「お前がクロスだったのか…?」
「いや、うん…まぁね…」
気まずい沈黙が流れる。
「…ごめんよ、君がシンドリア国王だとは思わなかったんだ。」
「…ということは、バルバットで俺たちに近づいたのは偶然だということか?」
「そういうことになるね。っていうかこの依頼を受けたのは君たちと会った後だ。」
「…シン、口では何とでも言えます。」
完全に疑っているジャーファルが口を挟む。
「本当だよ!信じて!」
「…信じていいんだな?」
「ちょっとシン!」
ジャーファルの焦る声が聞こえるが、そのままシンドバッドの問いに応える。
「誓ってもいい。」
アルバのまっすぐな目に見据えられたシンドバッドは、張り詰めた空気を和らげるように息を吐いた。
「よし、お前を信じよう。」
「ありがとう。感謝しますシンドバッド王。」
「やめてくれ。シンでいいと言ったろう。」
「流石に無礼かと。」
「俺が許可する。」
この判断に対して恐らく納得していないであろう傍の従者にシンドバッドが声を掛ける。
「ジャーファル、こいつは嘘をついていない。お前も分かっているんだろう?」
「…嘘はついていなくとも彼が侵入者であることに相違ありません。」
ジャーファルのもっともな意見にシンドバッドもアルバに向き直る。
「まぁジャーファルの言うとおりだな。そこでお前の処分だが…」
アルバは冷静さを欠くことなくシンドバッドを見つめ、次の言葉を待った。
「俺たちの仲間にならないか?」
ジャーファルもアルバも、自身の耳を疑った。
「今なんと…?」
「アルバを、俺たちの仲間に」
「はあぁーーーっ!?」
ジャーファルはシンドバッドの肩をガックンガックンと激しく揺さぶる。アルバはそんな光景をぽかんとして眺めていた。
「何を言っているんですシンドバッド王よ!彼は不法侵入者ですよ!?その上情報を盗み見て…!」
「だからこそだ。」
「は…?」
「確かにアルバは俺たちの情報を知っている。さらに最重要機密も握っている可能性もゼロではない。野放しは危険だ。そうだろう?」
「そ、れはそうですが…投獄するという選択肢もあります…!」
「アルバは役に立つ。」
シンドバッドの抗い難い言葉に流石のジャーファルも返す言葉が出てこない。
「な?いいだろうアルバ」
「…断った場合は?」
「投獄です。」
そう問うアルバに間髪入れずにジャーファルが答える。
「何故断るんだ?」
「俺は誰の仲間にもならない。」
穏やかに問い返すシンドバッドに、アルバはそうはっきりと言い放った。
「お前のデメリットになるようなことは無いはずだ。」
「メリットデメリットの問題じゃないんだ。悪いけど仲間にはならない。」
シンドバッドが困惑した表情でジャーファルを見やると彼も眉を潜めてアルバを見ていた。
「…それ相応の処罰は受けよう。もし殺すなら毒殺か銃殺にしてよね」
悠然と口角を上げて見せるアルバにシンドバッドの悪性が疼く。なんとしてでもこの男を引き入れたい、と。
「それではせめて王宮にとどまってくれ。仲間にならなくてもいい、俺たちからの"依頼"を受けて、代わりに衣食住を提供する。どうだ?悪い話じゃないだろう。」
短い沈黙を経てアルバが口を開く。
「…どちらにしても国外には出してもらえないだろうけどまぁいいよ。今回の依頼はどうせ失敗だ。但し、俺は君らの仲間じゃない。無条件に協力することはないと言っておくよ。」
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続いてアルバが連れて来られたのは王宮の一室だった。
それは通常であれば食客が私室として使用するはずの部屋でアルバは眉を潜めた。
「俺は食客じゃない。」
「客人はみなこの塔の部屋を使うのですよ。そもそも雇った情報屋に貸す部屋などないのです、我慢なさい。」
何処か不満気なアルバにジャーファルも不機嫌に返す。
アルバも渋々部屋に入り、ジャーファルはようやく一息ついた。
朝はもうすぐそこまで近づいていた。
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