「おはよ、浜松」
「お、おはよ!金田一くん!それじゃ!」
「お?おー、じゃあ後で」

「浜松、放課後……」
「ごっ、ごめんなさい金田一くん、ちょっと先生に呼ばれてて」
「そっか、分かった」

「あ、」
「売店行ってノート買わないと…!」
「……」


「で、なんでお前がヘコんでだよ。あからさまに避けられた金田一のほうが可哀想だろ」
「うぅぅぅ……だって、だってぇ…」

ぐずぐずと泣く私に一ちゃんは鬱陶しいとばかりにタオルを押し付けてくる。私だって泣きたくて泣いてるわけじゃない。泣き止めるものなら泣き止みたいと思ってるし、なにも私が泣くべきことではない。

「苺花ちゃんなんで泣いてんの?」
「国見曰く、金田一をことごとく避けたらしい」
「え?なんで」
「それを今聞いてんだよ」
「ねえなんで金田一のこと避けたのー?ねえねえ」

つんつん、と花巻さんが私の頬をつつく。なに、止めて、今そんなことに付き合ってる暇じゃないのに。なんでって私が聞きたいし、って言うか体育館横だけど金田一くんいないよね?もうやだこれじゃ金田一くんに嫌われ……いや、あんなあからさまに避けたら嫌われたよ。そう考えただけで涙は溢れてくる。

「ひっ…ぅ、うわぁああっ」
「?!だから何で泣くの?!」
「あー!もう鬱陶しい!泣き止むまでそこにいろ!行くぞ花巻!」
「えっ?ちょ、」
「はじめぢゃんのばがぁぁ…っ、」
「ちょっとちょっと、これから他校が来るのにあんなのほっといたらサー」
「……」
「わだじだっで、っ、ぅ、すきでないっ、泣いてっ、…わけじゃないもんん…!」
「だぁーっもう!泣くな、…じゃなくて、喚くな。黙って泣け」
「ひっく……っ、い、いたい……」

渡してきたタオルを奪って、これでもかと私の顔を拭いてくる。いたい、別の意味でも涙出そう。

「とりあえず、練習試合終わったら話聞いてやっから」
「うぅ…っ、ずびっ」
「ほらほら泣かない泣かない。体育館行くヨー」

一ちゃんと花巻さんに手を引かれて、体育館の中へと入る。中にはもう人はたくさんいて、もちろん、金田一くんもいた。顔なんか合わせられるわけもなくて、あっちが気づく前に反らしたけど、また泣いちゃいそう……っ。

「あっち……は、金田一がいるから行きたくないってか」

そうやって、なにも言わなくても気づいてくれる一ちゃん本当頼りになる。お父さんって…むしろお母さんって呼びたい。

「じゃあ、ここ。座って見てれば?とりあえず、泣くときは黙って泣いてね」

入り口近くの、上へと繋がる階段に座らされて、頭にタオルを置かれた。う……花巻さんの優しさにまた泣きそう…。
じゃあな、と一ちゃんは私の頭を撫でて行ってしまった。また溢れそうになる涙をぐっと堪えて、貰ったタオルに一度顔を埋める。泣くな、泣くな私。金田一くんの試合は全部観るって決めてるんだから。例え嫌われても、観る……み、うぅぅぅ……。


結局試合が始まっても、顔はあまりあげられなくて。だって金田一くんの姿が目に入る度に泣きそうになるんだもん。溢れちゃうんだもん!何回か一ちゃんや国見くんたちがぎょっとしてるのが見えた気がしないでもないけどそこはもう、あれだけ泣いたの見られたらどうだっていい。

「あっれー?苺花ちゃんそんなところで何して……本当に何してるの」
「バッカ!及川、今苺花呼ぶなよ!」
「へ?」

聞こえた声に顔を上げる。ジャージ姿の徹ちゃんが立ってた。

「……、っ、と、おるちゃんの…っ、バカぁ!!」
「はぁ?」
「徹ちゃんのせいだからね!徹ちゃんの!本当クズ!バカ!あほぉ!」
「会ってすぐに罵声とか意味分かんないんだけど!」

なんでコイツはこんなにのんきにしてるの。誰のせいで泣いてると思ってるんだ、殆どコイツのせいじゃないか。そう思うと段々腹立ってきた。へらへらしやがってこんちくしょうめ…!

