口を開きかけて閉じた。視線を感じて振り返ると火拳の旦那が少し後ろの方で腕組みして、こっちを見ていた。


「……なんだ、不服か??」


何か言いかけたのが不満なのか、訝しむようにこっちを見てぶっきらぼうに聞いてきた。


「そんなことあるはずないやないですか旦那ぁ。血の気の多い人の下におった方が暴れられそうやし、バッチコイでっせー。」


それを気にせずにおばちゃんみたいに手をパタパタと振りながらへらへらと言えば、ムスッとした表情だった旦那の顔が少し緩む。そして、旦那がこちらへ寄ってきてジョッキを差し出す。


「ははっ、お前見てたら気い抜けらぁ。まぁ、ともかくよろしくな、キト。」

「こちらこそよろしゅうに。」


改めて挨拶するとこっちからもジョッキを出してコツンと軽く乾杯をして飲み干した。


「あぁ、キト。お前ついでにエース係も頼むよい。そいつすぐに寝るし書類滞納するし困ってんだよい。」

「「えぇ!?」」


和やかに飲んでいたのに、マルコの一言に二人揃ってガバッと振り向く。


「何なんそんなん聞いてへんでマルコ!!大体係りって何や!!」

「そうだ!!聞いてねぇよマルコ!!」

「今初めて言ったからねい。まぁ、ぶっちゃけて言えば監視だよい。読み書き出来るんだろい??なら書類も書けるし読めるよな??」


しれっと言うマルコ。さっきの質問はこの為だったのかと唖然とする。その横で火拳の旦那は苦々しそうに、


「ちっ、バナナみてぇな頭してるくせに。」


と、ボソリと吐き捨てるように呟いたのが聞こえて、ちらりとマルコの頭を改めて見て、確かにバナナだと、思わず噴き出した。


「てめぇら、どつかれてぇみてぇだねい。」


ジロリと睨むマルコに二人して全力で首を振ると、周りがドッと沸いた。


「おい、お前気をつけろよ、マルコの拳固はマジで痛ぇ。」

「マジか、まぁ固そうな手してはるもんなぁ。気をつけるわ。」


ひそひそそんなこと言ってたら、ふと影が下りる。何かと思い顔を上げようとしたら拳固が降ってきた。


「「痛ぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

「はん、口は災いのもとだよい。」


当然マルコさんの拳です。聞いた通りの痛さに頭を抑えてうずくまる。これはマルコにはそう刃向うもんじゃないな、と確信した。


「ん??」


頭の拳骨を食らったあたりを摩っていると火拳の旦那が、こっちをじーっと見て疑問符を浮かべた。


「どないしたん。なんか付いとるか??あ、瘤出来とるか??」

「いや、お前、右目は眼帯してるだろ??んで、左目は??なんで閉じてんだ??」


突如拳固の痛み等吹っ飛んだようで火拳の旦那こっちをガン見したままはズズイと、近寄って来る。思わずそれに押されるように上半身だけ少し引くと、


「あー、生れつき見聞色の覇気強いさかい、あんま目で物見てへんのや。宛てにならんしめんどくさいやんか。」


と、接近されてるとこに若干の居心地の悪さを感じつつ答えた。すると、火拳の旦那は若干安堵したように見えた。


「なんだ、もしかして両方見えねぇのかと、」

「ちゃうよ。ほれ、」


そう言って前髪をかき上げて左目を開けば、火拳の旦那の手配書にあるのと同じ、顔が写る。随分近くで。


「碧眼か。北の出か??」


と、瞳を覗き込まれる。そんなに近くでみる必要はないのではないか、と思いつつ、


「さぁ??知らんわ。祖先とかがそうなんちゃうか??」


と首を傾げた。


「なんだそれ、アバウトな把握だな。」

「家族なんてもう何年も会ってへんもん。生きてるかどうかも知らん。」


疑問を浮かべた表情をして漸く離れていった彼に笑い飛ばしながらそう言うと、


「何年もって、お前そんな歳いってねぇだろうに。」


と、興味本位でか、近くにいたサッチが尋ねてきた。


「22やでー。もう何年も親には会っとらん。ま、色々あるんよ。」


と答える。自虐的とも取れる笑みが自然と浮かんでしまう。


「え、お前22なのか!?」


と、そこでこちらの微妙な表情を意にも介さず火拳の旦那が驚きの声を上げて口をぽかんとさせる。


「いや、エースつっこむのそこかよ。」


まさかそこに驚かれると思ってもいなかったが昔話するのも気が進まなかったので正直有り難い。サッチはそっちに突っ込みたかったのか旦那に呆れた顔をした。


「お前俺より年上なのか!?」

「いや、聞けよエース!!」


華麗にサッチの言葉を交わして、必死に聞いてくる旦那。そんなことはなかろうと、きょとんとする。


「え、火拳の旦那年上ちゃうん。」

「俺ぁ19だ。」


お互いに真顔になって数秒間が開いて、


「嘘やん!?」


今度はこちらが大口開けて驚く羽目になった。


「あぁ、俺も嘘だと思いたい。お前は年下か同い年かと……。」

「いや、手配書見て偉い若いやっちゃなぁとは思てたけど、嘘やん!?」


そんなにショックだったのか顔を覆う火拳の旦那わーわーと騒いでいると、


