17とりあえず寝て、起きたら夜中で。騒がしかった麦藁の一味の船に比べたら随分と静かな小屋で一人起き上がり伸びをした。パサリと軽い音を立て肩から落ちる布団。
「そういや、」
ずっと一人で寝れなかったのに寝れたじゃないか今。ふと、そう思い、ベッドから出ようとして、掛け布団以外に黒い物がベッドの上に落ちてるのに気付き、引き上げる。布団に紛れたそれは、スーツの上着。
微かな笑いが込み上げて来て、半ば呆れながらも知った香のするスーツを抱きしめた。
「ばーか。」
ぽつりとそう言って、せっかくだから着てみる。といってもサイズが随分違うから羽織るだけだが。今度こそ立ち上がる。小屋の扉まで行き、ランプに火を点す。簡素なキッチンに足を向け、何か飲もうかと冷蔵庫を開けると、
「ほんっと、どいつもこいつも心配性。」
知らない間に詰め込まれた食材、調理済みの品が何点か、薬と説明書。とりあえず飲み物を取り出して閉めた。せっかくだから後でご飯にしようと思いながら。
ふと、飲みながら簡素なテーブルの上に何か置いてあるのが見えて、テーブルの側に行くと、メモ用紙が一枚、灰皿の下に置いてあった。甘ったるい文面に軽く鼻で笑い、メモの裏側に一言だけ書くとまた、元の場所に戻しておいた。
「王子だなんて思ったことないって。」
そんなアイドルみたいな雲の上の存在なんかであって堪るか、と、一人ぼやいた。
Ж正直な話、勝って貰っても負けて貰っても困るのだ。
彼女が単独で療養し始めてから、何度か気付かれ無いように忍び込んじゃ、料理を残して行くようなことを何度もした。まぁ、気付かれたが。チョッパーの薬も届け、最近は寝顔もすっかり楽そうになったのに安心する。
それでふと、思うのだ。ぶっちゃけた話、マコが一味に入ってくれるのは非常に嬉しい話だ。だっていつでも会えるんだから。だがしかし、だ。彼女に負けて欲しくないのだ。俺の目の前で。だからと言ってあのクソゴムが負けるのもなんだかな、という感じで。
「困ったもんだ。」
ふわふわと、闇夜に紫煙が吸い込まれて行った。今日は何を作ろうか。そういや、マコにまだ好物作ってやってないなと、ふと思う。
「もう寝た、か。」
そんな夜中の散歩道、彼女の寝る小屋を覗き込む。ベッドに布団を被った人影。どうやら壊れているらしく鍵がかかっていない窓を静かに開けて入る。が、一歩入ってから、しまった、と固まった。寝ていると思ったが、どうやら彼女はまだ熟睡はしていないようだ。熟睡しているなら仰向けに寝ているはずで、今は横向いて俺に背を向けている。起きやしないかとヒヤヒヤしながらしばらく彼女を見つめるがピクリとも動かないので安心して窓を閉め、簡素なキッチンに向かおうと一歩踏み出す。
「明日、」
その瞬間突然マコの声がして、びっくりして目を見開いて固まった。
「行くから。」
ぽつりぽつりと言われた言葉に振り向くと、やはりベッドの上で彼女は寝たままで、こっちを向くことはなかった。
「起きてたのか。」
「寝てる。」
はっきりとそう答えられ、目をしばたかせながらベッドに近づいた。
「起きてるじゃねぇか。」
「寝てる。じゃなきゃ、明日決闘する相手の一味の人間を居座らせていいはずない。」
「あぁ、だから。」と口には出さずに、彼女がタヌキ寝入りしていた理由に納得する。海賊としての礼儀を欠くのは彼女は嫌いだったなと頬を掻く。そこでふと思い付き、ベッドに腰掛けるとマコを抱き上げて抱えてみた。
「……………おい、」
「寝てるから気付かないだろ??」
即刻不機嫌な声が咎めて来たが、そう言えば、反論出来なかったのか、悔しげに唸る声がする。
「マコ不足で死にそうなんだ。」
背中に回した腕に軽く力を込める。
「黙れ。」
「あんまり辛辣だと辛いんですけどマコさん。」
「知らない。」
そう言いながらもマコだって俺に寄り掛かってきているのだ。嫌な訳じゃないらしい。
「マコ、」
「…………何。」
こっちを向いた瞳がやっぱり綺麗だと思い、
「好きだ。」
思わず口をついて言葉が出る。マコが目を見開く。それから、
「フゲッ、」
「うるさい。」
アッパーカットが飛んで来て、妙な声が出て。マコが腕の中からスルリと抜け出て俺の前に立った。
「いきなり何を、」
「るさいってば。」
痛む顎を摩りながらマコを見ると、ムスと機嫌悪そうに口を尖らせる顔は何処か赤くて。
「人が我慢してたのにベタベタしてくんな馬鹿。」
明後日を見る彼女にボソボソとそう言われたらハートを撃ち抜かれるってもんで。緩んだ顔で立ち上がりマコの頭を撫でた。
「そんなに俺に会いたかった??」
「―――っもう口開くな馬鹿!!」
噛み付きそうな勢いで言われたが真っ赤な顔じゃあそれさえ可愛くて、
「はいはい。何かご飯のリクエストはありますか??マイハニー??」
「私の好きなもの。」
「…………俺??」
「ハ、寝言は寝てから言え。」
ちょっとふざけるといつもの調子になってきたのでここらで切り上げるとする。
「じゃあ飯作ったら帰っから。」
「いいよ。どうせ明日そっち行くんだし。しれっとした顔でそっちの船で食べる。」
「ありかそれ。」
「ありだ。どうせ、明日私が勝つんだから。」
ニィと笑ったマコ。
「そっか。」
「うん。」
きっぱりと言い切る彼女に、何か算段があるのだろうかと思うが聞いても教えてもらえないだろうから聞かなかった。
「無茶すんなよ。」
「わかってるって。」
もう一度頭を撫でて、
「じゃ、おやすみ。」
「ん、また明日。」
笑みを浮かべた彼女と別れた。
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絶対チョッパーとサンジは
不法侵入してでも世話焼くと
思うんだよねー。
こんな糖分高くする気は
なかったけどベタ甘になってしまった(笑)