槿花一日。






05



魚屋の親父から聞いた話に、心臓がわしづかみにされた気がして、とにかく一刻も早く会わないと、と気持ちだけが急く。


『村の一番高い建物の上の小屋を村から借りてるんだ。ほら、あれだよ。』


親父の言葉を頼りに一番高いであろう建物の外階段を駆け上がる。屋上まで一気に駆け上がると、見晴らしのいいそこに小さな小屋があった。

窓から覗けば縮こまる小さな探し人。泣いてる気がして思わず窓を押せば静かに簡単に窓が開いた。マコは気付いていないようで、彼女らしくない弱々しい声が聞こえた。


「馬鹿じゃなくて、名前で呼んでくれないかい??マイハニー。」


ふざけてそう言えば今にも泣きそうな顔。再び顔を伏せて縮こまる身体をしゃがんで、両腕で包んでやれば、ピクリと肩が跳ねた。そのまま頭を撫でると、手が伸びてきて、頭を撫でる俺の手を掴むと、パタリと力無く床に落ちた。


「髪が、乱れるから止めろ、万年発情コック。」


そんな憎まれ口を叩きながらこっちを見た銀色の瞳は、泣いてるかと思ったのに、泣いてなかった。


「相変わらず、口悪ぃなぁ。」

「ほっといて。」


変わらぬ彼女に少し口元が緩む。


「久々の再会だってのに、甘えちゃくれないんですか??」


緩く握られていた手をしっかりと繋ぎ直し、指を絡める。


「こんなに今大人しいのに??まだ足りない??」

「まぁ、確かに酷い時ゃ触ろうとしただけで蹴り喰らいますがねぇ、」


苦笑しながら、腰に腕を回し、後ろから抱き竦めるように抱え上げる。


「うぉ、軽っ。」


少し持ち上げるだけのつもりが、いともたやすく、元々小柄だし細くて軽いけど、というか、人間の重さじゃない。20kgも無いだろこれ。


「軽いさ。私、布だし。」


彼女を抱えたまま、ガランとした小屋の数少ない家財道具である、ベッドに腰掛けて、膝の上に彼女を乗せる。


「布??」

「そ、布。」


そう言う彼女の頬を摘んでみたら、むに、と言うより、ふかっとした触り心地がする。突いたりなんだりしてるとなんだか笑えてくる。


「縫いぐるみみてぇ。」

「それ、散々言われ、た。」


俺の言葉を皮切りに、ふわふわしてた甘ったるい空気が冷えていく。


「…………、」

「…………………あぁ、悪ぃ。んでから、さぁ、」


降りた沈黙に恐る恐る口を開く。それから、彼女の顔をこっちに向ける。


「辛い時ゃちゃんと泣きやがれ。」


銀色の瞳が揺れるのを見て、こっちに向けた顔を、そのまま俺の肩にもたれさせると、マコは身体ごとこっちを向いて、背中に手を回してきた。


「もっと早く来てやれりゃ良かったんだけどな。」


そう言って頭を撫でると、小さく首を横に振った。


「大好きだ。マコ、愛してる。」

「…………ば、かじゃないの…。」


そう言ったマコの口元は緩んでいて、少し安心した矢先、背中にしがみついていた手が、ポスン、と小さな音を立てて、ベッドに落ちた。


「んぁ、おい、マコ??」


もたれ掛かる重さが気持ち増えた気がして、


「マコ!?」


返事は返って来なくて、肝が冷えた。


Ж



「チョッパー!!」


船室のドアを蹴り開ければ、ナミさんとロビンちゃんとウソップとチョッパー。


「なんか今日は皆叫びながら帰って来んのね。」


ナミさんがそう言ってやれやれと肩を竦める。


「で、なんか用かサンジって、どうしたんだそいつ!!」


チョッパーの視線の先には気絶したままのマコが俺に抱えられている。


「わからねぇ急に気ぃ失っちまったんだ。診てくれないか。」

「よ、よしわかった!!」


バタバタとチョッパーが走り出すのについて、医務室へ向かう。


「あ、ウソップ!!」

「なんだ??」

「悪ぃが、ちょっと頼まれ事してくんねぇか。」

「おぅし、このウソップ様に任せろ!!」


ウソップに端的に頼み事をすると、チョッパーの元へ行き、ベッドにマコを寝かしてやる。よくよく見れば顔色が悪いのが一目瞭然だ。顔をしかめると、チョッパーに促され医務室を出る。