「そういや、キト。おめぇ、いくらなんだ。」


ここまで笑顔で眺めていたおやじが思い出したように聞いてきた。


「7500万ベリーやけど。」


と、おやじを見てさらりと答えれば、


「安っ、」


火拳の旦那の口からポロリと零れる言葉。


「やかぁしい!!あんたみたいに七武海に誘われるような奴と一緒にしいな!!!」


それにすぐさま噛み付くように言うと旦那は慌てたように弁解した。


「いや、違ぇよ!!お前のさっきの戦艦沈めたりしたとこ見た感じ、億は乗ってるかなぁて思ったんだよ!!馬鹿にしたんじゃねぇ。」


その台詞にキョトンとすれば、


「……なんだよ。」


反応が思ったのと違ったのか何なのか少し居心地悪そうに火拳の旦那は頬を掻いた。


「嫌やわぁ、旦那の褒め上手!!お世辞なんてえぇのに。」


思った以上の高評価に照れたついでにバシーンといい音出して旦那の背中を叩く。


「ってぇ!!加減しろよ加減!!つうかお世辞じゃねぇよ!!」

「あれま、嬉しいやないのそないに隊長さんに褒められるなんて。」


背中を摩る旦那とケラケラ笑っていると、


「何もエースだけじゃないさ。」

「花剣の旦那。」


花剣の旦那がやって来る。


「舞剣、拝見させて貰ったが実に興味深い。今度手合わせ願いたいな。」

「舞剣ねぇ。舞っとるつもりは無いんやけどねぇ。」

「おーそうだ。あの不思議な形の剣何なんだ??」


サッチや、他にも腰に刀挿した連中がわらわらと集まって来る。


「なんやなんや、偉い人気やん"エンガスタ"ちゃん。」


あらまぁ、なんていいながら柄の装飾を撫でる。


「えんがすた??」

「あぁこの子の名前や。」


首を捻ったサッチに、鞘を軽く叩きながらそう答えると、


「エンガスタ!!カッコイイ名前。ねぇ、よく見たいんだ見せてくんない??」


ニコニコっと笑う、ごつい連中の中では割と目立つ線の細い人。確か手配書で見た気がするのだが名前は何だったか思い出せない。


「えぇ、と堪忍してんかまだ旦那の名前覚えてへんのやけど、」

「ハルタだよ。12番隊隊長。よろしく!!あ、ハルタでいいからね!!」


先手を打って呼び捨てていいと言ったハルタは、勝手に手を取り握手して、ブンブンと手を振った。


「ハルタやな。よろしゅう。んで悪いんやけど人がぎょうさん居るとこじゃ刀抜かん主義やねんよ。怪我したら危ないさかい。」


「すまんな、」と言うとハルタも周りもそれを聞いて残念そうにした。そんなに物珍しいものでもないと思うのだがそんなに見たかったのか。


「危ないって、多少斬れたとこで全員今更だろう。」

「そうかもしれんけどなぁ、ロギアの人やマルコならともかく、他の人やったらあかんのや。」


サッチが食い下がってくるのを首を横に振って却下する。


「なんでだ??」

「ご存知の通りけったいな刄の形しとるやろ??切り口が綺麗とちゃうねん。せやからこれで切ったら縫合出来んのよ。人の少ないとこやったらえぇから、また今度な。」


そう言うと、残念そうに集まってきた奴らはてんでんばらばらに散った。


「はぁん、なかなか危ねぇ獲物持ってんだな。」

「そうでもせんと危ないやないの。」


解放されて、やれやれといいながら再び飲もうかとボトルを傾げると、黙って見ていた火拳の旦那がそう言ってきた。


「危ねぇってお前能力者だろうが。」


「何言ってんだ」と言いたげに見てくるので、何と言ったもんかと少し考え首を捻った。


「あんま能力使いたくないんよ。そういう主義ってぇの??」


と、答えると聞いてきた癖に旦那は「ふぅん、」とだけ言うといつの間にか中身が増えているジョッキを傾けた。


「なんか目立ちたくねぇとか、能力使いたくねぇとか、お前さ、コソコソ生きたい訳??」


さっきから聞かれてばっかりだな、と思いつつ新入りだし仕方ないか、と半ば諦めつつ答える。


「せやなぁ、少なくとも宝にも名声にも興味あらへんよ。」

「変わった奴だな。なんで海賊やってんだ。」


火拳の旦那が頬杖ついて、こっちを見遣る。その向かいに腰を下ろすと、酒瓶を傾けた。


「……、なんでか、うーん難しいな。自分の為、やろか。自由の為…とか??」


そう言ってははっと笑えば、


「自由、ねぇ。」

「うん、それが一番しっくりくるわ。」

「火拳の旦那は??なんで海賊やってるん??」

「え、あぁ、俺ぁなぁ―――。」



>>NEXT


―――――――

エースの年齢に疑問符が
浮かんだ人が沢山いらっしゃると
思いますが、この話、
原作の1年前という設定です←
今更ですが。(笑)


最後のエースの話は言うまでもない
ということで割愛しました←




というか話が予定と全然違う風に
進んでく/(^o^)\

勝手に私の脳内で
走り回るんじゃないよ
おまえら!!

なんて言っても
どうにもならないので
見切り発車上等で
これからも行きます。





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