「ふぅ……」

お風呂というのは素晴らしいものだと思う。
産まれた頃から外国に住んでいて、物心ついた頃に来た日本で入ったお風呂は幼いながらも感動したのを覚えている。それ以来お風呂は私の癒しの1つだ。

「……」

癒されるには癒されるのだけれどやはり、ゆっくりすると考えることは尽きない。
でもいくら考えたところで、私がどうすることもないのだけれど。

「……燐がどうにかするか」

杜山さんと仲はいいみたいだし。出雲も、朔子からそれとなく何か言ってるような気もする。そうなれば私は特に、というかむしろ何もしなくていい。うん、そうだ。私は何もする必要はない。そこまで考えたところで脱衣場の方から物音が聞こえた。
何かものでも落ちたのだろうか?様子を見ようとお風呂から上がり体にタオルを巻いた瞬間、ガラス張りのドアがけたたましい音を立てて何かによって壊された。

「……っ!」
「燐…?」

ドアを壊した何かはどこから見ても燐と、その上から覆い被さるように彼の首を絞める屍系の悪魔。
なんでこんなところに…?そう考えるも先にどうにかすることが優先。その悪魔に向かい、振り上げた右足で蹴り上げる。
倒せはしないが、燐は助けられるはずだ。

「ゲホっ、ゲホッ…!」
「大丈夫か、燐」
「お、おぉ……って、空斗、おまっ…その格好……!」
「お風呂に入っていたんたから仕方ないだろ」

というか、今そんなことを気にしている暇はないだろ。
どうする。悪魔の背後には杜山さんや出雲、それに朔子の姿も見える。こんなところで燐に剣を抜かせるわけにはいかない。
……?この位置からなら、後ろの彼女たちのほうが狙いやすいはずだが…もしかして、狙いは……、

「空斗っ!前!!」
「っ……――!」

燐の言葉とともに脇腹へ激痛が走る。悪魔に投げ飛ばされたと気付き、壁に体を打ち付け、と思っていたら燐が私と壁の間に入ってくれたお陰で大した痛みはなかった。

「いってぇ……」
「っ……悪い、燐」
「いや……」

「兄さん!誇蝶さん!」

数回、銃声が響き悪魔へとぶち当たる。
今のでやったかと思ったが悪魔はそのまま上の窓から飛び出して行った。

「ゆ…きおっ……遅ぇーぞ!」
「本当にな」

降ってきたガラスの破片を払い落としながら立ち上がる。燐は奥村弟の元へとすぐさま駆け寄って行った。
一歩、踏み出そうとしたところで床がガラスの破片だらけなのに気づく。……まあ、風呂場で靴なんて履くわけないしな。

「空斗、大丈夫やった?」

こちらに駆け寄ってきた志摩が着ていたシャツを私の肩へかけてくれた。

「あぁ。大丈夫だ」
「さっきのテスト、途中でおらんなるからどないしたんや思うたらお風呂やったんやねぇ」
「早く終わったからな。早めに入ろうと思って」
「そっかそっかぁ」
「……志摩、鼻の下が伸びてるぞ」

少し気持ちが悪い、と言えば眉を下げて一歩近付いて来た。

「…っ、ちょ……志摩っ!」
「空斗、軽っ!ちゃんとご飯食べてはるん?」
「普通に、食べてるから……そう、じゃなくて…」
「まあまあ!床がガラスの破片だらけなんやから、素直に抱っこされとき」

抱っこというか、横抱きにされ風呂場から出て脱衣場に下ろされる。他のみんなはいつの間にかいなくなっていて、ここには私と志摩の2人だけしかいない。

「……ありがとう」
「いえいえー」
「……」
「……」
「……何しているんだ」
「え?」
「……着替えたいんだが」
「あ、ああ!せやね!はよ着替えんと風邪低し、ほんなら俺は部屋戻ってますわ!」

じゃっ!と片手を上げて脱衣場を出ていった志摩を見送り、ぺたりと、その場に座り込んだ。

「……びっくり、した…」

いつもより、近かった。志摩が、近かった……廉造の匂いが、近かった。肩にかけられた彼のシャツをぎゅっと握る。
見られなかっただろうか。背中の傷を、タオル巻いていたから大丈夫……なはず。腕は、多分大丈夫、本物と変わらない大丈夫…、うん、大丈夫。

「……早く、部屋に戻ろう」

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