今はこの立場から 




「好きじゃない女の子からのチョコって、迷惑ですか?」

いつのまにか定番化したデート後の相談。一緒にいても話すのは片想いのあいつの話ばかりだ。そう分かっていても誘われれば二つ返事で了承してしまうし、相談も突き放すことが出来ない。
海辺の砂浜に膝を立てて座るあざみは、白いマフラーに顔を埋め来週に迫ったバレンタインの相談を持ちかけた。

「俺ならいらない」
「……ですよねー」
「でも、あいつは喜ぶんじゃないか」

あざみが求めてるのは俺の意見じゃない。男の意見――もっとわかりやすく言うならあいつの想い人の意見だ。あいつになんて渡すな。本当はそう言いたい。だけどそれは、親友としての俺を頼っている彼女に真摯でない気がして言えない。

「そう、ですか?」
「渡すだけ渡してみろ。意識させられるかもしれない」

まぁ、そんなことをしなくても向こうもとっくに意識してるだろうが。
お前の良さに気付くのは俺だけでいいのに。そんな馬鹿げたことを思いながら立ち上がる。夕方とはいえ、冬の海辺に長時間いるのはきつい。そんな俺をあざみが不安気に揺れる瞳で見上げた。

「頑張れ」

頭をくしゃくしゃと撫でる。いつかこんな風に触れることさえ出来なくなる。そう思うと胸が痛んだ。

「はいっ!」

寒さで赤くなった頬で満面の笑みを浮かべるお前はやっぱり可愛い。伝えたこともないし、伝えるつもりもないけれど。






迎えたバレンタイン当日。
会うことはなかったが、あいつはうまくやっているのだろうか。片想いが実ることのないよう願ってしまう身勝手な思い。そのくせあいつが泣いているところは見たくない。幸せであって欲しい。複雑な心境で、結局動けない。
そんなことを考えながらいつものように音楽室の扉に手をかけると見慣れた後ろ姿が目に飛び込んできた。

「、あ……」

ピクンと肩を揺らし振り返った彼女は今にも泣き出しそうな表情。
どうしてここに、と考えるまでもなかった。

「駄目、でした。渡せなかった」

黙っている俺の表情から察したのか、ぽつりと話し始めた。

「他の女の子から貰ってるの見たら、急に自信なくなっちゃって。情けないですね」

手の前で組んだ手をぎゅっと握りしめながら笑う彼女。
ああもう、見てられない。

「せっかく頑張れって言ってくれたのにごめ、」
「もういい」

抱き締めることなんて出来ないと思っていた。
身体が自分の意思とは関係なく動いて気付けば彼女の身体が俺の腕の中に収まっていた。

だって、笑うから。
お前がそんな風に笑うところなんて見たくない。傷ついているなら泣けばいいだろ。

「ぅ、っ……」

やがてその小さな肩が震え、嗚咽が聞こえてきた。
今日1日我慢していたんだろう。

「が、頑張って作ったんです」
「知ってる」
「渡せ、なくて……私、弱虫、でっ……!」
「うん」
「ひ、……好き、なのにっ……!」
「うん」

抱き締めていてこんなに距離は近いのに。気持ちが繋がることはない。
俺の腕の中で泣く彼女はあいつのことしか頭にない。今ここにいるのは俺なのに。お前がそんなにも想うあいつは、お前がこうして泣いていることも知らないのに。

「バレンタインに渡せなかったら恋が終わるわけじゃないだろ」
「、……っ」
「しっかりしろ。好きなんだろ?」
「うん……」
「ならもう泣くな」

もう二度と抱き締めることはないだろう身体を離す。
涙で濡れた瞳が俺を見上げた。止めろ。そんな目をされると言いたくなるだろ。
俺にしろって。俺ならそんな風に泣かせないって。そんな使い古されたことを言いたくなる。

「いつも、ごめんなさい」
「そう思うならさっさと告白でも何でもしろ」
「そう簡単に言わないで下さいよ」

泣き止んだもののまだ涙声の彼女。敢えて慰めるわけでもなくいつものように突き放す。するとあいつもいつもの元気が戻ってきた。

「あ、そうだ。聖司先輩にもちゃんとチョコ作ってきたんですよ」

そう言って鞄の中から取り出されたのは綺麗にラッピングされたチョコレート。

「あいつのついでか?」
「ち、違いますよ!ちゃんと先輩のこと考えて」
「嘘だよ。知ってる。……ありがとう」

ほっとしたような柔らかい笑顔。その笑顔を諦めたくないと思う。

音楽室に来たのは慰めてほしかったんだろう?泣きたい時に思い浮かんだのが自分だといえば、思い上がりだろうか。そうでなかったとしても、頼ってきたのは事実だ。それは彼女の中に確かに俺の居場所があるということで。
だからみっともなくても、お前を想うよ。今はこの親友という立場からだけど。

俺の好みのトッピングがされているであろうチョコレートを手に、そう思った。




end.



あさがさんからのリクエストで親友設楽でした!
思いっきり片想いになっちゃった…。
バンビは無自覚のうちに設楽先輩を頼ってる感じ。それが恋に変わる可能性は大いにあると思います!

リクエストありがとうございました!





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