目を覚ますとまだ陽は登っておらず、時計を見ればまだ5時前。こんな時間に起きても、二度寝しようにも何故だか目が覚めて出来ない。
小さく息を吐き出して、ベッドから降りた。
昨日の夜に整理したタンスから私服を取り出して、服を着替える。ラフな服に着替えた私は散歩しようと外へ出た。


「二帝」


そう呟くと小さく風が吹いて、私の目の前に30cmくらいの中華風な服を来た小さな小人が現れた。


《お、呼びです…かっ、姫様っ…》
「呼ばせてもらったが…」


緑を基調とした、中華風なそれに身を包んだ目の前でふわふわと飛ぶ二帝。またか、と小さく息を吐くと零れそうなほど目にたまっていた涙が零れた。


《あうっ!すみませんっすみませんっ…》
「謝らなくていいから」
《うぅ…すみません……》
「それより二帝。今から散歩しようと思うんだが、一緒に来てくれないか?」
《わ、妾でよければ…、グスッ》


鼻を啜り、頷く二帝の頭を軽く撫でてまた歩き出した。二帝は私と契約した月仙六帝、云わば精霊みたいなもので、祓魔師でいうところの使い魔みたいなものだ。


「そういえば二帝、他のみんなは元気か?」
《あ、はい。皆さん、姫様に呼ばれないから、少し寂しそうですよ》
「そう。でも用事もないのに呼んでも迷惑なだけだろ?」
《そんなことないです。みんな姫様とお話だけでもしたいんですから》


一部は、な。あとの一部はただ単に戦いたいだけだろ。そうは思うも優しい二帝にそんなことは言えるわけもなく、ゆっくりと道なりを進んで行く。


「あれ?空斗?」
「…、志摩…?」
《……》
「やっぱり空斗や。こんなとこで何してはるん?」


ふと名前を呼ばれ振り返るとそこにいたのは志摩で、気付いた二帝がすぐさま私の後ろへと隠れた。


「散歩だよ。早く起きてな。志摩こそ、何をしているんだ?」
「坊に叩き起こされてランニングです。ほんま眠いったらあらしまへんわ…」
「ランニング、ね。で、志摩はサボってるわけか」
「あはは、ご名答。やってあんな、朝から5kmなんて走れるわけないやないですか」


朝から5km、か。頑張るな竜士。ニコニコと近付いてくる志摩に首を傾げていると志摩が口を開いた。


「散歩、一緒にしてもええ?」
「竜士はどうした」
「変態はええんです。ってか、"竜士"?」
「なんだ?勝呂竜士、違ったか?」
「いや、合ってますけど…なんで名前で呼んではるんですかっ?!」


なんで、と言われても。別になんとなくと言ってしまえばなんとなくだし。名前で呼んでも別に何も言われなかったからそのまま呼んでるんだけど。


「そんなことより志摩」
「そんなことって…全然そんなことやないんやけど……」
「あそこに見える鶏頭、竜士じゃないのか?」


志摩の後ろを指差す。遠くにいるけれど黄色と黒がなんとなく分かって、竜士だとすぐに分かる。こんな遠く離れているにも関わらず、どことなく怒りのオーラが見えるというか。それを志摩も感じ取ったのか、顔を青くして慌て始めた。


「じゃあな、志摩。私はそろそろ部屋に戻るよ」
「えっ?!ちょ、そんなんアカンって!空斗がおらんかったら俺ころっ…殺され…っ」
「大丈夫だ志摩。竜士も腐っても坊さんだ。簡単に人を殺めたりはしないさ」
「それはすなわち、じっくりゆっくりいうことですか?」
「さあ?」


すがりつく志摩の頭を軽くポンポンと叩いたあと、近付いてくる竜士に手を振ってその場から離れた。


《姫様、あの方…》
「二帝」
《はっ、はい》
「久しぶりに二帝の煎れたお茶が飲みたい。部屋に戻ったら作ってくれるか」
《……はい、もちろんです》


二帝にお茶を煎れてもらうよう、約束をした直後後ろから断末魔のような志摩の叫び声が聞こえた。


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