彼をドキドキさせる方法 




だいたい聖司さんはずるい。

「おい、早くしろってば」
「ま、待ってください〜」

ある晴れた日の朝。聖司さんは少し苛立ったように私を呼ぶ。今日は久しぶりのデートだ。私だって出来ることなら早く準備をして2人の時間を楽しみたい。
化粧をして新しく買った可愛い服だって着て、こんなに出掛ける準備は完璧なのにただひとつだけ。

「聖司さーん……やって?」

甘えるように彼を呼んで、準備を妨げる原因となっていたものを渡す。

「またか……いい加減自分で出来るようになれ」
「だ、だって」
「もういい。早く後ろ向け」

呆れたように溜息を吐く聖司さんに申し訳なく思いつつも言われた通り彼に背を向ける。
私の準備を妨げていたものは、今年の誕生日に彼から貰ったネックレスだ。
小さなハートがついたピンクゴールドのネックレスはとても華奢なデザインのもの。高価なだけあって、とても可愛くて気に入っているのだが、華奢な分着けるのに手間取ることも多い。
元からネックレスを着けるのが上手ではない私は、このネックレスを貰ってから鏡の前で格闘する日々だ。
そして最後には諦めて聖司さんに着けてもらうことも多いため、彼は呆れているのだ。
でも私からすれば、何故みんなは後ろ手で素早く着けられるのかが不思議で仕方ない。

「……髪、伸びたな」
「え?ああ、そうですね」

肩にかかる髪を手で上げる私の後ろで聖司さんがそう言った。確かに伸びた。高校卒業以来伸ばしているのでもう胸元まで伸びた。
そう考えると歳月の早さを感じる。語学留学のためという理由をつけて聖司さんに着いてきてからもう1年が経った。大学は違うし進級した聖司さんは更に忙しくなった。こうして一緒に暮らしていてよかったと思う。

「出来た」
「ありがとうございま……」

振り向いてお礼を言おうとした瞬間。
彼の唇が私のうなじに押しあてられた。

「っ……!」

肩が揺れるのが自分でも分かった。ゾクッとした。

「聖司さん、な、何を……!」
「うなじが見えてキスしたくなったから」

悪びれた様子もなく答える彼とは反対に私の顔は熱を持ちっぱなし。
キスしたくなったから、って……不意打ちなんてずるい。

「もういいだろ。行くぞ」
「っ……はーい」

聖司さんといるとドキドキしてばかり。一緒に暮らしてても長い間付き合っていても。ドキドキする気持ちは変わらない。
聖司さんは私にドキドキすること、あるのかな?
だって私ばかりずるい。











「……何のつもりだ?」

今の状況はというと。ベッドに横たわった聖司さんの上に私が馬乗りになっている。

「聖司さんは私にドキドキすること、ありますか?」

一度考え出すと気になって、今日のデート中もずっとそれを考えていた。どうすれば聖司さんもドキドキしてくれるのだろうと考えて至った結論はたまには私が攻めてみようというもの。
帰ってくるなり私は彼の手を引いてベッドルームに向かい、倒れこむようにして押し倒した。

「何だよ、いきなり」
「私はいつも聖司さんにドキドキしてて……!私ばっかりずるいって思ったんです」
「……ふーん。で俺を押し倒してどうするつもりなんだ?」
「わ、私からするんです……!」

私の下にいる聖司さんは余裕の表情。押し倒されてるのにドキドキしない?私ってそんなに色気ないのかな。
むしろ、普段しない大胆な行為に私の方がドキドキしてる。悔しい。こんなはずじゃなかったのに。

顔を近づけて口付ける。私はそれだけで胸が高鳴るのに、聖司さんは違うのかな。次第に深くなっていく口付け。ああ、何も考えられなくなっちゃう。

「ん……」

名残惜しいけれど唇を離す。すぐ傍にある彼の瞳に吸い込まれそうだ。
えっと、次はどうするんだっけ。そうだ、脱がすんだ。
聖司さんのシャツのボタンに手をかける。シャツの隙間から覗く鎖骨や胸元が妙にいやらしく感じる。そんな私がいやらしい?

