別に気付かれないようにしている訳ではなくて、こちらとしては気付いてほしいと前も言ったような気がするけど気付かれたら気付かれたで気まずくなったりしてしまったら嫌だなと思う。
喜ぶべきではないんだろうけど、金田一くん本人からお友達宣言を頂いて幸せなことに変わりはない。

「どっちなんだ、苺花」
「金田一くんにとって友達と認識されてることが嬉しくて嬉しくて堪らない」
「ならいいじゃん」
「でも乙女心としては、私の気持ちを知ってもらいたい」
「伝えてこいよ」
「察してほしい」
「今までの経緯見てみろ?」
「でも気付かれて、お友達から知り合い、知り合いから顔見知り、顔見知りから他人に格下げされたらと思うと死んじゃう」
「当たって砕け散れよ。箒で掃くくらいはしてやっから」

あ、集めてくれるわけじゃないのね。掃くのね、つまり一ちゃんは私の砕け散ったハートを箒で掃き捨てるってこと。てかなんで散るのなんで砕けるだけじゃないの、なんで二重に似たような言葉繋げてんの。

「つうかよ、もう本人に渡せよ。こっち持って来んなよ鬱陶しい」
「やっだ一ちゃん!従兄弟で可愛い可愛い妹同然の私なんだから鬱陶しいなんて言わないで!」

2階と3階を繋ぐ踊り場。呼び出した一ちゃんは嫌々言いながらもちゃんと来てくれて話を聞いてくれるんだから本当優しいと思う。そんなんだから徹ちゃんにいいように使われるんじゃないのかとも思うけど、まあその辺はどうでもいいや。

「そういうとこ、及川に似ててムカつく」
「徹ちゃんに似てるなんて言われた私のほうがムカついてる」
「なんなの?君たちなんなの?俺の居ないとこで悪口とかやめてよ!」

うっわ、出たよ。なんなの?そっちこそなんなのなんでわき出るの、って一ちゃんの顔に書いてある。うんうん、同意見だよ。

「あ、なに岩ちゃんソレ。お菓子?」

一ちゃんの手元にある青色の袋を見付けた徹ちゃんが笑顔のまま中身を覗き込む。動きが止まった。かと思ったら手を伸ばして、袋の中に。取り出したそれは言わずとも分かる、

「ナニコレ?」
「は?!クッキーじゃん!徹ちゃんクッキー知らないの?!」
「はあ?!クッキー?!どこが!なにが!?そっちこそクッキーのこと知らないデショ?!」

手に取ったクッキーを私の目の前に突き付ける。
見た目は、まあ、その、お店みたいなきれいなものでもないけど私が作ったのはクッキーなのだからクッキーに違いない。

「炭じゃん!焦げたとかどうとかじゃなくて炭!木炭!」
「ちょっと!それ燃やしてもバーベキューとか出来ないからね!てかチョコかもしれないじゃん!」
「チョコなのか?」
「いや、普通のプレーン?ってやつ」

一ちゃんが徹ちゃんの口にクッキーを突っ込みながら聞いてくる。
まさか。チョコ入れるとかそんな高度な技は出来ないし、それは一ちゃんがよく分かってると思う。

「ぶっ、おま、苺花、これなに入れて作ったわけ…」
「げっ!?及川きったねぇな!」
「普通にホットケーキの粉で作れるやつ。に、隠し味に色々?」
「色々?色々ってなに?」
「覚えてない」
「それは適当に入れたから覚えてないってこと?それともたくさん入れて覚えてないってこと?」
「たくさん、愛情込めて」
「気持ち悪いよ、ばっかじゃないの」

なんでさ!一ちゃんはいつも食べてくれるのに!文句……は、そりゃまあ言わないこともないけど、でもいつもアドバイスくれるもん!
ね、一ちゃん!!と一ちゃんのほうを見れば、あー、と目を反らされた。なにそれ。でもやっぱり、一ちゃんは1つ手にとってパクり。流石一ちゃん!

「………………ヨウハ、キモチガコモッテルカドウカダトオモウ」
「片言!?岩ちゃんそこにいる?!魂ちゃんと身体に入ってる?!もうやめて!苺花、お願いだからこれ以上岩ちゃんに変なもの食べさせないで!」
「変なものじゃないもん!一ちゃんが食べてくれなきゃ誰が味見してくれるの?!こんなの金田一くんにまだ渡せないのに!」
「渡せないって分かってるじゃん!食べれたもんじゃないって自覚あるじゃん!ある程度出来るようになってから味見もしてもらいなよ!」

ぎゃあぎゃあとまた言い合いが始まる。2階と3階……3年生と2年生の間の踊り場とか関係ない。だって、金田一くんに渡すものなんだから失敗したのとか絶対ない。でも失敗してすぐ次、じゃなくて、その失敗の何が悪いか知りたいもん。

「苺花が台所に立つことが失敗だよ」
「なんなのさクズ川!私だって好きな人にお菓子作りたい!女子力見せ付けたい!!」
「落ちてるから!女子力見せ付けても落ちてちゃ意味ないから!」
「もうお前ら2人うるせぇ!」

落ちてないもん!まだ見せてないから落ちてないもん!!ふざけるなクズ川のくせに!!
ふんっ、顔を背けるとじっとこちらを見ている国見くんがいた。え、やだなにあの子、怖いんだけど。ホラー映画の撮影でもしてるの?

