白いシーツが重みで皺を寄せている。緑で統一されたそれらは、私の想像していたよりずっとたくさんの冊数で、私の知らない彼の歴史を垣間見る。
「聖司さんって愛されて育ったんですねー」
「何だよいきなり」
アルバムを見たいとお願いした私に「また今度な」と言った聖司さんはちゃんと約束を守ってくれた。今日はいつものピアノがある部屋ではなくベッドルームに通された。そこで待っていたのはたくさんのアルバム。
「アルバムって両親の愛が形になったものだと思うんです」
「ふーん」
私も一人っ子だからアルバムの数は多い方だと思う。
記憶のない赤ん坊の頃からの写真を眺めていると、自分がどれほど愛情を注がれて育ってきたのかを感じる。
「で、どれが見たいんだ?」
「最初から全部見たいです!」
「……楽しいのか?それ」
楽しいです!という気持ちを込めて満面の笑みで頷くと、彼は諦めたように溜息をついてベッドに腰を下ろした。
端にあるものを手に取り、聖司さんの前に座る。すると包み込んでくれる腕。
後ろから抱っこされるのもいいなぁ。あまりない状況に少しドキドキしながらも、アルバムを開いた。
最初に目に入るのは生まれたての、それこそ皆同じような顔をした赤ん坊の聖司さん。猿みたいだと呟く彼に苦笑を返しながら、ページを捲る。
「可愛い……」
2歳くらいだろうか。もうこの頃から髪の毛はくるんくるんだ。写真の向こうの聖司さんは満面の笑みを浮かべて笑っていた。今では考えられないほど無邪気な笑み。琉夏くんたちがふざけて言うセイちゃんという呼び名も、この頃の聖司さんにはぴったりな気がする。本人に言えば絶対怒るから言わないけれど。
「このくらいになると、面影ありますねー」
「そうか?」
小学生くらいの聖司さんは、既に今みたいな表情。言い方は悪いが生意気な子どもといった印象を受ける。
でもたまに写っている笑顔だったり、ピアノを弾いている様子は歳相応の楽しそうなもので。母親になったような気分になり、思わず唇の端が上がる。
「琉夏くんと琥一くんだ」
誕生パーティーの時のものと思われる写真には、嫌そうな顔をした聖司さん、ニヤニヤとからかう琉夏くんと琥一くんが写っていた。
祝ってもらうはずの聖司さんの顔は全く嬉しそうではない。そんな反応が面白くて更にからかう二人といったところだろう。今と全く変わっていない。
微笑ましい気持ちで眺めていると後ろから伸びた手がアルバムを閉じてしまった。
文句を言おうと振り向くと思っていたよりずっと近いその端整な顔に驚く。もっとも聖司さんはそんな私なんて気にも止めないくらい、昔のことを思い出したのか不機嫌な様子だったが。
「これはもう終わりだ」
「えー」
「うるさい」
有無を言わせない彼の口調に、私は諦めて別のアルバムに手を伸ばす。中学生、高校生と成長していく聖司さん。中学生の頃のまだ少し幼さの残る表情など、私の知らない彼がたくさんいた。アルバムの最後は先日行われた卒業式のものだった。私のよく知る彼の顔だった。
「満足か?」
アルバムを閉じると自然に息が漏れた。アルバムを見たがる私を不思議そうにしていた彼。
私と聖司さんが出会ってようやく3年が過ぎたばかり。空白の16年間を知る術は話を聞くか、こうしてアルバムを見るくらいしかない。
アルバムを見ただけで昔の聖司さんを理解出来るとは思っていない。私の知らない葛藤なんかもたくさんあるだろう。しかし、単純に昔の聖司さんを見ることが出来たことを嬉しく思うのだ。
「はい!私の知らない聖司さんがいっぱいでした」
「何だそれ」
呆れたように笑う彼の息が耳元に当たってくすぐったい。アルバムを見るため前のめりになっていた姿勢を変え、後ろの聖司さんに体重を預ける。彼の腕が私をすっぽりと包み込む。
「結婚したら聖司さんみたいな男の子が欲しいです」
聖司さんそっくりの男の子。ふわふわな髪の毛を撫でてみたい。あんな無邪気な笑顔を見せられたら、親バカになっちゃいそう。
「生意気な子どもになるぞ」
自覚あったんだ、なんて失礼なことが瞬時に頭をよぎった。確かに口が達者な子どもになりそうだなぁ。
「……お前みたいに素直な子どもがいい」
どこか真剣な声。抱き締める力が強まり、首筋に軽く口付けられる。髪の毛が当たってくすぐったい。
遠い未来の話を笑わずに付き合ってくれる優しい聖司さん。
結婚して子どもが出来たら、たくさん写真を撮ろう。
そしてアルバムを3人で見よう。
まだ遠い、未来の話。
end.
小さい先輩を抱っこしたいです!
Star Oceanのはちこさんより素敵なイラストを頂きました!
こちら
そのイラストより浮かんだ話です。私の文で台無しになってないかがとても心配です´`
はちこさんに捧げます!貰ってやってください><