槿花一日。








『おいラチェレ!お前誕生日はいつだ?』

そんなことを聞かれたのはいつの頃だったでしょうか。勉強に飽きたらしいお嬢様は百科事典を机の上に広げっぱなしで椅子の上で伸びをしながら、そんなことをお聞きになりました。

『さぁ、いつだったでしょうねぇ。忘れてしまいました。』

この年にもなると、誕生日などどうでもよくなるものです。それに今までの人生を捨てていたのもあり、本気で誕生日など忘れてしまっていたたメェ、そう答えると、お嬢様は驚いたような顔をされました。子どもにとって誕生日は一大事だ。それを忘れたというのは幼いお嬢様には信じられないことだったのでしょう。思わず立ち上がったお嬢様はこちらに詰め寄って来ると、

『お前誕生日知らないのか?』

と尋ねてきます。その疑問に肯定をすると、急いで机に戻られて何やら考え始メェました。誕生日が分からないと年を取ったのが分からないじゃないかとかなり真剣にかんがえこまれておりました。そして先ほどまで勉強に使っていた事典をじっと見てそれからぺらぺらとメェくるととあるページを指さされました。記念日のページでした。

『じゃあ俺がきめてやるよ!羊の日の6月6日はどうだ?俺の誕生日の前日だぞ!』

前夜祭にしてくれたのか、それともお誕生日会を2日間行いたかったのかは分かりませんが、お嬢様がそうお決めになられてから、わたくしメェの誕生日は6月6日なのでございます。モリア様には執事の日じゃなくて羊の日なのかと笑われてしまいましたが。
最初の年は自分で自分の誕生日を祝う料理を作るというなんとも気恥ずかしいことを行いました。
そこから数年経つと、「おれがやる!」となんとお嬢様が家事を手伝ってくれるようになりました。出来る範囲でお手伝い頂き、フォローは致しましたが。
更に数年たつと、「お前は座ってろ!」とお嬢様が全て一人で行おうとされるようになりました。とは言えまだ未熟なお嬢様なのでばれないようにこっそりフォローは致しましたが。

そして今年でございます。前日からラム肉の仕入れに行ってこられたお嬢様は意気揚々とお料理をお作りになられています。すっかりフォローの量も減り、一人前のレディになられたこと、わたくしメェはとても嬉しく思っております。本日こっそりとフォローをしたのはお嬢様が使われた後の洗面台のお掃除くらいでしょうか。お嬢様の髪はピンク色なので見にくいたメェ致し方ございませんが。

「おいラチェレ!もうすぐ出来上がるぞ!鷹の目はどこだ!」
「承知いたしました。お皿を準備してミホーク様をお呼びいたしますね。」

会心の出来らしい料理に、鼻息が少し荒いお嬢様にそう返すとハッとした様に、こちらを振り向かれました。

「い、いやいい!お皿は自分で出すし、ミホークも私が呼んで来る!」

もう少しで私を働かせてしまうのに気が付かれたのでしょう。着ぐるみの下で微笑ましいなと思わず口元が緩みました。

「ふふ、承知いたしました。ミホーク様はこの時間帯は修練されているかと存じます。」

そう答えてキッチンにあった椅子に腰かけ直すと、お嬢様はゴーストの一体をミホーク様の元へ、そしてご自身は食器棚の方へと向かわれました。昨年はここで皿を取りにいく間に料理を少し焦がされてしまっておりましたが、今年は大丈夫そうですな。それでは今の間にテーブルをセットしてしまいますかと、お嬢様に気が付かれないように席を立ち、ダイニングに向かうことにしました。
はてさて、来年は私がどこまで手を出さずに済むのでしょうか。私メェは楽しみにございます。





Mail
お名前


メッセージ