コンビニに行こう 




「あっちー」

バスタオルを頭にかぶり、髪の毛をガシガシ拭きながらコウちゃんがリビングに入ってきた。
お風呂上がりのコウちゃんは髪が下りていて、もう何度も見ているのにまだ見慣れず可愛いと思ってしまう。
9月上旬――暦の上では秋だが、実際まだまだ暑い。
クーラーの効いたリビングで涼むコウちゃんには悪いけれど、私はあるひとつのお願いをするつもりで彼に近づいた。

「ねぇ、コウちゃん」
「あ?」
「お願いがあるんだけど、なぁ」

コウちゃんは背が高い。だから彼を見上げるとなると、自然に上目遣いになる。
そしてお願いをする立場の弱さから声も甘えた響き。

「お前、計算してやってんだろ」

そう言って軽く頭を小突くコウちゃんには、付き合いも長いだけあって全部見抜かれている。
琉夏くんとかこうやってお願いすれば一発なんだけどなぁ。やっぱり私にはこういう“可愛いお願いをする女の子”は似合わないのか。

「何だよ」
「え?」
「お願い。……出来る範囲でならやってやる」

諦めようと思っていたところに言外に仕方ないと含んだ彼の言葉。結局甘やかしてくれる優しいコウちゃんが大好き。
ギュッと抱きつくとお風呂上がりの良い匂いがした。

「やったぁ!コウちゃん大好きー」
「へぇへぇ。出来る範囲でだかんな」
「うん、あのね」

「コンビニ行きたいの!」









「……おい」
「んー?」
「何か欲しいもんでもあんのか?」
「ないよ?あ、暑いしアイスでも買おっか」

コウちゃんはタンクトップにハーフパンツと、お風呂上がりの格好そのまま。私もTシャツにショートパンツと部屋着のまま。
夜になればさすがに空気は徐々に秋の気配を含む。
納得がいかない様子のコウちゃんと手を繋ぎながらそう思った。

コンビニに入ると同時に手を離す。邪魔になっちゃうしね。向かうのは先程言ったアイスのコーナー。

「コウちゃん何にする?」
「さっぱりしたもんがいい」

じゃあソーダ系かな。
私は甘いのが食べたい気分だな。濃厚なバニラとか。
そう思いながら、定番のバニラのカップを取ろうとした時ふと目に入ってきたのはモンブラン味のアイス。
秋をこんなところでも感じるとは。

「モンブラン味だって」
「うめぇのか、それ」
「え、でも気になる……!」

新発売のものを見ると買いたくなるのが人間の心理というもので。
でも濃厚なバニラが食べたいと一度思ってしまった脳は簡単には折れてくれないようだ。

「ど、どうしよう……!」

迷う。たかがコンビニのアイスごときで、と言われればそれまでだが。
定番のバニラか冒険したモンブランか。モンブランにしようかな。でも失敗したら嫌だなぁ。とか言って迷ってるうちに売り場から消えちゃうのもよくあることだし。

「お前、こっちにしろ」
「でも……」
「で、俺がこっちにする。それならどっちも食えんだろ」

いつまでも迷ってる私に呆れたのかコウちゃんが私にモンブランを渡し、自分はバニラのカップを取った。

「いいよいいよ、コウちゃんが食べたいの食べて?」
「バニラが食いたい気分になったんだよ。おら、レジ行くぞ」

遠慮する私を無視して彼は会計に向かった。こういうところで強引なコウちゃんはかっこよくて、ずるい。
コウちゃんの強引さは優しさだと、よく思う。

「ゆ、優柔不断でごめんね……?」

コンビニから出てすぐ、再びどちらともなく当たり前のように繋がれる手を嬉しく思う。
私、アイスごときであんなに迷って呆れられちゃったかな。優柔不断なとこ、なかなか直せないんだよね。

「2個とも買っちまえばいいのに」
「だって太る……」
「言うと思った」

読まれてる。コウちゃんは人のことをよく見てる。だから一緒にいる時間が長い私の言動は彼にはお見通しなのだろう。

「どっちも食えて嬉しいんだろ?」
「う、うん」
「じゃあ謝るんじゃねぇ」

そう笑ったコウちゃんの顔は、とても優しくて。
愛されてるなぁと感じた。

「――ありがとう!」
「おう」

コンビニアイスで愛を感じる私ってお手軽かな?
でも、そういう些細なことを幸せだと思える自分でありたいの。

「あのね。私ずっと憧れてたの」
「は?何に」
「夜、好きな人と手繋いでコンビニ行くこと」

コウちゃんの眉が怪訝そうに潜められるのがおかしくて、思わずクスクス笑ってしまう。
そうだよね。そんなことに憧れてたって言ったら誰だって驚くよね。

「漫画とかドラマでよくあるでしょ?仲良しって感じの、それでいて日常って感じがして、そういうのいいなって思って」
「ふぅん……そんなもんかねぇ」

首を捻るコウちゃんにはいまいちよく分からないようだ。それも当たり前か。
コウちゃん家に泊まることは少なくないが、食料は基本的に揃っているので特にコンビニに行く必要がなかった。私の憧れを叶えてもらうためだけに付き合ってもらったのは少し申し訳なく思う。

「なんかよくわかんねぇけど……俺はお前が傍にいること、当たり前の幸せだと思ってんぞ」

何の迷いもなく告げられたその言葉は、愛してるよりもずっと甘いものだった。

「コ、コウちゃん不意打ち……!」
「……るせぇ」

赤くなる私に自分が言ったことの恥ずかしさに気付いたのか、コウちゃんも照れくさそうにそっぽを向いた。

でも、嬉しいな。
こんなに愛されていいのかな、私。

当たり前のように手を繋いで、くだらない話をしながらコンビニに行ける2人でいたい。これからもずっとずっと、そんな関係で。
そんな願いを込めて繋いだ手に力を込め、家路を辿った。






end.




嵐さんって言っても通用するんじゃないかと思うほど、コウちゃんの口調が掴めてません…!



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