気持ちの良い晴天の下、溜まっていた洗濯物を干す。洗濯機がない生活に慣れていたせいか、彼は洗濯物にあまり関心がない。
甘やかしてはいけないと思いつつ、山のように積まれた衣服を見るとついつい片付けたくなってしまい……結果的に洗濯物は私の係となってしまった。
頻繁に泊まりに来るものの、一緒に暮らしているわけではないので、毎回溜まった洗濯物を見ることになる。
それらを干してから部屋に戻ると時刻はもうすぐ3時。早番の彼がそろそろ戻ってくる時間だ。
「ただいまー」
タイミングよく響く彼の声。玄関に急ぎ愛しい彼を出迎える。
「琉夏、おかえり!」
おかえりと出迎えた時に見せる、琉夏の優しい笑顔が大好き。胸が苦しくなるくらい、優しい表情。
大学生とフリーター。お互いバイトに忙しいものの、自由になる時間も割と多い。泊まりに来てはバイトに行く琉夏を見送ったり、帰ってくるのを出迎えたりということが当たり前になった日常。新しく知った彼の表情もたくさんある。再会した頃は寂しそうな表情ばかりだった彼が、いろいろな表情を見せてくれることがとても嬉しい。
「今日、本当にどこも行かなくていいの?」
並んで座ったソファーが2人分の体重を受け止める。
今日は日曜日。せっかく2人とも何の予定もない午後。出掛けようかという彼の提案を断ったのは私だ。
「いいの。琉夏と2人っきりでこうしてたい」
「……そっか」
デートに行くのもいいけど、のんびり出来る時間があるからこそ2人きりで過ごしたい。彼の肩にもたれる私の頭を琉夏が優しく撫でてくれる。幸せだなぁ。
付き合って半年が過ぎた。喧嘩は一度もなく、相変わらず仲もいい。琉夏が傍にいてくれるだけで幸せだと感じる。
「ねぇ、あざみ」
「うん?」
「いいものあげるから、目閉じて?」
「えー、何?」
またお客さんからお菓子でも貰ったのかな。そう思いながら目を閉じると降ってくる優しい口付け。
キスしたかっただけじゃない。可愛い。
温かい彼の口付けに身を任せた。
「キスがいいもの?」
「ん?キスはおまけだよ」
唇が離れると悪戯に笑う琉夏。じゃあ“いいもの”って何だろう。
ふと左手に違和感を覚えて、目をやる。するとそこには輝く指輪。
「、琉夏これ……」
「ちなみにお揃いだよ」
そう言いながら見せる琉夏の左手の薬指には同じ指輪。ペアリング、だ。
「え、いいの……?」
やだ、どうしよう。嬉しい。不意打ちなんてずるいよ琉夏。
ペアリングとか興味なさそうだと思って言えなかったのに。
「ありが……」
「待って」
お礼の言葉を、どこか真剣な表情で琉夏が遮る。
「お礼なんて、いらない。下心があってのプレゼントだから」
いつも笑ってる琉夏だからこそ、こういう真剣な表情をすると目が離せなくなる。
「ねぇ、あざみ」
「結婚、してほしいんだ」
手が重ねられて、お揃いの指輪が小さな音をたてる。
琉夏、震えてる。
「もちろん実際にするのは、俺もお前も社会人になって、ちゃんと一人前の男になってからだけど」
「こんなペアリングなんかで、プロポーズしてごめん。どうしても言いたかったんだ」
謝らないで、琉夏。
私嬉しい。嬉しいよ。
「っ……!」
「結婚とか、興味なかったけど……俺、お前と一緒に生きていきたいって思ったんだ」
知ってるよ。家族を失う怖さを知ってる琉夏だから、家族を作ることが怖かったこと。特別な存在を作るのが怖かったこと。
でも誰より家族を求めてたこと。全部知ってるよ。
「お前の一生を守るヒーローでいて、いい?」
「っ、……う、うんっ……!」
涙が溢れて言葉にならない。一言返事をするのが精一杯。そんな私を琉夏はそっと抱きしめてくれた。
「良かった。こんなカッコ悪いプロポーズ、受けてもらえないかと思った」
本番はちゃんとした指輪と一緒に最高のプロポーズをする、と笑う琉夏。
いらないよ。私には今日のこれが最高のプロポーズだよ。
「い、いきなりすぎるよ……」
「うん。ごめんね?」
「指輪、なんかなくったって、ずっと一緒にいるのに」
「形にしたかったんだ。それとほら、男除け」
お前可愛いから、と笑う彼はすっかりいつも通り。
つられて私も笑ってしまう。
「あざみ」
「ん?」
「ホットケーキ作って」
こうして甘える琉夏を一生傍で見ていたいと心から思った。
それが出来る位置に居させてくれてありがとう。
大好きだよ。未来の旦那さま。
END.
幸せな家庭を築きそうな2人だと思います。