槿花一日。








ここはスリラーパークの城の一角。空はどんより曇り空。じめじめしたどんよりとした空気窓際に置かれたテーブルについて、私の庭を歩く可愛いゾンビたちを眺める。今日も最高の天気だと上機嫌でいると、足音が一つ、カチャカチャと食器の音と共にこちらへ近づいて来た。


「お嬢様、お茶をお持ちしました。」


抑揚があまりなく、それでもって可愛くない、しかし聞き慣れてしまった声がした。それと共にテーブルにティーセットが差し出される。お気に入りの可愛いカップに、三段重ねのケーキスタンドには私好みのお菓子が並べられている。ほどよい頃合いに出た紅茶がカップに注がれる音を聞きながら


「ご苦労、ラチェレ。」


そう言って労いも兼ねて振り返る。この可愛らしい空間にも浮かない可愛らしい顔がティーポットを片手に一歩下がって一礼をした。いや、正確には顔ではない。頭だ。ちょっとがたいの良い可愛くない体格がまとう燕尾服の上に不釣り合いな羊の着ぐるみの頭がちょん、と乗っているのだ。目を閉じてすまし顔の羊は、今朝私が選んだ小さなシルクハットをその頭に乗せて恭しくお辞儀をしたのだ。
可愛い可愛いゾンビたちの中、こいつだけはゾンビではない。私の執事だ。名前をラチェレと言う。モリア様のところへ来て以来、私の身の回りを世話させてやっている奴だ。かれこれ20年近くになるが常にこの羊の着ぐるみを被って私にその素顔を見せたことはない、いや、本当に初めてあったころは普通に人間の顔をしていたような気がするのだが、イマイチ覚えていない、という方が正しいか。


「ん?いつもと何か紅茶違うぞ?」


今となってはなんの違和感もなく見れるようになってしまった着ぐるみは一先ず置いておいて、紅茶を飲もうと一口、口にした紅茶の香りが違うと言えば、


「フレーバーティーというものをご主人様から頂きましたので入れてみました。カラメェルだそうで。」

「モリア様が?」


珍しいものもあるものだと振り返れば「こちらでございます。」と茶葉を見せてくれた。見たところでいつも煎れてもらってばかりだから良く分からないのだが。モリア様がくれたというのは純粋にうれしい。


「ご主人様もご友人から頂いたそうですが、ご主人様は紅茶よりもコーヒーの方をよくおメェし上がりになるのでお嬢様に差し上げた方がいいのでは、と仰られておりました。後ほどちゃんとお礼を仰っておいてくださいませ。」


そういうと茶葉を缶の中にしまって紅茶を持ってくるのに使ったであろう盆の上に乗せた。


「ふん、言われなくても礼くらいちゃんと言う。ご苦労だった。もう下がっていいぞ。」


確かに幼少期から世話を指させていたとは言え、この男は私の執事の癖に随分と私を子ども扱いする節がある。


「さようでございますか。失礼いたしました。それでは下がっておりますのでまた何かご用メェがありましたらお呼びくださいませ。」


それが面白くなくて追い払うようにそう言ったにも関わらず、額面通りに言葉を受け取ると、ラチェレはさっさとお辞儀をして本当に下がって行ってしまった。一人でお茶するのは寂しいのではないかとかそういう配慮はないのか!と憤慨しそうになるが、下がらせた手前、すぐさま呼びつけるのも癪に障る。仕方ないと、紅茶をいつもより多めに口に流し込んだ。さっさと飲み干してしまってお代わりを寄越せと呼び出すより仕方ないではないか。





ひつじのしつじは
ぐるみしつじ





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