槿花一日。








夕食の後、更に鍛錬をして、軽く汗を流した後の深夜に近い時間帯。相変わらず薄暗くじめっとした城の中を歩いていると、キッチンの方に明かりが点いているのが見えた。
羊野郎がまだいるのであれば酒の当てでも作って貰おうかと近づいてみたら話し声もする。どうやら二人居るようだ。
キッチンを覗き込むと案の定羊野郎と鷹の目が飲んでいた。大きなキッチンにある簡素なテーブルで二人でブランデーを飲んでいるらしく、机の上には既に酒の肴も用意されていた。


「これはこれはゾロ様。お呼びせず申し訳ございません。一杯如何でしょう。」


羊野郎がそう言って立ち上がる。鷹の目は俺の来訪にも構わずグラスを傾ける。元よりそのつもりだったとはいえ誘われたのだ。そうであれば断る由もないと、同じくキッチンのテーブルに着く。よく見れば酒の当てはチョコレートであった。甘いものしかないのかと少し眉を顰める。


「ゾロ様はワの国のお酒がお好みでしたね。チョコレートにも合うものがございますので是非。」


その間にも、着々と酒を取り出し、羊野郎が酒を注いできた。


「何か塩気のあるものはねえのか。俺は甘いものは好まねえんだが。」


と追加の肴を要求する。しかし、羊野郎はそのまま席に着いてしまったのだ。無いのかと軽く舌打ちをして酒を口にする。相変わらずどこから仕入れているのか不明だがうまい酒ばかり出てくる。


「こちらのチョコレートはお酒と合うよう甘さ控えメェでございますので、そう言わず一口メェし上がってくださいませ。」


不満そうな俺に羊野郎がそう言って、渋々チョコを一口、口にするするとどうだ悔しいことに案外合うではないか。寧ろ酒のスッキリ感が引き立つ気がする。
無言で次のチョコレートを口にする俺を羊野郎は微笑んで見つめてくるものでやはり少し悔しいと思ったとこではた、と羊野郎の表情が見えることに気が付いた。


「あれ、おめぇ着ぐるみはどうした。」


常に暑苦しそうな着ぐるみの頭を付けていたはずの目の前の人物は、飄々と素顔をさらしてグラスを傾けているではないか。


「おや、着ぐるみを着たまま食事が出来るとお思いで?」


先程まで微笑んでいた羊野郎が真顔になってそう答える。何を当たり前のことを言っているのだと言わんばかりのその態度にイラっときた。


「おう、その当然だろみたいな顔やめろ当然の如くいつもてめえが着ぐるみ着けてっからだろ。」

「それはお嬢様の前だけでございますので。」


しれっと言い返してくる羊野郎に、いらいらが更に募って思わず刀に手をかけた。


「おい、酒の席だ。」


そこに鷹の目が制してきたもので今度は大きく舌打ちをして浮き上がりかけた腰を再度下した。今に見てろよこの羊!





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