槿花一日。








「ね、どうかな??」


そう言って彼はにこりと微笑んだ。

「今すぐに返事しなくてもいいからさ。」


そう言って去って行った彼に、私はたった今、告白されました。


Ж



「うーん、」


彼が去って行き、一人残された見張り台の上、私はため息混じりに唸る。彼、というのは我等が麦藁の一味の料理人、女尊主義上等なサンジくん。ナミにも、ロビンにも、私にも、平等に行き過ぎているほどの親切っぷりを発揮していた彼から、私が好きだ、だなんて言葉が出て来るなんて思わなかった。と、いうよりもそもそも


「正直、好きなタイプじゃないんだよなぁ。」


さっさと断ればよかったかと、今更ながら思ったが、起きているかもわからない相手の為に甲板へ下り、船室へ向かうのも正直な話、億劫だった。


「まぁ、いつでもいいか。」


私は、そう結論付けると、ロビンに借りた本を開き読み始めた。


Ж



調度本を読み終えた頃、東の空が白んで来た。欠伸をしてから、甲板に降りる。そろそろ誰か起きるだろうからそしたら代わりに寝ようかと、船室へ向かおうとしたら、


「ななしちゃん。」


タイミング良く、サンジくんが船室から出て来る。しかも手にしたマグカップを差し出して来る。


「今から寝るだろうと思ってホットミルク入れたからどうぞ。」

「……ありがと。」


有り難い気配りに感謝して、マグカップを受け取る。その時に、少しお互いの手が当たり、謝ろうと、サンジくんを見て口を開くと、顔を真っ赤にしている彼が目に入り、喉まで出かかった言葉が詰まった。


「ごめん、当たっちゃったね、こぼれてない??」


いつもの鼻の下を伸ばした笑みや、カッコつけた微笑みじゃない、彼の照れ笑いに、少しキュンと来た。不意打ちって怖いな。


「で??今何か言いかけなかった??」


口を開いたままフリーズしていた私に、サンジくんはそう尋ねる。ハッとなって、


「い、いや、何にもないよ。」


と、吃りながら言えば、サンジくんは何かを感づいたかの様に


「あぁ、そうか、照れなくてもいいのに。」


と、照れ笑いからいつものにやけた顔になる。いや、何が照れるんだ。と、つっこむ間もなく、


「いやぁでもレディから言うのは照れるんだよな、きっと。うんうん。心配無用ですよ。男サンジ、貴女のことなら全てお見通しですから。結婚式とかはこんな海賊やってたら挙げにくいから挙げれないかもしれないなぁ、あ、でもななしちゃんが望むならどんなに大変でもやってみせるけどさ。それからやっぱり将来定住するなら比較的平和な東の海がいいよね。その方がななしちゃん安全だし。こじんまりとしたのでいいからレストラン開きたいなぁ、あ、勿論ななしちゃんが名物ウエイトレスさんで。はっ、ダメだそれはななしちゃんの魅力にみんなが気付いてななしちゃんが世界中の男から狙われてしまうから却下だな。危ない危ない。そうそう、子供は3人がいいなぁ一姫二太郎で。きっとどの子もななしちゃんに似てかぁわいいんだろうなぁ。あ、それから………、」

「いやいやいやいや、ちょっと待て。」


いきなり妄想劇場を語り出したサンジくんに全力でストップをかける。


「ん??なんだいマイハ「いいから黙れ。」


なんか昨日の今日でラブハリケーンが凄まじいくらい全開なのはなんなんだ!!視覚で捕らえそうな勢いでハートを撒き散らすサンジくんに


「あのさ、私まだ付き合うとか…」


「好きだよ、ななしちゃん。」

「話聞いてバカ!!」


口を尖らせてそう言えば、


「だから照れなくて「…っもういい!!寝る!!」


反省がかけらも見えなくてそのままホットミルクを一気に飲むとマグカップを突き返して女部屋に向かった。

女部屋に行けば、ナミとロビンが起きて支度をしていて、不寝番お疲れ様なんて言ってくれる、一応返事したけど顔が引き攣ったりしてなかったかが心配になりながらも、素早く布団に潜り込んだ。二人が出て行き扉が閉まる音がして、少し布団から顔を出すと、