「震えてる」


今までされるがままになっていた聖司さんに突然手を掴まれる。

「緊張してる上にどうしたらいいか分からないんだろう」

図星。私から攻める、ドキドキさせると宣言したわりにもう限界。これ以上したら心臓が爆発しちゃう。

「お前はおとなしく俺の好きにされればいいんだ」

いとも簡単に体勢が入れ替わる。ああでも、少しほっとした。聖司さんは私の上にいる方が落ち着く。
こんなことだから私は彼をドキドキさせられないんだろうな。

「んっ……!」

先程とは比べ物にならないような深い口付け。絡み合う舌。聖司さんはキスがうまい。キスだけで体が熱を持つ。

「聖司さ……!」

ブラウスをたくし上げられ、下着が露になる。体を撫でられると鳥肌が立つ。
あっという間にホックが外され、2つの膨らみに手が添えられる。
ピンクに色づく突起に触れられると、エッチな気分が一気に加速する。

「や、っん……」

摘んだり捏ねたりされる度に私の女の部分がじんわりと濡れる。聖司さんと何度も行為を重ねてるのに、いつまで経っても慣れない。

「んっ、やっ……!」
「嫌じゃないだろ」

聖司さんの大きな手が足を撫でる。恥ずかしいくらい濡れそぼった場所に下着越しに触れられるだけで体がビクンと揺れる。

「結局お前は攻めるのは向かないってことだ」
「違っ……!」
「違わない」

下着が下ろされ、私の中に彼の長い指が侵入する。白と黒の鍵盤の上を自由に動くあの指が私の中にあるなんて、いつ考えても卑猥だ。

「んっ、あ……!や!」

気持ちよくて仕方なくて。
行為中は切なさや愛しさが押し寄せてきていつも抱きついてしまう。聖司さんはそれに応えるように頭を抱いて撫でてくれる。
いつもよりずっと優しいことをしてくれる。甘やかしてくれるんだ。

「……あざみ」

大好きな声で名前を呼ばれながら一番弱い突起を攻められれば私は簡単に高みに昇ってしまう。

「聖司さ、も、ダメっ……!」

気持ち良さが全身を駆け巡って頭が真っ白になる。
イク時にくれる聖司さんの優しいキスが好き。

「はぁ、はぁ……」

達したばかりで息の整わない私の中から指を抜き、枕元の避妊具を取る聖司さん。この瞬間が無性に恥ずかしいと言ったら俺の方がもっと恥ずかしいって怒られたことがあったっけ。

「考え事か?余裕じゃないか」
「あっ、んん……!」

彼自身が中に入ってくる。
少し苦しいくらいのその瞬間が一番繋がっていることを実感する。

「聖司さんっ……聖司さん……!」

突かれる度に口から出るのは彼の名前。私が聖司さんのことしか考えられなくなるように、聖司さんの中も私でいっぱいになってくれるのかな。そうだったら嬉しいな。

「っ……お前の、その気持ち良さそうな顔、好きだ。そういう表情に、ドキドキする」

今、そういうこと言いますか。

「やっあ、ああ……!」
「っ、く……!」

嬉しい。ちゃんと聖司さんもドキドキしてくれてたんだ。
でもそれ以上に、あのタイミングであんなこと言う聖司さんはやっぱりずるい。
薄れゆく意識の中でそう思った。












早々に意識を手放してしまったあざみの寝顔を見ながら思う。振り回されているのは俺の方だ。
今日だっていきなり積極的になったりして。ずるいのはお前だろ。
本当はお前が笑うだけでドキドキしてるんだ。
なんて絶対言ってやらないけどな。




end.




華奢なネックレスに手間どるのは管理人です。
ぼっちゃまにつけてほしいという妄想から生まれた文。何でエロになったんだろう。



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