* * * *

宝石が降ってきたのかと思ったけど
案外、そうなのかもしれない

暁ちゃんは魔法つかいだもん

そう思って笑った

手の平の中に落ちてきた
スペア・キーを見て

* * * *


「俺、今日は残業があるんだよ。残業。いつもより長い残業。」
「がんばって、暁ちゃん。かわいい生徒のためだよ」
「……ん。


ん?

なに、これ。


「だから、夕飯、作っといてくんない?」
「………」
「俺、今日は中華がいい」
「……暁ちゃん、これ…!」


中華?そんなの、今のわたしにはあまり聞こえてない。それよりも、手に落ちてきたものを見て、堪らず暁ちゃんに近いた。

「か……っ鍵!!」


オレンジ色のリボンがついてる。
銀のキー。どこの、なんて聞かなくても予想はつく。

でも、ずっと……約3年間、「合い鍵が欲しい」と言い続けて、一向にくれなかったのに。

「な、なんで?どういう心境の変化なのー?」

部屋だって、数えるくらいしか入れてくれたことないのに!びっくりだよ!

ひとりであたふたしてると、暁ちゃんの手がわたしの頭を跳ねた。
暁ちゃんは、今でも、頭を撫でるよりも、ポンってするほうが多い。


「綾、がんばったから、ごほうび。欲しいって言ってただろ」


…きっと、がんばったって言うのは、専門学校のことだと思う。

高校生になってから、家族と自分には毎日、暁ちゃんには週に2回、お弁当を作るようになった。そしたら、単純に料理が好きになって、進路もそれで決めた。

だからたぶん、進路ってよりも、夢も膨らんだことへの“ごほうび”なんだと思う。


「あ、ありがとう。中華はまだ苦手だけど、がんばってみマス……」
「たのしみにしてるよ」

もうすぐ高校を卒業して、専門生になる。暁ちゃんには追い付けないけど、確実に大人に近いてる。

子供じゃない。大人になる。なっていく。それへの嬉しさと不安は未だに消えてないけど、それに踊らされるほど弱くもないし、愚かでもない。

嘘偽りや理不尽な言い訳ばかりだった自分のことは忘れていないけど、もうここにはいない。

でも、この18年間を過ごしてきたわたしがいたから、暁ちゃんがわたしのそばにいるんだよね。


「……まぁ、俺のためでもあるんですが……」
「え?なんか言った?」
「…いや、なにも?」

うっかりまた近くと、くちびるに短いキスをひとつ、落とされた。

う。ちゅー、久しぶりなんですけど。


「ばか、するときは言ってよ!もったいない!急にされると覚えてられないのに!」
「だから、覚えておかれてもいやなんだけど」
「だって、暁ちゃんのキスはレアだもん!魔法なんだもん!」

暁ちゃんの魔法の手から落ちてきた、スペアキーをにぎりしめる。

暁ちゃん、すきです。
3年経っても、あの頃と変わらない。
わたしが優しくあるために、必要なひと。


「今日帰ったら、もっと魔法を見せてやるよ」



暁ちゃんは、低い声で、わたしの耳に、こっそりとそうささやいた。


2013/07/16




魔法いっぱいの近い未来
(オレンジワルツ)


‐‐‐‐‐‐
拍手ありがとうございます!
しばらく更新できなくてすみませんでした(´・ω・`)オレンジワルツの綾と暁ちゃん先生の、本編から約3年後のお話でした。

たぶん、綾が専門を卒業して高級レストランに就職して1年くらいしたらふたりは結婚しますね。暁ちゃん先生はいくつでしょう?(笑)

意外にもうれしいことに、ファンが多いふたりの話でした。最後の暁ちゃん先生の一言が、綾が一応一般的な学生を終えるからやっとヨシを自分に出した図です(←わかるひとには意味わかるでしょう。わからなくても支障はまるでないですー!)しょうもない話になってもうしわけないですー!

次回の更新は8月半ばを予定します。
拍手本当にありがとうございました\(^o^)/

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