冬の夜   **夜明けのむこう



サスケと出会って2回目の冬が来た。去年と同じように、今年も雪は早く降りはじめた。

「紅、外行くけど行く?」
「……行く」

雪中のこの街の景色のように、あたしたちはあまり変わっていない。

「外寒いからあったかくしろよ?」
「サスケもね!」
「んー」

相変わらず、サスケの家で暮らして、サスケと温かい毎日を過ごしてる。


バイト先で買ったダッフルコートに袖を通しながらふと、去年は赤いコートを着たなと思い出した。

…あの公園、行きたいな。


「おまたせ」
「ん」

差し出された手に、ミトンで包んだ手を重ねた。

外に出ると、辺り一面雪が積もっていた。あたしたちは防水が効いたブーツで雪道を並んで歩く。

「今日千笑に会ったんだってね」
「今その話しようと思ったんだけど。今じゃ紅のほうが全然千笑と仲良いから情報早ぇよ」
「ふはっ!たしかに!」

高校に入って、千笑は本格的に音楽への道へ進みはじめた。
忙しいらしくて、サスケはあまり相手にされてないらしい。

「千笑はあたしが大好きだからね!」
「見てればわかる。紅も大好きだよな」
「うん!まぁ、向上くんには敵わないけど」
「そうか?」
「敵わないよ」

千笑がどんなに向上くんが好きかは誰よりも知ってると思う。
向上くんも、千笑が好き。

「なぁ、紅」
「ん?」
「…公園、行かね?」
「行く」

そう答えると、繋いだ手の力をサスケが強くしたのが伝わった。

「寒いね」
「……ん」


サスケ……――


家の近くの公園にはやっぱり隙間なく雪が積もっていて、月明かりに照らされた雪は、紫色に染まっていた。

「見てサスケ!雪の色があじさいみたいだよ!」
「すげーな、きれい」
「うん、きれいっ!」

吐く息が白い。
寒くて身震いしていたら、後ろでひとつに結いていた髪を、サスケに解かれた。

「結んでたら寒いだろ」
「た、たしかに。」
「ふはっ」

あ、笑った。


ホッとした。

「サスケっ」
「う、わ!」

―――ドサッ

サスケに抱き着いて、雪の上に倒れ込む。

「いてぇ…」
「ふは、痛いねぇ」
「紅がやったんだろ!」

サスケを下敷きにしちゃったから、実はあたしはあまり痛くなかった。
だけど心臓が、痛くなった。

「―…サスケ」
「紅?」

顔をちかづけると、あたしの髪が一束サスケの頬を撫でた。

「………大好きだよ」

そっとくちびるを重ねると、自分の頬を涙が滑り落ちるのがわかった。
涙を見られたくなくて、しばらく、キスしたままでいた。


来月この街を出ることに決めたのは三週間前。初雪が降った日だった。

お母さんの容態があまり良くないらしく、あたしはあの街へ帰って、お母さんの残りの命を共に過ごしたいと思った。

この街とあの街は何県もまたぐほど遠く、サスケとも千笑とも頻繁に会えなくなってしまうけど……

命の大切さも儚さも、愛がどんなものかも、唯子さんからあたしは教わったから………


「……帰ってくるから」
「…紅…」
「必ず、サスケのところへ帰ってくる。だから、待っててほしいの……っ」

あたし、今度こそ、家族を大切にしたいの。
愛がカタチになった、この身体を巡る深紅に誓って。


「ばーか。

―― 待つに決まってんだろ?」


顎を引き寄せられて、また重なるくちびる。
触れるだけのそれは、温かすぎて、離れがたかった。

「俺には紅しかいねぇから。紅にも俺しかいねぇから。それは覚えとけよ」
「…ん」
「離れても繋がってる。…さみしかったら絶対言えよ?会いに行く」
「会いに?」
「金貯めてるし」
「ふは!」


片道、バイクで2時間
電車とバスで4時間

ひとつ屋根の下で過ごしてきたあたしたちには不慣れな距離と時間だけど


大丈夫。
あたしは、サスケだけだから。

「長い休みはどこか行こうね」
「ん、行こう。行きたいところ考えとけよ?」
「うん、わかった」
「紅の家族と、古都によろしくな」
「ん。ありがとう。」


ねぇサスケ?

あじさいが咲く季節になったら、あたし、この街に帰ってきて、唯子さんにあじさいの花をたくさんあげるよ。


「――…サスケはあたしのいのちみたいだよ」


だからまた来年も、ずっと、この景色を一緒に見ようね。



(Sasuke×Beni 121209)

バカップルの遠距離恋愛間近のお話でした。いつかちゃんと紅の帰省の話は書きたかったので書けてよかったですー。

このふたりはスラスラ書けます。わたしと相性がいいふたりです。

そしてサスケくんはなかなかかっこよく書けたんじゃないかな…??(←



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