槿花一日。






01



「もぅ!!なんであんたはいつもいつもこうトラブルを持ってくるのよ馬鹿!!」

「しっしっし、いーじゃねぇか楽しいし。」


立ち寄った島、路地裏、買物袋担いだナミとウソップと俺。


「楽しくねぇよ!!つかルフィ、笑ってねぇでさっさとどうにかしろよ!!」


後ろは行き止まり、前は海軍。


「よし、じゃあちょっくら暴れるか。」


ニィっと笑ったその直後、何かが頭上を横切った。海軍の視線が上に奪われる。建物の屋根から屋根へ跳んだ影は、俺の右手側に着地すると屋根に座り足をブラブラさせながらこっちを見下ろしている。


「なんだぁ??」


白いフード付きのポンチョを着てフードを目深に被ったそいつは、口元しか見えなかったが、少なくとも口には笑みを浮かべていた。


「白ポンチョか、…また同業を潰しにでも来たのか。」


海軍の一人がそう言う。


「なんだぁお前。俺らに喧嘩売りに来たのか。」


黙ってニコニコしているそいつを見上げれば、黙って首を振った。それから、そいつは不意に屋根から飛び降りた。

ふわり

と、まるで羽みたいな軽い物が音もなく静かに着地するように。


「あんたら、ただの通りすがりだし、一般人に害なさそうだから、別に潰したりなんかしない。」


俺を見て、声的に女であるらしいそいつは言った。


「全く、誰彼構わず潰して回ってるみたいに言わないで。警戒された。」


それから、海軍に振り向き少し不満そうに言う。


「まぁ、事実には違いないけど。でも、私が潰してんのはあくまでこの島の住人に害を及ぼしそうな奴ら。」


と、言って腕を組んでふんっと鼻を鳴らして少し踏ん反り返る。


「なら、我々が捕まえるまでだ。ついでにお前もだ、白ポンチョ!!」

「「ぎゃーーーー!!」」


一斉にそう言った海軍が畳み掛けて来て、ナミとウソップが叫ぶ。俺が臨戦体制に入った時、


「はぁ……恩知らずな奴ら。」


白ポンチョの奴が動いた。何処から取り出したのか、ポンチョの下からロープが伸びて、ブンと腕を振ったかと思えば我先にと突っ込んできた海軍の足元にピンと張られ、海軍がドミノのようにバタバタと転んだ。


「おぉ、お前すげぇな。」


俺が関心の声を漏らす間にロープを自分の方に引っ張ってくると、そいつはそのままロープをしまうことなく俺達3人の身体をぐるりと一周して縛って、俺らが持ってた荷物を抱えると、まだ重なり合って身動きが取れない海軍を尻目にひょいと横の建物の屋根に飛び乗る。


「うほぉ!?すっげぇ!!」


ロープに引っ張られ、俺らも屋根に引っ張り上げられる。


「なんだなんだぁぁぁ!?」

「ちょっとあんたら暴れるないで。落ちるから。」


騒ぐ俺らを気にも止めず、軽々屋根から屋根を跳んでいく白ポンチョの奴。ウソップが何度か屋根に激突して悲鳴が上がる。いくつか通りを跨いだところではたと止まり俺らを下ろした。


「はい、で、麦藁くんは長鼻くんを担ぐ。長鼻くんはこれを持つ。」


テキパキと指示を出しウソップに荷物を持たせた白いポンチョの奴は、俺がウソップを担ぐのを見ると、ナミを担いで更に屋根から屋根へ飛び回る。


「ちょ、ナミをどこに連れてくんだお前!!」


追う俺とウソップ。5分ほどで不意に屋根から道路へ白ポンチョが降り立ち、俺らも続けば、そこはもうサニー号の目の前だった。


「お前、なんでサニー号に??」

「あんたらこの船じゃないのか??あのまま居たら海軍がうざいだろうから屋根伝いのルート案内したんだが。」


なのに、まるで人攫いみたいに言ってさ、なんてぶつぶつ言う目の前の奴。


「お前……いーい奴だったんだなぁ!!疑ってゴメン!!ありがとう!!」


礼を言いながら肩を組めば、


「はいはい、どういたしまして。それじゃ、」

「って、えぇええ!!もう行くのかよ、お前!!」


するりとくぐり抜けられ、あっさりと白ポンチョの奴は立ち去ろうとするから引き留める。


「え、まだなんかある??」


腰に手を当てながら首を傾げるそいつに、


「ある!!お前いいやつだし面白ぇから仲間になれ!!」


と、言えば、白ポンチョは固まって、


「あんた、また性懲りもなく…!!」


ナミは呆れたように言った。白ポンチョは黙ってフードの上からポリポリと頭を掻く。


「麦藁の一味、ねぇ……。」

「な、いいだ「だが、断る。」


すぱんと切り捨てるように言い切った彼女に、ぶーたれていると、


「こっちにも事情があるの。ってことで、もう海軍に絡まれないようにね、麦藁くん。」


と言って、軽々とまた建物の屋根へと上がる。


「えー、行くなよぉ。」


それでもまだ食い下がる俺に、いい加減にしろ、とナミが止める。その時一際強く潮風が吹いて、ポンチョのフードが取れて茶色の髪が靡いた。そして、それをかき上げて覗いた灰色というか、銀色というか、色味の薄い、それでもって強い意志を宿した瞳と、目があって、口を開いたはずなのに、声が出せなかった。そのまま、フードを被り直し、俺らに背を向けるから、


「あ、ちょ、「しつこいとさ、」


とりあえず出した声を遮り振り返った、


「レディに嫌われるって、誰かさんは煩くない??」


その口は一瞬悪戯っぽく笑って、次の瞬間には建物の向こうに消えた。



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