失意の魔女と家出吸血鬼 | ナノ





 うっすらと少年のまぶたが開き、瞳が揺らぐのが見えた。視点は定まらず、眩しいのを堪えるように、きつくまぶたは閉じられた。

「……は、なせ! 触わるな人間っ」

 少年は、弱々しいながらも抵抗しようとする。サラの腕に当たった手を、きゅ、と優しく握ったら、諦めたように力が抜けていった。

 吸血鬼は人間を殺すが、ときには人間に咬みつき仲間に変えてしまう。変化は一方向だが、ごく稀に吸血鬼が人間になってしまうことがある。

 人間に変わってしまったら、大抵は生き延びられない。吸血鬼に人間として殺されるか、人間に吸血鬼として殺されるか。
 あるいは物好きに拾われ慰みものにされるか。ろくな生き方は望めない。

「あなたを見つけたのが私で良かったわね」

 少なくとも、殺すつもりはなかった。そういう意味ではサラも物好きなのかもしれない。

「なに言って……」

 自分の置かれた状況が理解できていないのだろう。できても、理解したくないはずだ。

「大丈夫よ、私も群れを外れてしまったの。あなたと同じなのよ」

 サラもこの子もひとりぽっち。仲間はいない。

「ちょうど寝室が一つ空いてるの。しばらく居てくれてもかまわないわ」

 サラは誰かに傍にいてほしかった。

 あわよくば、我が子のように母と慕ってほしかったのだ。



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