「徹ちゃんなんか負けちゃえ」
「俺は負けな……」
「徹ちゃん一人負けちゃえっばぁか!」
「せめて最後まで言わせて……って話も聞いて!」

徹ちゃんがなにか言ってるのも無視して立ち上がる。相手側のコート。つまりは烏野の方へと回り込む。

「影山くん!徹ちゃんのこと負かせて!!」
「は?え、浜松?」
「なに敵応援してるの?!苺花本当バカ!」
「バカじゃないもん!クズ川のほうがバカだもん!影山くん、あんなクズぼっこぼこにしてよ!」
「ちょっと岩ちゃん!あれいいの?!」
「クズ川うっせぇ!とっととアップしてこいボケ!苺花テメェはぜってぇにもうそこから動くな!喋るな!いいか!」
これは一ちゃんガチで怒ってる。うん、分かった。涙も怒りもおさまった私はうんうんと頷く。ごめん、後でみんなに謝りに行こう。
言われた通り動かず喋らず、そして言われたことだけしてればいいってわけじゃないから正座もして試合を見守ってた。
なんか、影山くんと、ヒナタ?くん?がすごいけど、真っ正面に金田一くんがいてそれどころじゃない。
さっきまでは、後ろ姿で、たまに顔が見えるくらいだったけど、今はばっちり真正面だ。しぬ。目合った気がするけど、逸らしてしまった、うっ……くぅ…泣くな、泣くな私……一ちゃんに黙ってろって言われたもん…。

試合は、本当に負けちゃった。途中から圧され気味だったし、……ごめん、見れてない。

「話は後で聞くから、とりあえず影山に謝ってこい」
「なっ、なんで……行きます、着いてきてください……」

外で烏野の人たちに挨拶をし終えた一ちゃんが私の首根っこ掴んで放り出す。行くから、出来れば着いてきてほしい。仕方ないなってため息付きながら着いてきてくれる一ちゃんの後ろを歩いて行けば正門で立ち止まる黒いジャージの集団がいた。

「かっ、影山、くん…!と烏野の、みなさん……」
「あ、岩泉さん…と浜松」
「よう」

片手をあげて影山くんに挨拶した一ちゃんがほら、と私の背中を押す。

「し、試合中、叫んだり邪魔したり、して…すみませんでした……」
「あー…いや、別に」
「本当だよー。なんか知らないけど泣いてるし、罵声浴びせられるし」

特に気にしてない、って影山くんの顔が言っているにも関わらずその後ろからわき出てきたクズ川。な、んで…!

「―っ、徹ちゃんが悪いんだから!」
「だから何が?!」
「徹ちゃんが言ったんじゃん!押してばっかじゃダメだから引けって!」
「………は?」

「だから私、ちょっと金田一くんと距離置こうとしたら、……っ、掃除時間に、金田一くんが……っぅ…」


「なぁ、国見」
「ん」
「人を避けるときってどんなときだ?」
「…は?何、いきなり」
「いやさ、なんか、さ」
「……やましいことがあったり、嫌いなやつとか」
「あー……じゃあそれか」
「なんの話?」
「浜松」
「浜松?」
「なんか避けられてっからさ。嫌いになったから、避けるんだろうなあー」
「…………」



「…っ、て、言われ…て……っ、金田い、くんのこと…っきら、いじゃ…なっない、のに…っひく…!むしろ逆、なのにぃ…っと、とおるちゃんのばかぁ…!」
「え、え……えぇぇ?!ちょ、まっ、はぁぁ?!」
「ぅわあああんっ!きんだいぢぐんに、きらわ…れっ、たら……」

金田一くんが言っていた言葉を思い出したら涙が溢れてきて、場所も考えずにまたも大泣き。だって、だって仕方ない。悲しいもん、寂しいもん。

「わ、わかったから!何とかしてやっからとりあえず泣き止め!」
「他校生の前でみっともないよ!ほら、苺花ちゃん泣き止んで!ネ!」
「浜松、お前、まだアイツのこと好きだったのか?」
「ちょ、影山」
「今その子にそういう話はしないほうが……」

「すきだもんっ…!ずっとずっと、金田一くんのこ、だっ、だいすきだもん…!」
「…あ」
「…?…っ!!」
「げっ!」


永遠と声を上げて泣きわめく私はとうとう一ちゃんに抱えられて影山くんたちの元を離された。
たぶんきっと、もうそんなに会うこともないだろう。謝りに行ったのに、仕方ない。だってあそこで徹ちゃんが出てくるから。もう全部徹ちゃんが悪い。でも最終的に私が悪い。金田一くんに謝ろう。勝手に避けて許してもらえるとはあまり思えないけど、それでも、謝ろう。

「…国見くん、金田一くんは?」

あんまり擦らないようにって徹ちゃんから渡されたハンカチで目元を拭きながら傍で片付けをしていた国見くんへ声をかける。さっきもらったタオルはもう、タオルとしての役目を果たしてくれなくなった。

「…知らないけど」
「?…あ、一ちゃん、金田一くんは」
「は?!あ、あー…さっき監督に呼ばれてどっか行ったな」
「そっか……」

それじゃあ、謝るのは明日にしよう。そっちのほうがいいかも。今謝りに行っても、目も鼻も真っ赤だし……金田一くんに許して貰えなかったらまた大泣きしてしまう自信がある。明日なら、ちょっとは我慢出来るかも。金田一くんの前で我慢しても一ちゃんと徹ちゃんのところで泣くから、それまでは我慢出来るかもしれないし。

「一ちゃん、今日は帰る……」
「一人で大丈夫か?」
「うん、大丈夫。今日はごめんね、国見くんも。また明日ね」

帰ったら、目冷やそう。ちょっとは、赤いのひいてはくれればいいな。

嫌いになったから避けてるんだろ

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