槿花一日。






02



「ただいまー。」

「んナミすぁんおっかえりー!!」


買い出しから帰ってきたナミさんを出迎えに甲板に出れば、2本の視線が突き刺さった。


「ん??ナミすぁんどーしたのそんな見つめて。俺に惚れちゃった??あ、惚れ直した??」


ナミさんとウソップの視線にそう言いながら近寄れば(もちろんウソップの視線はスルーだ。)、荷物持ちに行ったはずのルフィが手ぶらで、ナミさんが荷物を持ってるじゃないか。


「んなっ、クソゴムてめぇ何ナミさんに荷物持ちさせてんだ!!レディは親切に丁重に扱えと……」


そこまで言ったところでぐりん、とルフィの首がこっちに振り返り、


「あぁああああ!!お前か、サンジ!!」


いきなり怒り出した。


「は!?」


訳が分からず、キョトンとすれば、


「お前のせいで白ポンチョ仲間にできなかった!!」

「はぁ??」


訳がわからないまま怒るルフィが言った言葉に少しひっかかる。


「………ちょっと待てお前、今なんつった。」

「だからお前のせいで白ポンチョを…。」


聞き間違いじゃないと、思うや否やスーツの内ポケットを探り長いことそこに納められていたせいで折り目が付いてしまっているそれを広げた。


「おい、ルフィ、それこのレディか??」


"白ポンチョのマコ 賞金5000万ベリー"そう書かれた手配書をルフィの目の前に広げる。


「あぁ、うん!!こいつだ!!」

「サンジお前なんでこんなもん持ってんだ??」


ルフィが肯定する横で、覗き込んだウソップが言った。


「あー、いろいろあんだよ。とにかくお前ら、このレディ何処行った。」


手配書をまたきちんと折り直して、内ポケットにしまいながらそう聞けば、2人揃って首を捻った。


「ちっ使えねぇな。まぁいい、さっきまで一緒に居たんだろ??ならそう遠くにゃ行っちゃいない。ちょっと探して来る。」


タバコを一本くわえ、火を点けると梯子を下りる間も惜しくて甲板から飛び降りた。


「ねぇ、サンジ君。」


飛び降りた直後に、ナミさんが呼び止めた。


「なんか因縁とかサンジ君が女の子相手に作る訳無いし、普通に知り合いなんでしょう??そんな急いで探しに行かなくても、後でもいいんじゃないの??」


そう言うナミさんに、あー、とか唸りながら後頭部をがしがし掻きながら、


「そうも行かないんですよ。」


言い返す間にも、探し人のことが頭を過ぎり自然と笑みがこぼれるのが自分でも分かった。


「あいつ素直じゃないんで。」


それを聞いてナミさんはニヤと笑うと


「ふぅん、いってらっしゃい。後で詳しく教えてよね。」


と、手を振ってさっさと船室へ向かった。その笑顔に少し怖い物を感じたが、踵を返すと町へ向かって走り出した。


Ж



ふぅ、と紫煙を吐き出すと香る匂いに、金髪の女たらしの自称紳士を思い出す。あいつと同じ銘柄をわざわざ探して吸ってるのだから、我ながら重症だ。


「会いに行けばいい話なんだけど、」


本当私素直じゃないよな。と自嘲気味な笑みがこぼれる。町で一番高い建物の屋上、海の向こうから不審な船が来ないかと、いつものように双眼鏡で眺めていた。


「あの船、怪しい。」


向こうから近づいてくるジョリーロジャーを掲げた船に何だか不穏な空気を感じて、建物から一気に飛び降りる。常人じゃあ骨が折れるであろう、高さの跳躍にブーツの底が割れるんじゃないかというくらいの音を立てる。まぁ、自分が怪我をする心配はないのだが、


