槿花一日。






06


これはどうしたらええのやろか。火拳の旦那と朝飯食いに来たこれまたやたらでかい食堂で、自分の分を確保し、旦那の向かいに座って食べ始めた、まではOKや。問題ない。だがしかし、や。


「………………。」


話も途中なら食べんのも途中。突然、ガンっ、と音を立て、旦那がテーブルの上のスパゲティー(2皿目)とこんにちはしたきり、動かないのだ。周りのクルーがスルーしているところを見るとたいしたことないか、いつものことなんだろうかと思うのだが、


「どうしたのー??キトちゃん。」


と、動かない旦那を呆然と眺めていると、サッチが後ろから現れる。


「いや、これどないしたらええもんかと。」

「あぁ、ほっとけ。そのうち起きっから。」

「あぁ、そうなん………って寝とんのかこれ!!」


嘘やん!!と叫べば、サッチは笑って、


「始めてみたらびっくりするよなぁ、これ。あ、隣いい??」

「びっくりも何も大事に残しとった目玉焼きの黄身さんが床にダイブしそうになったわ。」

「ハハハッ、そりゃあ一大事だ。」


なんて笑ってると、倒れたときと同じく急に


「ぶほ!?」


奇声を上げて火拳の旦那が顔をあげる。顔がミートソースだらけだ。


「旦那、タオル要るか??」

「あぁ、悪ぃ。サンキュ。」


ぼーっとした目でタオルを受け取り顔を拭く旦那は、一通り顔が綺麗になるとまた凄い勢いで食べ始めたかと思いきや、また別の皿に突っ伏した。


「も、放置でええか??」

「あぁ。今の内にサッチさんが船ん中案内してやるよ。」

「おおきに。」


サッチによるといつも彼が食べ終わるのは最後らしく、なかなか皿洗いが終わらないと厨房組を泣かせるらしい。



Ж




「んでからー、この部屋がパイナ…じゃなくてマルコの部バっ」


物凄い勢いで今、サッチが案内してくれたマルコの部屋の扉が開き、サッチが巻き込まれたかと思いきや、マルコが顔を出す。どうやらサッチはバナナじゃなくてパイナップル派らしい。


「マルコおはようさん。」

「ああ。……………今、腹立つフランスパンの声がした気がしたんだけどねい。」

「サッチなら扉の犠牲になったで。」


扉と壁に挟まれピクピクと痙攣する手がかろうじて見えるサッチを指差すと、


「…………ざまぁみろい。」


と、ニヤリと悪どい笑い方をしたマルコはさっさと部屋に引っ込んだ。


「あん、にゃろ………、」


扉が閉まると潰れたフランスパン、もとい、潰れたリーゼントを直しながら鼻を摩るサッチ。


「そないにリーゼントあんのに鼻ぶつけるもんなん??」

「あいつが手加減せずに開けたかバっ、」


無情にも2度目の扉の強襲にあい、再び扉と壁にサンドイッチされるサッチ。


「キト、」

「マルコ、DVはあかんと思うんやけど。」

「コミュニケーションの一環だから問題無いよい。」

「そぉか。」

「それよりおめぇ、フランスパンに一通り案内して貰ったら俺んとこ来いよい。」

「ん、わかった。」

「じゃ、フランスパンにセクハラされたら容赦なくぶちのめせよい。」

「ん、気いつけるわ。」


再び閉められた扉の向こうにいたサッチを憐れんだ目で見つめれば、再び崩れたリーゼントを直しながらサッチが


「誰がセクハラするかっつーの。キトちゃん、ぶっちゃけマルコの方がむっつりだから気をつけろ。キトちゃん部屋に呼びつけて何するつもりガっ、」


あぁ、3回目。



Ж




「マルコー、キトちゃん来たげたでぇ。」


おやじの部屋、各隊長の部屋、風呂等の水周り、掃除や洗濯道具の倉庫、武器庫、医務室。ぐるぐる迷路なんじゃないかと思うような船内を一通り案内され、言われた通りマルコの部屋に向かう。