「サンジくん、あの子大丈夫なの??」

「わかんないです。大分ここんとこ無理してたみてぇなんで。」


ナミさんにそう答えると溜息をつきながら、頭を掻きむしった。


「でも、まぁ一先ずはサンジが元に戻ったみたいだから良かったんじゃないかしら。」


ロビンちゃんがクスクスと笑う。


「あぁ、レディ達に心配かけるなんてなんて失態なんだ!!でも、ご心配なく、男サンジもう心配無用です、レディ達。」

「うん、戻ったわね。」


うんうん、と頷くナミさん。すると、ダイニングの扉が開きブルッグがやって来る。


「ヨホホー!!どなたなんですかあの医務室の女性は!!かぁわいらしいじゃないですかぁ!!」


ルンルンとスキップをして上機嫌なブルッグ。


「パンツ見たいとか抜かしたらへし折って煮込むぞ。」


奴の台詞を先回りして牽制すれば、


「ヨホホホ!!これはこれは手厳しーい!!」

「うるせぇよ!!あいつ起きちまうだろうが!!んのクソ骨!!」

「あ、私コーヒー頂きたいです。」


空気も読まず騒ぐブルッグに怒鳴り付ければ、気の抜ける頼み事をされ、思わずこけそうになるが、仕方なくキッチンに向かう。


「レディ達もいかがです??」

「頂くわ。」

「じゃあ私も。」


テーブルに着いた3人と自分の分の水をケトルに入れる。


「で??どなたなんですかあのお嬢さん。」


ブルッグが再度疑問符を浮かべる。豆を挽きながら、俺は一言、


「あー、俺のだ。」


とだけ言った。ブルッグは口をあんぐりさせ、レディ2人はやっぱりそうかといった顔をした。


「2年程前に、偉大なる航路に行くっつって別れたっきり、俺も暫く会ってなかったんだけどな。」

「ヨホ、彼女は商人とか、芸者の方かなにかで??」

「いや、海賊だ。それもその一味の次期船長っつー肩書のな。」


引いた豆をフィルターに移し、ちょうど沸いた湯を注ぐ。


「次期船長…ですかぁ。お強いんですか??」

「たりめーだろ。今日だって野郎共を一気に5、6人ぶん投げたりなんかしてたしな。俺自身、危うく大怪我させられるとこだったこともある。」


コーヒーのいい匂いが立ちのぼるのをぼんやり眺める。


「の割には私達の他に、海賊船が見当たりませんが………。」


そう尋ねてきたブルッグに、顔をしかめると、


「もう無いのよ。その海賊団。」


俺が答えるより先に、ナミさんがそう言った。無意識の内にケトルを持つ手が白くなるほどに力が入っていた。


「彼女は、ただ1人の生き残り。そうでしょう??」


ロビンちゃんが続けてそう言ってこっちに確認を求めて来るのに、俺は力無く頷く。


「あぁ、そうだ。」

「自分を拾ってくれたこの村への恩返しの為に、最近は村へ来る船の見張りをしていたのだけれど、彼女達の海賊船を沈めた海賊が近々この島に来るかもしれないってことで最近は寝る時間も惜しんで見張りを強化しているらしいわ。」


何処で得たのか、完璧な情報を口にするロビンちゃんに、


「1つだけ訂正、いや追加事項がある。あいつの居た海賊団の幹部は正真正銘の血の繋がった家族だ。」


そう付け足すと、全員が悲痛な顔をした。まぁ、ホネは表情もクソもねぇが。煎れたコーヒーをカップに注ぎ、各人に合わせた砂糖やミルクを加えると、湯気を立てるカップを3つ、テーブルに運ぶ。


「一応言ったが、あいつは同情の類が嫌いだから、あからさまに同情しないでやってくれ。」

「その気持ちは、私も分かるからしないけど、世の中やっぱり無情よね。」


ナミさんはそう言ってコーヒーを飲んだ。


「無情というか、無慈悲、かしらね。」


淡々と言うロビンちゃん。言葉が続かずに、誰もが黙る。と、そこに、チョッパーが現れた。


>>NEXT




――――――

一瞬甘くなった気がしたんだけど、
というか、この話は
ベタ甘のつもりだったのにねぇ←

相変わらずの見切り発車上等
クオリティー。
自分でもこの先どうなるやら
わからないというね←





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