「ブーツ壊れたら困るなぁ…。」


なんて呟きながら港の方、商店が集まってるところへ向かう。いつも通りにぎわっていて、蒸したタバコの煙を引き連れながら、歩いていると、後ろから隠しきれていない気配。


「しろポンチョかくご!!」


ぴょーいと、効果音が付きそうなへっぴり腰で棒切れを振り回した少年をひらりとかわせば、そのままの勢いで前方にスライディングしていった。


「…バカ??」


別に刺客でも賞金狩りでもなんでもない、近所に住むごく普通の少年は、擦りむいたひざ小僧を撫でると、涙目で、


「バカってゆーな!!」

「だってバカだ。」

「バカっていったほうがバーカ!!」

「あぁ、はいはい、もう好きにしな。」

「ちくしょー!!つよいなしろポンチョこのやろー!!」

「お前がヘナチョコなんだろ。」


むきーっと怒る少年に、やれやれと言いながら付き合ってやるからこんなに纏わり付かれるんだろうか、面倒だなぁ、なんて思いながら吸い殻を踏み潰した。


「こら!!またあんたマコさんにいらん事して!!」


そうこうしてると、少年の母親がやって来てスパン、と少年を軽く叩く。


「なにすんだかーちゃん!!」

「あんたがマコちゃんに世話かけるからでしょう!!いつもごめんなさいねぇマコちゃん。」


少年を叱りながら母親は私に笑いかけた。


「いいですよ。いつものことですし、それにいつも御馳走になってますし。」

「やだもう、御馳走なんてもんじゃないわよ。」


照れ隠しにか、バチーンと勢いよく背中を叩かれ、豪快に母親は笑った。


「なぁに言ってんだい。あれはあんたへの常日頃の御礼じゃないか。皆あんたのお陰で海賊に襲われずに済んでるんだからね!!」


"ガキ共の相手もしてくれてるしね!!"と母親が言うと"ガキって言うな!!"と少年がぶーたれる。


「あんなんでよけりゃまた作ったげるからまたおいで!!」


母親はそう言うと自分の息子の首根っこを引っ捕まえて、自宅の方へ歩いて言った。それを見送ると再び港の方へ足を運ぶ。港に着いて見れば、さっきの船が入港するまで後数分というところだった。


「おーい、皆家入れ、マコちゃんが港に来たぞー!!」


恐らくタバコ屋のおっちゃんと思われる男性が叫ぶ声がして、賑わっていた港付近から人影が減っていく。


「おいおい、なんだぁ、しけた港だなぁおい。俺様の迎えは無しかぁ、え??」


代わりに現れる卑下た笑い声を上げる集団。


「お、なんだ、一人居るじゃねぇか。なぁ、お嬢ちゃん、」


その中の一人、一番偉そうな恐らく船長であろう男が私の姿を認めた。ジィ、と見つめれば目が合う。


「俺達ぁ長旅で色々消耗してんのよ、だからだな、ちょっくら物資を分けて欲しいんだが、話の通じる大人は何処にいる??」


そう言った男を鼻で笑った。


「分けて欲しい??全て寄越せの間違いだろう。」

「なんだぁ、てめぇ。こっちが下手に出てやってんのに、俺達はだなぁ、この島の皆さんの親切心にあやかりたいだけだ。寄越せなんてんな乱暴なこと言わないさ。なぁ??」


ギャハハハ、と笑う奴ら。


「帰れ。」

「は??」


一言発すれば、一気に空気の温度が下がる。


「だから、帰れ。この島に手出すな。」

「おいおい、嬢ちゃん。俺らが誰か分かってんのか??」


甲板から船長が降りて来る。


「俺は「あんたが誰だとか興味ない。」


そいつの台詞を遮れば、ギリリ、と歯ぎしりする音がした。


「ここは、私のお気に入りだからな。手出すなら海の藻屑になれ。締め上げるぞ。」


ガツ、男が一歩踏み出す。


「おいお前ら、碇を降ろせ。」


それから、手下共に指示を出す。


「それから嬢ちゃん、前言撤回するなら今のうちだが。」

「何を撤回する必要が??」


青筋浮かべて男は刀を抜いた。


「このアマ覚悟出来てんだろうな、」


私は首をコキリと鳴らすと、


「それはこっちの台詞。」


次の瞬間、互いに一歩踏み込んだ。


>>NEXT












――――


2011.10/27





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