槿花一日。






11


「おわっち!!」

「なんだなんだぁ!?」


ダイニングに飛び込んだルフィに続こうと思ったのだが、その足はダイニングからおっぽりだされたルフィに驚いて止まった。


「サンジが、もう少し待てって。」


ゴロゴロと転がってったルフィの後に出てきたのは、マコってやつ。


「マコ!!おめぇ今何したんだ??」

「あんたを止めて蹴り出しただけだけど。」


後頭部を掻きながらそれがどうしたと言わんばかりの顔をする彼女。


「止めた、ってあのすげえ勢いのルフィをか??」

「うん。」

「うん、って普通は止まんねぇだろ。」


思わずツッコミを入れると、マコの後ろからナミも出て来る。


「何、あんたも無駄に腕力あるってタイプな訳??」

「いや??」


きっとゾロなら腕力に物を言わしてあれくらい出来るのだろうが、話題の彼女は細くて小柄。そんな腕力はない、と本人も否定する。


「どんな衝撃も吸収するんだ。私の身体はね、布なの。」

「「「布??」」」

「そ、超人系ラグラグの実を食べた布人間。例えば布団を思い切り殴っても痛くないでしょ??あれは殴った衝撃が分散するから。一緒で私に当たった衝撃は分散されるから、仮に殴られたとしても、私も殴った本人も痛くない。」


そう言ったマコは、起き上がったルフィの方に2、3歩近づくと、左の手の平をルフィの方に向ける。


「この手、殴ってみ??思い切りでいい。」

「いいのか??」


元よりあまり加減出来るような奴じゃないルフィが、キョトンとしながら腕を回す。


「いいよ。殴って私を1cmでも動かせたら明日のお昼ご飯奢っだげる。」


一方、自信あり気ににやりと笑うマコ。


「メシ!?本当か!?」

「あぁ、多少なら金もあるし。ま、私を動かせてから言いな。」


それを聞いて目を輝かせるルフィ。


「うし、行くぞ!!ゴムゴムの……、」


本気も本気。ぐんぐん腕が後ろに伸びていく。


「銃ぅ!!!!」


そして容赦なく放たれた拳は、

バスン。

と布団を叩いたような音をたて、マコの手の平でピタリと止まった。彼女は1ミリ足りとも動かず、そこにいた。


「残念でした。」


口角をより一層吊り上げ、マコは言う。ルフィは止まった拳を数瞬パチクリとして眺め、それから目を輝かせた。


「すっげぇ!!俺以外にも打撃効かねぇ奴居たんだな!!初めて会った!!」

「そう。」

「他には何が出来んだ??」

「出来るっていうか、抱き心地は縫いぐるみらしいよ。自分じゃ良くわかんないけど。」


マコがそう言うと、ナミがマコの側までやって来て急に抱きついた。


「わ、」

「あら!!本当ねふかふかだわ。抱き枕に丁度いい感じの。サンジくんがうらやましいわ。」


ギュッと抱き着いて頬をつついてみたりほお擦りしてみたりしながらナミは「ロビンもどう??」なんて言う。


「あら、本当ね。」


と、ロビンにまでちやほやされるマコ。がしかし、本人ちょっとうっとおしそうだぞ、なんて言う勇気は俺にはなかった。そんなことをしていると、皿を抱えたサンジが船室から顔を出す。


「んなぁっ!?」

「あ、サンジくん。借りてるわよ、彼女さん。というか今日の夜借りていい??」


しれっとそう言うナミに、サンジはその光景に口をあんぐりと開け数秒。


「な、ナミさんと寝るつもりかマコ………!!いや、マコと寝るナミすぁんもうらやま……いや、とにかくそこ変われマコ…………!!って俺は何処に嫉妬したらいいんだぁぁぁぁ!!!!!!」

「知るか。」


叫びながらじだんだを踏むサンジに冷ややかなマコの声。


「あら、酷いのね。」


クスクスとロビンが笑って、


「とにかくそこに居たら誰もダイニング入れない。」


さらに追い撃ちを掛けるマコ。しょんぼりを通り越してぐったりするサンジ。彼女は、軽くため息をつくと、ナミとロビンから離れてサンジに近寄る。


「………抱き着きたきゃ抱き着ゃいい。しょげるな。」


そう言って両手を広げるマコの言葉を聞いた途端、竜巻の勢いでサンジはテーブルに皿を置くと、


「マイスウィートハニィー!!!!」


そのままダイブするように抱き着いて。


「うざ。」


ぽつりとマコが呟いたのなんてお構いなしにほお擦りする。それを呆れ返りながら見て、脇を通り抜けダイニングに向かった。


「サンジー!!飯!!早く飯!!」


同じくルフィが席につき、何処から持って来たのかナイフとフォークを握りしめカタカタそわそわとサンジを呼ぶがサンジは残念ながら彼女に夢中で、他の奴らもぞろぞろと集まる中、マコは、軽くため息をつくと、サンジを引きずるようにしてキッチンに向かった。


「ほら、配膳。これかこれかこれが女性陣で後は適当でいいね。」


カウンターの向こうでマコはそう言うと、問答無用に皿を持ち上げる。


「いや、マコは席に………、」

「二人でやった方が早い。」


普段配膳はほとんど手伝わせないサンジがそこになって漸くマコを止める。既に皿を持ったマコはサンジを見上げると、


「それに、私こういうの慣れてんの知ってるでしょ??」


と、言って、右腕で2皿、頭に1皿、左手に1皿を持った端から見れば危なかっしさ窮まりないような状態ですたすた歩き出した。


「うぇ、おい、お前危な、」


慌てて、俺が手伝おうと立ち上がるも、ちらりと視線で制された。


「心配すんな、ウソップ。絶対落としやしない。」


サンジがそう言って別の皿を手に取り、こちらに歩いて来る。


「そうなのか??」


予想に反して安定した足取りで皿を置いたマコ。そういや、昼間もトレー持ったままルフィの手から逃れていたことを思い出す。


「あぁ、あいつバラティエでウエイトレスやってたからな。」

「バラティエ??」


サンジが言った言葉に、チョッパーを筆頭にその店を知らない奴らが疑問符を浮かべた。


「サンジくんが居たレストランよ。懐かしいわねぇ。」


俺の代わりにナミが応え、


「そうだなぁ、おっさん元気かなぁ、」


と、ルフィがへらりと笑った。


「ハ、あのクソジジイが簡単にくたばるたぁ、思えねえな。」

「確かに。」


鼻で笑ったサンジに、マコが同意した。


「にしても、マコちゃん海賊なんでしょ??なんでまたウェイターなんか、」

「あー、いろいろあってそうなった。」

「いろいろ??」


完全に面白がっているナミが聞き出そうとする。


「ま、いいじゃねえか!!とりあえず飯食おう!!」


気がつけば皿が並んでいて。ルフィがそう言って、全員が、揃っていただきますと言った。



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