槿花一日。






15


何がまずいって、出血量がらしい。血相変えたチョッパーが駆け回る。しかもそんな状態で海に落ちたもんだから体温が下がってしまったとか。その上厄介なことに体が布であるせいで、海水やら血液やらが皮膚に吸収されてるとか。そんなこと有りなのか、と思ったが起こってる以上有りなのだろう。一度、それらを抜く為に風呂に入れたり、乾かしたりと勝手が分からない超人系の能力者にチョッパーだってパンクしそうになっていた。


「チョッパー、」


気が付けば夜も更けた頃、銃弾が貫通していた箇所の手術をしていたチョッパーが漸く医務室から出て来た。


「もう大丈夫だぞ!!」


笑顔を見せたチョッパーに全員が安堵する。


「脈も安定してきたし体温も回復してきたからな。後は安静にしていれば大丈夫だ。」

「よかったわね、」


さっきからそわそわ落ち着けなかった俺に、ナミさんはそう言って笑った。



Ж




ふと薬品の匂いがして、まだ、眠いと寝返りを打とうして、左腕に鈍い痛みが走ったからやめて、目を開いてみた。


「………………どこ、だ、」


見覚えはある気がする天井をまだはっきりしない頭でぼんやり眺めた。するとピンク色が視界の端に写った。


「気が付いたか??」


これまた何処か覚えがある声がして、なんだか妙に重い頭を声の方に向けた。


「…………あ、」


視界に写ったピンク色は、小さな船医の帽子だった。


「大丈夫か??気分はどうだ??」


ピョコンと顔を出した彼の頭を思った以上にぎこちなく動く手で撫でた。


「だい、じょーぶ。まだちょっとぼーっとするけど。」


心配そうな彼に出来る限り笑ってみせた、つもりだ。果たして笑えたかは別だが。


「長いこと寝てたからかもな。なんか食うか??」

「ん、なんか飲みたい。」

「わかった、貰ってくる!!」


トテトテと部屋から出ていく姿を幾分かはっきりしてきた状態で眺めた。再び視線を上に戻せば、左腕から管が伸びていた。


「おい、」

「ん、」


足元から投げ掛けられたぶっきらぼうな声に少し頭を持ち上げる。と、腰に挿した刀をカチャカチャ言わせながら、緑頭の偉そうな青年がベッドの横までやって来て持ち上げた頭を枕に押し付けられた。


「……寝てろ。」

「なら声かけなきゃいい。」


声かけてきた癖になんなんだと不満を言えば、彼の眉間がさらに寄る。


「るせぇ。てめぇが早く良くなんねぇとクソコックがいつまでも腑抜けてて気色わりぃんだよ。」

「……なんだ、あんたツンデレか??」

「お前に言われたくねぇ。」

「やめてくれ、クソマリモがツンデレとか吐き気がする。」


と、そこにげんなりした顔のサンジがグラスを持ってやって来る。


「そう??」

「あぁ、全国のツンデレのレディを愛せなくなりそうだ。」

「それはよっぽどだな。」


そう言って笑えば、くしゃりと髪を撫でられた。


「とにかく、元気そうでよかった。起きれるか??」

「ん、起こして。」


まだ顔に心配だと書いてある彼に甘えてみる。


「かしこまりました。」


普段はうざいと一蹴する姫扱い、レディ扱いにも目をつぶる。抱き起こされると同時に、ベッドに腰掛けたサンジにもたれ掛かる。緑頭の青年が呆れたようなげんなりした顔をした。


「特製ドリンクです、姫。」

「ありがと。」


渡されたグラスを両手で握れば冷たいグラスが心地好い。


「おいしい。」


ぽつりと言えば、


「当たり前だろ。」

「まぁ、否定はしないけど。自分で言うことじゃない。」


自信満々な彼を見上げるとまたぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。


「いいだろ別に。自信あんだよ。」

「……はいはい。でさ、」

「うわ、流された。なんでしょう??」


言い出したらキリがないと、無理矢理話題を逸らせば苦笑いと返事が返ってくる。


「一体どうなった??あんたと海に落ちた後覚えてない。」

「あー、あの後な。あの船は近所の人に海軍呼んで貰ってしょっぴいて貰った。それはロビンちゃんが見届けたから確かだ。で、そん時に俺らも狙われちゃ面倒だからって今街から少し離れたとこに移動した。で、今に至ると。」


海軍にしょっぴかれて2度と娑婆には戻って来ないだろうよ。というサンジに少し安堵すると、それが伝わったのか分からないが、膝の上に乗せられ抱きかかえられた。表面が結露し出したグラスを傾け飲み干した。


「そ、か。」

「後、ジョリーロジャーはちゃんと洗って干して置いてあるのと、悪いが勝手に服着替えさせたりした。んで、そん時にこれ、ポケットに入ってたの預かってた。」


空になったグラスと交換に、手に渡された小さな包み。


「大事なもんだろ、多分。」

「うん。」


預かった、今や私の物になったモノクルの入ったそれを両手でぎゅ、と握った。


「…………お前熱ねぇか??」


急にそう言われ、そう??と言いながら顔を上げれば、こつんと額同士がぶつかった。そんなつもりはなかったが、サンジが冷たく感じるのは自分が熱いからか。


「ほら、やっぱり。」

「そうか。」


視界の隅になんだか呆れた顔の外野が見えて、それから珍しくお腹が減った気がした。


「マコ、腹減ってないか??」

「んー、ちょっと??」


それを見越したかのようにぬいぐるみみたいな彼がそう言って、


「ちょっと、って。お前丸2日寝てたんだぞ。食わなきゃダメだ!!」


そんなに寝てたのか。と他人事のように感じる。まぁ、体のあちこちが軋んでいるから、大分寝てたんだろうとは思っていたが。


「じゃあ、食べよかな。」

「何食いてぇ??」


ぽつりと呟いた私の顔を心なしか嬉しそうにサンジが覗き込む。


「んー、特に……………、あ、旦那さんの愛の篭った料理??」


からかい半分にそう言ってみたら、サンジの目が見開かれて、それから急に顔が赤くなった。顔を逸らしたサンジは手で顔を隠すと、それをごまかすように私を膝から降ろしてそそくさと立ち上がった。


「く、クソ美味いの作ってやるから待ってろ。」

「はいはい。期待しとく。」


背中を向けられているから見えないだろうけど、ヒラヒラと手を振った。閉められた扉を見て、クス、と笑えば、


「そんな面白かった??」


部屋の隅で笑いを堪える偉そうな彼とベッドの脇の小さなぬいぐるみみたいな彼。


「あぁ、珍しいもん見た。」

「サンジ口説かれることまずないもんな!!」

「ハハっ、そうかも。あいつ口説かれんの苦手なんだ。」


あんまり言ったら可哀相かな、とこの辺でやめておく。ベッドから出ようとしたが、本調子じゃないし、その内エスコートに来るか、と座り直した。


「ん、ダイニング行くなら手伝うぞ??」

「や、いいよ。どーせ出来たらエスコートしに来るから。」


そう言えば、納得したように彼はじゃあ体温測ろう、と机に向かって、


「じゃ、俺ぁお役御免だな。」


と、偉そうな彼は大きな欠伸をして部屋から出て行った。そんな様子を微笑ましげに眺めて、私は、頭の片隅でこれからどうしようかと、一人思案していた。



>>NEXT














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漸く一息つきました。

サンジは押せ押せな分
押しに弱いと禿げ萌える←





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