「あ、国見ちゃん」
「なにやってんだ、そんなとこで」
「3人の声、1年の階まで届いてました」
「え、やだうそ恥ずかしい」
「恥ずかしいのは浜松の料理の出来なさが知れ渡ったこと」
「やだ!なにそれ!本当恥ずかしい!!」

どんだけ大声で話してたんだろう。というか、誰も通らなかったってことは避けられてたんだろうか。どうでもいいや。それよりも、金田一くんに聞かれてない?聞かれてない??今国見くんと一緒に居ないってことは、大丈夫だよね?

「あれ、そんなとこで何してんスか?」
「うぇっへい?!」

国見くんの後ろから、丁度角を曲がってきた金田一くんが階段を降りてこっちへとやって来た。いっ、いつ、いつから居たの国見くんといたの?え、え?え?

「金田一、いつから居た」
「いつって、今ですけど……英語のノート出すの忘れてたんで職員室持って行ってました」
「そうか」

ありがとう一ちゃん。そうやってさりげない優しさをくれる一ちゃんって本当頼りにしてる。

「金田一。これなんだと思う?」

徹ちゃんがまた、私の作ったクッキーを1つ摘まんで見せて聞く。なんだこれ、なんだこの晒され方!ひどい!!クズ川本当最低!!

「なんですか、これ……木炭?」
「素直な感想だね、金田一」

私に1000のダメージ。HPは0どころかマイナスに入ったからね。まあまあ確かに私もさ、さっき散々反論したけど木炭に見えないこともないと思う。でも自分で認めちゃ元も子もないわけで、それにこれでも少しずつ上手に焼けるようになって来たんだよ?オーブンが変な音しなくなったから本当お母さんにも誉められたし。
でもさあ、いくら自分でちょっとでもそう思ってても人に言われる、ましてや好きな人に言われたら立ち直れないよ?ねえ?クズ川は本当に私を地の底に落としたいのかドチクショウ。

「え?違うんですか?」
「なあ、金田一」
「はい」
「もし、すんげぇ不器用で袋ラーメンすらまともに作れねぇ女子が好きな人のために一生懸命作った見るに耐えない形で絶対不味いであろうクッキーを渡されたらどうする?」
「へ?…んー……」

待って一ちゃん。私、袋ラーメンくらい作れるんだけど。あれ?しかも今、見るに耐えないって言った?不味いって言った?あれ?これ私の話?クッキーの話?え?なに金田一くんに聞いてるの?!一ちゃん実はお馬鹿だったの?!勘弁してよ!!
これ以上HPがマイナス言ったら吐血レベルだからね!明日からお家から出れない出ない!

「食べます」
「マジ?クソ不味いんだよ?焦げたもの食べたら癌になるっていう逸話が本当になるくらいのものだよ?」
「なんですかその逸話」

「だって、その子が好きな人……えっと、今の話だと俺、のために一生懸命作ってくれたんですよね?だったら食べます。食べなきゃいけないでしょ、それは」

おい、なんだ。なんなんだこの子!いい子!優しい!私のHPは違う意味で0!かっこよすぎだろ金田一くん…!

「金田一のくせにかっこい…!」

くせにってなによ!金田一くんはかっこいいもん!徹ちゃんより断然かっこいいからね?!なに言ってんの!

「そうか。それじゃあ」
そこで一ちゃんが一歩金田一くんに近付く。そのまま、持っていた青色の袋を差し出して金田一くんへと手渡した。
…………うん?

「ちょっっっ、と待った一ちゃん!!」
「お前なら食えると信じてる。てか食え、副部長命令」
「は?」
「なに言ってるの一ちゃん?!それ一ちゃんに食べてって言ったやつだよ!他の人にわた、渡すのは!」
「あ?」

やめて!その低い声やめて!見下ろさないで!怖い!!

「俺がもらったもんを俺がどうしようと俺の勝手だろ。苺花は黙ってろ」
「ジャイアンか?!ジャイアンなの一ちゃん!?」

お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの。そういうことなの?ひどいよ一ちゃん!
騒ぐ私に一ちゃんはうるさいと頭を叩く。一ちゃんがおかしいことするからじゃん!ねえ!ほら、金田一くんも困ってる!

「それ、苺花ちゃんが作ったかわいそうなクッキー」
「かわいそうな物体Xじゃないんですか」
「クズ川と国見くんは今喋らないで!色んな意味で0になった私のHPがマイナスに行くから黙ってて!」
「浜松が作ったのか?」

うぇっへぇい?!
きょとん、と。金田一くんが手元の袋を見て私を見て聞いてくる。え、あ、うんんんん、っと、その、ね、ね、……他の3人を見ればあからさまに目を反らして合わせてくれない。今度の練習試合さーとか言ってるなんなの!ここまでやったら最後までどうにかしてよ!