「恋なんてしたことないわよ、」


好きか嫌いかなんてわからない。あんな空気読めない奴、嫌いだ、なんて思うけど、でも、少し好き、かもしれないと、同時に思ってしまうんだ。


「うーん、」


唸っても答えが出る訳もなく、とりあえず寝ることにした。


Ж



「はい、」

「へ??」


それから返事をすることなく彼からなんだかんだで逃げること数日、突然、ネックレスを貰いました。


「なにこれ。」

「ん、ネックレス。昨日さ、欲しそうに見てたでしょ??だから。」


と、言って微笑む彼は、私からネックレスを取ると丁寧にもそれを首にかけてくれた。小さなハートのモチーフの淡いピンクのストーンが付いたそれは、首もとでキラリと輝く。


「凄く良く似合ってる。」


サンジくんがニッと笑う。それから、私の髪をスッと手繰り寄せ、毛先にキスをした。


「なっ……!!」

「かわいいよ。」


そして、少し意地が悪そうな笑みを見せる。私は一気に顔に血が上る気がした。今、多分顔が赤い。更に頭を撫でられ、顔を上げれば、今度はタバコの煙がハート型を象るんじゃないかと思うようなしまりのない顔をしていて、一気に顔の熱が引いた気がした。なんだか呆れたけど、緩急付けるのは少しずるいと思った。

だって、好きに染められそうで
嫌じゃない。たらしで変態で馬鹿なのに、好きに染められてくみたいで。


Ж



「はぁ……」


レディは等しく平等だと思ってた俺が、まさかこんな風にあからさまに誰かだけに特別な好意を抱くなんて、考えてもみなかったが、彼女を好きだという以外有り得ないと、思っていることは確かだ。


「おいラブコック、茶。」

「あぁ??…ったく、」


静かに物思いに耽りたいというのにやってきた不穏分子に絡むのも面倒で、渋々急須と湯呑みを出す。と、そこに入って来たのは悩みの種の、彼女。ガン見するのも憚られたのでちらっと視界の隅に入るようにしながらお茶を入れるのに専念しようとする。が、なんだか見られてる気がする。いや、そんな都合のいいことはないと、少しちらっと彼女を見れば、やっぱり見られてる。心の中でガッツポーズやら、小躍りやらしながら急須にお茶を注げば、


「お、茶柱。」


何かいいことがありそうだとさらに上機嫌で毬藻に湯呑みを手渡せば、怪訝な顔をされたが、気にせずに、毬藻が去ると直ぐさま声をかける。


「何かご用ですか??プリンセス。」


にこりとそう言えば、


「いや、なんか変わったポットだなって思っただけよ。」


と、返される。なんだ、残念急須を見てたのか。


「これはポットじゃなくて急須。緑茶とかワの国のお茶を入れる時に使うんだ。」


と、説明すれば、興味があるのか近寄って眺める様子がなんだか新しい玩具を見つけた子供のようで。


「飲みますか??緑茶。」


と聞けば、目を輝かせて頷く。


「かしこまりました。」


再びケトルに湯を沸かす間、彼女はカウンターに座ってその様子を眺めていた。


「どうぞ。」


出された湯呑みに、恐る恐るといったように口を付ける。


「おいしい。」

「それはよかった。」


彼女が、不意に顔を上げてこっちを見た。


「ねぇ、サンジくん。」

「ん??」


笑顔で首を傾げれば、染まる顔。


「あの、……………す、ス」


「キ??」


吃りがちに呟かれた一文字にもう一文字付け足せば、


「あ、や、やっぱり嘘!!」


さらに真っ赤になってカウンターから離れようとするから手首を掴んだ。


「じゃ、キライ??」


小さく振られる首。


「じゃ、スキ??」


顔に、体に、動揺が見え隠れする。そして、また小さく振られる首。


「じゃ、アイシテル??」


彼女は少しこっちを振り返り真っ赤な顔をして俺を見上げると、小さく頷いた。





好きだ、嘘だ。嫌いだ、嘘だ。



ホントは、アイシテル。




――――――

お題提供 ミクロン様

フェルナンドPの
スキキライ(sm13361994)に
触発されて勢いで書いたやつ。

もう少し
きゅんきゅんさせたり
サンジの変態っぷりを
出したりしたかった…。


あえなく撃沈。



[Back]



Mail
お名前


メッセージ