09目を覚ますと、ボンクの縁から3組の目がこっちを見ていた。
「――――っ!?」
びっくりして跳ね起き、後ずさりした勢いでボンクから掛け布団ごと頭から落っこちた。
「おいおい大丈夫かよ、ちっこいの。」
落ちた頭のすぐ脇に足が見えて、見上げたら海パン一丁のおっさんだった。とりあえず、腕の力で跳び上がって、その割れた顎を蹴り上げる。
「ちっこいって言うな。それからあんたの格好の方が大丈夫か、鉄人フランキー。」
羽織っただけのシャツに海パンってのはいい歳したおっさんの格好じゃないだろう。といった意味を込めた視線を送ると、
「何、そんなにリスペクトしてくれるなら兄貴って呼んでくれても構わないぜ。」
「ところでボンクを覗き込んでた3人組、今何時だ。」
「無視か!!」
話が通じなかったのでひとまずスルーしてみた。
「次の日の昼だぞ!!」
「おい、サンジ呼ばないと行けないんじゃないか??」
「それより、ちびポンチョ仲間になれ!!」
「「今言うことかそれ!?」」
ぬいぐるみみたいなのと麦藁くん、それから長っ鼻の奴が口々にそう言って、長っ鼻が部屋を出てった。
「なぁ、いいだろー??仲間になれよちびポンチョぉ。」
「とりあえず失礼過ぎるその呼び方を改めろ。」
「俺を無視してるお前も大概失礼だからな。」
振り向くと水色のリーゼントを整えながら変態はこちらに近づいてきてまじまじと私を見た。
「何。」
「いや、サンジってロリコンだったのかと思っペぁっ、」
再び顎を蹴り上げると舌を噛んだじゃないかと文句を言われる。
「誰がロリだ、誰が。」
「お前以外に誰がいるんだちっこいの。」
「よし表に出ろ変態サイボーグ。弱い者イジメは趣味じゃないがそこまで言うならスクラップにしてやる。」
「ぬぁに??弱い者イジメだと??」
そいつぁー聞き捨てならねぇと言ったサイボーグと睨み合いをしていると、バァンと派手に扉が開く。
「ムァイスウィートハァーニィー!!!!!!」
お盆を持って飛び込んできたのは他でもないサンジな訳で、そのまま飛び付いて来そうな勢いだったのでサッとお盆を奪い、顔面に蹴りを入れた。
「ウガッ。」
後ろに倒れるサンジを見て、容赦ねぇな、と長っ鼻の声がした。お盆の中身を見ると昼ご飯のようで、
「昼ご飯持って来てくれたんだ。」
「そうそう。」
あっという間に立ち直ったサンジが抱き着いてきて、あまつさえ顔が近づいてきて、キスする気満々な顔してたから直前で顔を握るようにして止めた。
「………なんの真似。」
「おはようのキスとチューを、」
「却下。」
接近する頭を押し返そうと戦っていたら、手にしたお盆に近づく影。
「あんたも、」
伸びた手が、盆の上の食べ物を狙っていた。
「マナーがなってない。」
手の甲に向けて爪先を叩き落とす。勢いの割にはむにっと手が潰れただけで痛がりも何もされないのを見て、
「あぁそうか。」
と一人勝手に納得してぼやいた。
「何がだ??」
すると突如背後から突き出した長い鼻とかけられた声にびっくりして、少し後ずさると同時にサンジが長っ鼻を蹴り飛ばした。
「てめぇ何ビビらせてんだ!!あぁ見えて繊細何だぞ俺の姫君は!!」
「色々突っ込みたいがとりあえずうざい。」
「ウグっ、」
凹んで座り込み"の"の字を書き出したサンジはほって置き、蹴り飛ばされた長っ鼻を見て、
「今、手を叩き付けた時の異様な感触、伸びてた手、結構な勢いで蹴り付けたにも関わらず痛がらなかったとこから能力者か感覚が麻痺してる恐らく前者、サンジがクソゴムって罵ってた。というのを考慮すると、麦藁くんはなんらかの実を食べたゴム人間なのか、と推察したんだ。その結論を出した際の感嘆だ。さっきのは。」
普段からたまにそういう自己完結な独り言があるんだ、と言えば、
「おめぇ、天才か??」
「天才だな。」
と麦藁くんと二人してポカンとする。
「そう??………ファ、」
そうでもないと思うけど、という前に欠伸が出る。やっぱり寝過ぎたかな、と目を擦る。
「それで、調子はどうだ??」
くいっ、と下から服を引っ張られ、視線を落とすとぬいぐるみみたいな奴が見上げていて、
「随分楽、ありがと。」
と頭を撫でたら、「な、撫でられたからって嬉しくねぇぞ!!コノヤロー!!」と言いながらニコニコして、踊りだす。どうしよう、かわいいなコレ。なんて見つめていると
「マコ、飯食うならそこの掘ごたつででも、」
復活したサンジがタバコに火を点しながら言う。
「や、いいよ。ダイニング行く。寝過ぎたから動きたい。」
そう言って扉に向かいながら再び伸びてきた手を踏み付けた。
「さっから器用だな、零しもせず足でよぅ。」
すると、しばらく様子を見てたらしい変態サイボーグが顎に手を当て感心したように言う。
「あぁ、ウエイトレスのバイトしてたから、慣れてる。」
「バイトだぁ??海賊がか。」
「ん、まぁ色々ね。話せば長いから今は割愛。」
そう言って話を切ると、部屋をさっさと出た。
Жふわっと風が髪を舞い上げる。1日降りに立った私の仮屋のある屋上から街を見下ろすと、いつものように屋上の縁に腰掛けた。
あのあと、寝たし食べたし元気だし、と言い船医のぬいぐるみみたいな奴に頼み、後半は脅したなんてことは気のせい、3食ちゃんとサニー号に食べに行くという約束で解放してもらった。
おやつに、と押し付けられた名前忘れたけど、ラングドシャという種類のクッキーを丸めて細長い棒状にしたお菓子をくわえながら港を見下ろした。
私がダウンしてる間はうまいこと何も無く終わり、見張りを変わってくれた彼らに更なる迷惑をかけずに済んで少しホッとした。まぁ、最も緑の髪の偉そうな青年は暴れたかったみたいだが。
「ログも貯まっただろうし、」
サクッとクッキーを噛み切って飲み込んだ。
「早く行ってくれたらいい。」
残った部分を口の中にほうり込んで、クッキーの滓の付いた手を払うと、ポケットを探り小さな包みを出し、広げた。
「いいやつらだけど、」
中から出したモノクルを空に翳した。
「一緒には行けない、から……………。」
私はこれを、初代船長のモノクルを、継がなきゃいけないから、他の船に乗る訳には行かない。私達の"誇り"を取り戻して、これを継がないと、イケナイんだ。
何故だか無性に息苦しくなった。
「行け、ない…………から。」
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