「浜松?」
「そっ、その、えっと……そ、うだけど……も、木炭だから、見た目も味も木炭だから食べないほうが、いいよ!うん!そう!お腹壊したりしたら大変だもん!」

だから返してください。金田一くんのものになったなら金田一くんにお願いして返してもらえばいい。だからお願いします返してください。そろそろ本気で泣きそうだから、本当、本当。

「浜松って、料理苦手なんだな」

金田一くんって、たまに凄い勢いで私の心に傷をつけて抉るよね。金田一くんによって抉られる傷もいいけどね!いい反面、立ち直れそうにないけどね!本当、乙女心って複雑!

「あ、本当だ、苦い」
「なっ、なっなに、なに食べて……!」
「副部長命令だしな。それに協力するつったし……食ってダメ出ししてやろうかと」

ボリボリと、残りのクッキーを食べていく金田一くん。な、っ、こっ……コイツ本物のイケメンだろ?!ねえ!ねえ!!

「とりあえず、レンジ?オーブン?の使い方を覚えるべきだと思う」
「う、うん!そうだよね!オーブンをちゃんと使えなきゃ意味ないよね!ありがとう!」
「ん」

後ろの方でそれ以前の問題もとか言ってるのが聞こえるけど、無視だ。なんも聞こえない聞かない。金田一くんの言葉だけで生きていける。
でも副部長命令、って言われたらからって何も本当に全部食べようとしてくれなくてもいい、と思う。本当に、金田一くんは優しい。あの風邪薬ですら優しさは半分しか入ってないというのに、金田一くんは全てが優しいで出来ている。

「あ、あのっ、金田一くん…!」
「うん?」
「あの、えっと……ま、また、何が作ったら食べてくれる…?」

優しさにつけこんでるとかそんなことは、その…ねえ?ほらよく言うじゃない?胃袋掴めばこっちのもんってやつだ。

「ウマイもん好きな奴に食わせたいもんな。俺でいいなら」
「そ、そうじゃなくて!…あの、……金田一くんに、食べてもらいたい…の……」
「え……それって…どういう、意味…」
「っ、そっその…!い、いいいいいつも!いつも相談のってくれてるから、その…お、お礼っていうか!お、美味しい作れるようになったらって意味でああああの、だから…!」

って、なに言ってんだ私!私の今のレベルで胃袋掴むどころか胃袋破壊でしょ!それに今の言い方じゃ、まるで金田一くんのためとか、そんな風に聞こえて……!自分の気持ちを知ってもらいたいとか言いながらこんな知られ方はさあ!

「あ、ああ!お礼、お礼な!うん、別にそんなお礼されるようなことはしてないし…」
「そんなこと!全然ないから!」

むしろ本人の意見を聞けるのでお礼だけで足りるものじゃない。なに言ってんだ私。さっきから言ってることが分からない?人間そんなものだと思う。でもまあ、胃袋掴めればいいけど、私の料理なんてお礼なんてものにならないしね!そこは、買ったものにしよう!女子力見せ付けても落ちてちゃ意味ないからね!ちょっとさっきからテンパりすぎてて何言ってたか覚えてないやばい。

「でも、浜松が一生懸命作ったもんなら、俺、食うからな」

私の動きが止まる。後ろにいた一ちゃんも、徹ちゃんも国見くんも止まる。
だめ、もう、しぬ、しんだ、ころされた。

「おーい!金田一!さっきのノート、書いてねぇとこあるって!」
「マジか今行く!じゃあすみません、ちょっと行ってきます」
「お、おぉ、居残りならねぇようにな」

壁に手を付き、頭を振りかぶる。そのまま前へいけば壁におでこを打ち付けた。

「なっ、なにやってだ苺花?!」
「バカなの?!苺花ちゃん本当バカでしょ?!」
「だって!なに今の!私あんなセリフ、ドラマの中でしかないと思ってたよ!あれ意識せずに言ってるんでしょ?!なんなの金田一くんってどっかの国の王子様なの?!私金田一くんが踏んで行く道でいいから!」
「なに言ってんのか全くわかんねぇ!」

私だって分かんないよ!だって金田一くんが、金田一くんがあんなこと、……!

「あー、ほら、デコ腫れてる」
「金田一くんがかっこよすぎるよぉ……」
「それで泣いてんのかデコ痛くて泣いてんのかどっちだよ…」
「金田一くんのほうが大きい……でも痛い……」

ぶつけたおでこがひりひりする。一ちゃんが覗き込んで腫れてることを教えてくれた。痛いけど、そんなこはどうでもいい。いや、でもこんなん金田一くんには見られたくない。

「苺花を保健室連れてってくるわ」
「いってらっしゃーい。俺と国見ちゃんはそれぞれ先生に行っとくねー」
「……」

保健室でちょっと冷やせば大丈夫だろって。一ちゃんが言うんだからそうだろう。色んな意味でまともに歩けない私を一ちゃんは頭を鷲掴んで真っ直ぐ歩かせながら保健室へと向かった。

それってつまりどういう意味?

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