クロワッサン 近所のスーパーが今日は休業日だった。 虎徹は仕方なくその隣の隣にあるちょっとおしゃれな店に入った。赤い屋根のまるで映画に出てきそうな小さなパン屋だ。 ―いらっしゃいませ。 黒髪の女性店員がにっこり微笑み虎徹を迎えた。 ちょっとだけ好みかもしれないとか、思ったが、とりあえず腹が減りすぎていたのでトングとトレーを取った。 時間が時間なだけに、メロンパンやあんぱんの類は全部売り切れ。フランスパン、食パン、ライ麦パンもなし。あるのは「50%OFF」のシールが輝くサンドウィッチだけ。クロワッサンにサーモンと野菜が挟まった、なんともおしゃれな一品だ。 値段も手ごろかつボリュームもある。 売れ残りのサンドウィッチを三つ手に取りレジに行く。黒髪美人はこんな時間だというのに笑顔でレジを叩く。時間からして、虎徹が今日の最後の客だろう。 23:45 遅くまで大変だ。 可愛らしい袋に入れられたパンを持って、虎徹は店を出た。 さて、早く帰らないと。 お腹をすかせたウサギが待っている。 「真昼間から盛るウサギってのもすげえよな…」 だからこんな時間に夕食を買いに行くハメになるのだが。 おそらくまだ寝ているだろうウサギを思い浮かべ、少しばかり痛む喉へ無意識に手が伸びた。 |