槿花一日。









「頭痛い……」


あまりに深刻な痛みに堪えかねてやって来た医務室。私の体温を測った体温計を見たマルコが額に手を宛てて盛大な溜息をついた。


「当たり前だよい。完璧風邪だよい。」


それは、38.4℃を指していた。即刻マルコに寝てろと言われ、もそもそと医務室のベッドに潜り込む。まだなんだか寒気がする。



「マルコ寒「ななし大丈夫か!?」


マルコに不満を言おうとしたその声は一応私を心配してくれてるであろう男の声と扉を雑に開けた音に掻き消された。


「うるせーよい。黙ってろい。」


マルコがそう言ってバシンと何かで殴った音がする。大方カルテか何かで殴られたのかなぁ、なんて思う内に悪寒が引かないまま私の意識はズルズルと闇に飲み込まれた。


Ж



「今寝たとこなんだからそんなすぐに治る訳ねぇよい。お前居ると患者の容態に障るからどっか行ってろい。」



マルコはそう言うと、俺の首根っこを掴みひょいと医務室からほうり出した。


「ちょ、マル…「おぉ、サッチいいところに。こいつ連れて医務室から離れてろい。」


抗議を申し立てる前に今度はサッチに捕まりそのままズルズルと連行される。


「エースお前さぁ、あんまりしつこいとななしちゃんに嫌われるぜぇ??」


俺を引きずりながらサッチは言って笑う。


「うるせーよ。心配したっていいだろ。」


引きずられながらふて腐れて言い返せば


「はっ、ガキだなぁエースは。」

「うるせー。」


鼻で笑われ更にふて腐れる。


「……………じゃあどーすりゃいいんだよ。」


ぼそりと聞けば、


「ブッ、かぁわいいなぁエースは。」


サッチは勢いよく吹き出してニヤニヤしながら頭をワシワシと撫でてきた。


「なっ、うぜぇ!!」


なんだか凄く恥ずかしくなって俺を掴む手も、撫でる手も振り払う。


「おーおっかねぇ。まぁ、そんなエース君にアドバイスしてあげようじゃないか。看病するときはなぁ…、」


Ж



再び医務室の扉を開く。今度はこっそり。すると、中にマルコは居なかった。ここぞとばかりに静かに忍び込みななしの寝てるベッドを見ると真っ赤な顔して、苦しそうな呼吸をするななしがいた。こんなしんどそうなのに俺さっき騒いじゃったのかと、少し自己嫌悪する。なるべく足音を殺してベッドの傍らに行くと溶けきった氷嚢から水滴が一筋ななしの顔に伝って行った。


「んー……、」


それが気に入らないのか少し不愉快そうな顔をしてななしが首を捻るから、そっと水滴を拭ってやった。


「あちぃ……。」


その時に触れた額の熱が指に伝わる。当然、炎の俺より低いにしてもあまりに高い体温。


「俺、炎じゃなくて氷だったらよかったのにな。」


赤い頬に指を這わせながら自虐的な笑みを浮かべて呟いた。そしたら、今すぐ熱なんて冷ましてやれたのに、俺は温めることしか出来ない。


『看病するときはなぁ…そっと側に居てやるのが一番だ。』


サッチはそう言ってたけど、俺は居ても邪魔だな、と立ち上がろうとした時。


「……え…す??」


掠れた声で呼ばれ、同時に弱々しい力で指を掴まれた。


「ななし??」


熱のある時特有のとろんとした目がこっちを見ていた。


「どうした??」


半分浮いていた腰を再び落ち着ける。


「…………ここに、いて欲しい。」


上目遣い気味にななしがそんなこと言うものだから、一瞬俺の体温が上がった気がした。


「い、いいけどよ、俺が居たら暑くねぇか??」


俺、炎だし、と言えば、フニャリとした笑みを浮かべ小さく首を横に振った。


「…あつくない…よ??あったかい……。」


そう言うと少し寝返りをうち、こっちを向くとさっき掴んだ俺の指を引き寄せ手の甲にほお擦りした。


「なっ………!!おまっ……!!」


そのままなんか妙に幸せそうな顔で、へへへっとななしは俺に笑いかけた。


「こんなに熱高ぇのに暑くねぇのかよ…。」


俺は赤くなる自分の顔を見られないようにもう片方の腕で隠して、そっぽを向くと、そう聞いた。


「…んーん、むしろ、さむい…」


ななしはそう言って今度は両手で俺の手を掴んだ。寒いってこた更に熱上がんじゃねぇかよ。短い溜息を一つつくと、ななしが掴んでる手を振りほどく。


「ふぇ??」


ちょっと間の抜けた驚きの声をななしが発する間にひょいとベッドを飛び越えて、反対側からななしの背中に抱き着くように俺も布団に潜り込んだ。


「……こっちのがあったけーよ。」


顔赤いのも見られねーしなとは、言えなかったけど、ななしはまた、へへへと笑い俺の腕にしがみつくと


「うん、あったか…い……」


そう言って、あっという間に静かな寝息をたて始めた。


「くぁ…俺も眠ぃ……」


無論俺も即刻寝たのは言うまでもない。


Ж



「ぷっ、何処にも居ねえと思ったら…」

「…………サッチ、俺はこいつ連れて医務室から離れてろって言わなかったかい??」

「仕方ねーよ不可抗力だ!!」

「ったく、仲良すぎだよい。」

「え、マルコ隊長彼女居なくてさみしーんですかー??」

「てめぇ、締められてぇかい。」

「いや、遠慮しとく。」


30分くらい後、マルコとサッチが仲良く眠る二人を目撃し、後日、エースが死ぬ程弄られるはめになろうとは、まだ知る由もない。




君は知らなくていい



与えられたぬくもりに

どれだけ救われたかなんて



>>END










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お題提供 キリサキ様



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