「ねぇジャーファルぅー」
「なんです?」
「俺服買いに行きたいなー」

アルバの働きで仕事が直ぐに片付いてしまった為、今日は一日暇なはずなのだが、ジャーファルは監視するためアルバにずっと着いて回らなくてはならなかった。
今アルバが持っている服では、常夏のこの国では些か暑いので服を買いに行きたいのだが、アルバがうろうろするとジャーファルも一緒に行動させることになり迷惑がかかりそうなので一応彼の許可を求めてみる。

「どうぞ」
「いいの?」
「逃げなければ文句は言いません。」

少しは嫌な顔をするかと思ったが案外あっさり許可がおりて街に出掛ける事になった。


ーーーーーーーーーー


「あらぁ、アルバちゃんじゃないの。この間はありがとうねー。」

二人が訪れたのはあの夫婦が切り盛りしている服屋で、婦人が笑顔で迎えてくれた。

「こんにちは、今日は買い物に来たんだ」
「アルバちゃんならこんなのがいいんじゃないかしら?ああ、これも似合うわぁ。ジャーファル様も如何です?こちらなんか素敵ですよ」

うきうきと服をみたて始める婦人にアルバも便乗する。

「そうだよジャーファル!折角来たんだから君も買ったら?」
「私は付き添いですので結構です」
「そう言わずに。あ、ほらこれ君に似合いそうだよ!」

ジャーファルはノリノリで服を勧めてくるアルバに溜息をついた。

「貴方、自分の服を見に来たんでしょう。私の服なんか選ばなくていいですから…」
「ねえほら、これ着たらきっとかっこいいよ!」

ジャーファルの話など聞かず、アルバはみたてた服をジャーファルにあてがう。
これでは一向にアルバの買い物が終わらないと、ジャーファルは仕方なくアルバに似合いそうな服を探し始めた。

いいと思うものは幾つかあったが、これというものはなかなか見つからない。

すると、ふと目に止まった棚に爽やかな空色のシャツを見つける。 柔らかな色合いのそれはアルバに似合いそうだと思った。

アルバはといえば婦人とあーでもないこーでもないと楽しげに会話しながら服を物色していた。

シャツと、それに合いそうなズボンを手に近づけば、婦人にお決まりですかと問われる。

「いいえ…アルバにどうかと思いまして」
「!選んでくれたの?」

ありがとう!と微笑むアルバの頭に貴方が早く決めないからですと手刀を落とす。

「仲が宜しいんですのね」

婦人がにこにことして言い放った衝撃の一言に焦って反論しようとするが、シャツを握り締めたアルバの言葉に遮られる。

「ジャーファルってとっても優しいんだよ!」

不思議と嫌な気持ちにはならなかったが代わりに羞恥がジャーファルを襲った。


ーーーーーーーーーー


ジャーファルは食事を取りながらもんもんと考え込んでいた。
その内容は勿論、現在隣でパパゴラスの唐揚げを頬張っているアルバのことだ。

アルバが王宮に留まってジャーファルと行動し始めてから半月ほど経つが、未だに彼のことが読み切れない。

まずアルバの性格についてだが、並外れた記憶力と思考力を持っていながら子供っぽい一面を持ち合わせており、些細なことでもとても喜んでよく笑う。
かと思えば子供好きでのんびりとしたところもあり、中庭でアラジンたちと話をしたり、遊んでいるのを眺めたりするのも好きなようだ。
人当たりがよく、よく気がきくのでアラジン達のみならず他の八人将や王宮の使用人、国民にも慕われている。

次に、彼はジャーファルに対して従順である。
恐らくそれは"ジャーファルに従い仕事をこなすことを依頼されている"からであろうと推測出来る。
前に記したように彼は社交的で誰であろうと優しく助けているように感じるが、"情報屋の仕事"の域に少しでも入ると手を貸さなくなる。
これは仕事と手助けをはっきり区別したいのだと考えられる。

最後に、これが最も解せない点だが、アルバはこの半月の間逃げる素振りを微塵も見せなかったのである。
アルバ曰く、「ここから無理矢理逃げてもいい事はなにもない」らしいが、その反面彼は仲間になることを頑なに拒む。

ここ数日で分かったことだが、彼は悪い人間ではないらしく"クロス"のとき以外はとても温厚な男だ。
そんな彼が唯一冷たい表情を見せるのは仲間にならないかという話を持ち出されたときだけだった。

アルバが"仲間"という言葉に嫌悪感を抱いている節もあり、ジャーファルはここ数日その理由がなんなのかということに頭を悩ませていた。

「ジャーファル?」

思考の波に飲まれそうになっているとアルバに不意に顔を覗き込まれる。

「…なんですか」
「すごい怖い顔してたよ。こんな」

アルバは眉間に皺を寄せてみせる。
跡になりますよと呆れてみせると、ジャーファルのほうこそ跡になっちゃうよとアルバがジャーファルの眉間に指先をあてる。

最近ジャーファルが考え込んでいるのはアルバのせいなのだが、アルバは心配そうにジャーファルをみやる。

「やっぱり俺がちょっと連れ回し過ぎた?ごめん。」

こう眉尻を下げて見上げられるとどうしても子犬かなにかのように感じてしまう。

「あーもう!」
「うわ!なに!?」

鬱憤を晴らすのと子犬を愛でる意味も込めてアルバの頭をわしゃわしゃと乱暴に掻き回す。

いっそペットだとでも思ってしまおうかとぶっ飛んだ結論に至ってしまったジャーファルだった。






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