「あぁ、来たかい。エース呼んで来いよい。」

「先ゆうてぇな。もっかい行って帰って来なあかんやんかぁ。」


いきなりのパシリにぶーたれるといいから行け、と追い出される。簡単に言われても困る。見聞色の覇気が得意だからといってもこんだけ人が居ると重なり合ってなかなか見つから無いのだ。


「あー、あれかいなぁ。」


甲板の方、うっすらと気配を感じて足を運ぼうとして、立ち止まる。


「あれ、甲板どっちや。」


正確には甲板に上がる為の階段はどっちだ。なのだが、まぁどうでもいい。とにかく、右に行って見るか。と、行った矢先またT字路。次左に行ってみる。右、左、上、下、下、下…………??


「下っとるがな!!」


セルフツッコミをかますと階段を上る。地下1階には来れるが甲板に出れない。困ったな。


「………ってあるぇ、」


意識を集中させれば甲板にあった筈の旦那の気配が消えているじゃないか。


「うそーん。」



Ж




「迷子の迷子のキトちゃんよー、

こちらは一体何処ですかー。

旦那ぁの居場所もわからないー

自分ーの居場所もわからないー

ぴょんぴょんぴょんぴょーん、」

「何してんの。」

「ハルタァァァァァァ!!」


いよいよ現在位置も旦那の気配も無くなったところで、ハルタに遭遇した。


「よかったほんまよかった!!自分の船で遭難するか思てなぁぁぁぁ!!」

「それで歌ってたんだ。」

「そそ。替え歌。なかなかええ出来栄えやろ??」

「原曲なんだっけ。」

「いぬのお〇わりさんや。」

「あぁ、そうか。」


嘘やとかいうそこの読者さん、そう思うならさっきの台詞をそのメロディーに乗せて歌てみたらいいやない!!


「それはそうと、旦那旦那って言ったら誤解を招くよ。」

「そうか??火拳の旦那は火拳の旦那やないの。」


なんだか呆れたような笑いのハルタにキョトンと首を捻ると、


「いや、火拳の旦那ならともかくただの旦那だとさ、ね??」

「せやかてな、火拳んの居場所もー、って火拳の旦那に喧嘩売りに来た御同業みたいやん。」

「エースでいいじゃん。」


さらりと言われた言葉に思わず目を見開く。


「あ、キトの目開いたとこ僕始めて見た。」

「レアやろ。」

「緑なんだねー、綺麗。」

「そらおおきに。」


へらりと笑ってまた目を閉じた。


「それで、なんでエースは名前呼びじゃないの??」


首を傾げるハルタ。どうしようこの子かわいいんだけど。


「なんでも何もなぁ、他の旦那方は呼び捨てでえぇ、てゆぅてくれたんやけどなー、火拳の旦那はいわはらんから、この呼び方気に入ったか、名前呼ばれたないんか思てな。」


マルコも、サッチもハルタもそう。イゾウやビスタやナミュールから他の隊長格は勿論、喋った船員は皆呼び捨てで、と言ったから呼び捨てにしたのだ。今更いきなり呼び捨てにするのもな、とハルタに言えば、


「そうかー。」

「せやねん。」

「エースも素直じゃないからなぁ。」

「そうなん??旦那実はツンデレ??」

「ハハハッそうかもね。まぁ、なんにせよ、キトの方が年上なんだし、もっと歩み寄ってあげてよ。」


笑うハルタがコートの袖口を掴んで、引っ張ると先導して歩き出した。


「何処行くん??」

「エースのとこでしょ??」

「ハルタ大好き!!」


2人して歩き出す。


「歩み寄る、なぁ。」


ポツリと言った言葉はハルタには届かなかった。





>>NEXT














―――――――――

また、書きたいエピソード
書ききる前に
話終わっちゃったぞ!!
どーすんだ、おい←





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