天平様のお庭(garden from tempest)
* 2014/07/19-19:34
その村には、花に寄生された娘たちがいた。
数年前、毒を含んだ雨が、それに触れた人間に火傷を負わせた。
火傷の跡は、膿んで瘤になっていた。
その時、ちょうど盆栽を嗜んでいた「天平様」(てんぺいさま)が、
あろうことか少年少女たちの傷跡に、花を生けたのだ。
それが、宵花娘の原点だ。
「ご覧、これが私の花たちだ。百合は風に揺れ、娘の心地よい香りを運ぶ。
雄花の主は、たとえ女であろうが殴りあって精をばら撒く。
白夜は花を絶えず育み、牡丹と桜は散るまで手をつなぐ。
……あなたも、いかがですか。風にそよぐ春の庭の“密”を。」
ちょうど見物に来ていた客の男は、屋敷の奥に招かれた。
寝具の上で、クチナシの花の女がお辞儀していた。
「素晴らしいでしょう。ああ、彼女はただの生け花です。
あなたのお相手は、天平、この私がいたしましょう。」
天平の手にはハンドシーダーがあった。
ブスリ、と客の男を刺し、種を植え付けた。
「白花(びゃっか)、このお方を温泉に連れて行きなさい。
芽生えるには良い水とぬくもりが必要だからね。」
怯えて泣き出す男を抱きしめた白花は、嬉しそうに客の男の頭を撫でていた。
「もしお望みなら、白花と夫婦(めおと)になってもいいのですよ。
花は常に初夏の甘さを含んでおりますから。」
天平は襖を占め、煙管を取り出した。
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