槿花一日。









「ざっくりとした説明は以上よ。」


海軍本部の一室。今日から我等が上司になることになった麗しい彼女はそう言い切った。


「ヒナ多忙だから何かあれば……そうね、あいつに聞きなさい。」


腕を組んだまま堂々とした立姿で、ヒナ大佐は後ろの机で作業していた短い黒髪の若そうな男を指差した。


「シアン、」


彼女がそう言うと、ぱっと顔を上げた彼。シアンという名前らしい。彼は素早く彼女の横にやって来る。


「何でしょう。」


ニコ、と笑った彼は言う。


「この二人適当に案内してあげて。本部始めてらしいから。それからもうそろそろ時間よね。」


キビキビとした大佐と、


「了解です。はい、10分後に大将が部屋に来るようにと。」


それと対称的に周りに花でも飛んでるんじゃないかと思うくらいにナヨナヨした野郎。海兵の服を着ているから恐らく階級もそんなに変わらないはずだ。


「じゃあ、行ってくるから後任せたわ。」


そう言ってタバコをくわえた大佐。


「はい、いってらっしゃいヒナちゃん。」


と、にこやかに送り出した彼の言葉を聞いて一瞬思考が停止した。固まった俺らなんて気にせず退出した大佐。


「さて、改めましてアポリネール・シアンと申します。ヒナ大佐付きの事務官をやらせて貰っています。お二人と違って前線に出ていく機会はあまりありませんがよろしくお願いします。」


ペこりと丁寧なお辞儀をした彼に、漸く停止した思考が帰ってきた。兄弟も同じなのか横でわなわなしていた。


「お、お前、」

「はい何でしょう、フルボディさん。」


相変わらずニコニコしたままの彼。


「今さっき大佐のこと何て、」

「え??あぁ、ヒナちゃんって呼びました。」


それが何かと言わんばかりの彼。


「あ、有りなんかそれ。」

「有りも何もヒナちゃんはヒナちゃんなんですよ、ジャンゴさん。」


おっかなびっくり聞いた兄弟にしれっと言い切ったシアン。「あぁ、でも、」と思い出したように付け足した。


「誰だか前に勘違いして付け上がり、ヒナちゃんのこと勝手にヒナちゃんって呼びまくった野郎が居たんですが、その方は、」


そこで言葉を切って溜めた彼の笑っていた目から笑みが消えた。綺麗な緑の目が、俺らを捕らえた。


「援護射撃の流れ弾が頸動脈間際を掠るという恐い目に会ったらしいですから気をつけた方がいいですよ??」


こてんと首を傾げた彼は口元こそ笑みを浮かべて居たが、目は笑っていなかった。


((絶対犯人こいつだ!!))


直感的にそう思ったがそれを口にするの自体危険な気がして、俺は兄弟と顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。


「では、行きましょうか。」


そう言ったシアンは再びニコニコとした笑顔に戻っていた。






!!

(人畜無害な振りしてこいつ危ないぞ!!)
(ち、調子に乗らなきゃいいんだろ!?多分!!)






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